第1話 荒野の町のミートソースパスタ 02
「この挽肉、挽肉のクセに味の主張が強いな。まあ味は濃い方が好きだから良いけど」
混ぜ合わさったミートソースパスタをフォークで巻くこと無く、櫛状の先端に麺を引っ掛けて次々と口に運びながら、レンタロウは咀嚼をする。
カラカラ牛の肉は脂身や肉汁が少ない分、普通の牛肉に比べるとジューシーさは劣るが、しかし身の細部に少量ながらも濃厚な旨味成分が凝縮されているため、味の濃いヒアガリトマトに顔負けしない程の肉の味を引き出すことが出来るのだ。
「暑いとサッパリした物を食べがちですけど、これだけ暑くて汗が出ちゃうと逆に濃いものが欲しくなりますよね」
「濃い物だけに恋しくなるってか?」
「全然面白くないですよ」
「フン、お前に笑ってもらおうなんて思っちゃいないさ」
「はいはい」
思ったよりサヤカへのウケが悪かった事を気にして、レンタロウはパスタにフォークを突き刺しては口の中に放り込み、芯のあまり残っていないモチモチと柔らかめの食感がする麺をガツガツ頬張った。
「はあ、食った食った」
ハイペースのまま食べ切ったレンタロウは、フォークを空になった皿の上に置くと、満足そうな表情をして椅子の背もたれに体重を掛けた。
「頂きました」
それからサヤカも食器の上にフォークを置き、室温で先程よりも更にぬるくなってしまったグラスの水をグイッと一気に飲み干したが――
「お前ちょっと残してるけど、もしかしていつものか?」
レンタロウはサヤカの食器に丁度一口分だけ残っているミートソースパスタを、片眉を上げて見ながら言うと、サヤカは首を縦に振った。
「ええ、そうです」
するとサヤカは懐から透明な小袋を取り出すと、その中に残したミートソースパスタをフォークで掬い、食器に残す事無く綺麗に入れ始めた。
「それ、止めたらどうだ? 飯ってのは店の中で全部食っちまうのが礼儀って奴だろ?」
「それはそうかもしれませんけど、これがワタシの食べ方なので」
「だけどなんつーか……変だろ?」
「フブキさんが何でも混ぜ合わせるのを止めたらワタシも止めますけど?」
「ソイツは御免被る!」
「だったらワタシも御免被り返させてもらいます」
「チッ……!」
レンタロウは舌打ちをし、腕を組んでそっぽを向いてしまったが、サヤカはそんなレンタロウの事を特に気にもせず、ミートパスタの入った小袋のジッパーを閉じる。すると小袋は自動的に袋中の空気を抜き始め、真空状態になったのを確認すると、サヤカは再び小袋を懐にしまった。
「お待たせしましたフブキさん。では行きましょうか」
「ああ、お姉ちゃんお勘定」
レンタロウは椅子の背もたれから背中を放し、体を捻って右手をヒラヒラと軽く振ると、ホール内を早足で歩き回るウェイトレスがそれに気づき、スタスタと歩み寄って来た。
「お会計1800リョウです。ではナノデジを読み込みませていただきますね?」
「ああ」
「失礼します」
ウェイトレスは自分の右人差し指をレンタロウの首元に近づける。するとレンタロウの体内に取り込まれているナノ・デジデバイスが反応し、ナノデジ内に登録されている電子通貨、リョウが1800リョウ分差し引かれた。
「領収データは?」
「ちょうだい。宛名は上様、但し書きは飲食代でね」
「はい――では、送りますね」
ウェイトレスはナノデジ内で瞬時に発行した領収データをレンタロウのデバイスへと送り、人差し指をレンタロウの首元から放す。それから「ありがとうございました~」とニコッと笑いながら一礼し、踵を返して他の接客へと赴いた。
「そんじゃ、行くか」
「はい」
二人は古い木製の椅子から立ち上がると、店を出る。外は室内よりも更に気温が高く、42度にまで差し迫っており、カンカン照りの昼間の荒野の強い日差しが、二人の肌に容赦無く突き刺さってきた。
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