エピローグ『楽しみな気持ちを胸に帰路に就いた。』

 火村さんと葉月さんと会えたし、2人も既にお昼ご飯を食べ終わったそうなので、みんなでコアマを廻ることにした。みんな、これまでずっと東展示棟にいたので、西展示棟を廻ることに。

 東展示棟も人がいっぱいで賑わっていたけど、企業ブースもある西展示棟も同じくらいに賑わっている。個人的には馴染みのあるコアマの景色だ。

 西展示棟のサークルスペースを廻った後、企業ブースへ。恋人と一緒に企業ブースに来られる日が来るとは。

 午後になったのもあり、待機列が全くなかったり、両手で数えるくらいしか人が並んでいなかったりする企業もある。

 企業ブースを廻る中で、俺達はクリアファイルやアクリルスタンドといったグッズを購入した。どのブースもすぐだったり、数分ほど並んだりすれば買うことができた。どうしても欲しいグッズがなければ、こうして午後に企業ブースをゆっくりと廻るのもありかもしれない。

 企業ブースを一通り廻ったので、企業ブースの横にある屋外のコスプレエリアを通って帰ろうということになった。

 コスプレエリアに行くと……人気アニメや漫画などのキャラクターはもちろん、メイドやセーラー服などといった王道のもの、実在の人物や人外ネタのおもしろ系など多種多様なコスプレをしている人達が一堂に会している。コスプレしている人の写真を取る人も多くて賑わっている。楽しそうにしている人が多いから、とてもいい光景だ。また、


「あのメイドさん、セクシーで可愛いわ! 氷織が着たらきっと可愛いと思うわ! メイドさん氷織にご奉仕されたいわ!」

「あのみやび様のコスプレをしている人可愛いわ! 氷織が着たらきっと似合うでしょうね!」

「マジキュアのコスプレも可愛いわ! 氷織が着たら可愛くて人気間違いなしよ!」


 などと、火村さんがコスプレしている女性達を見て大興奮。氷織が着たら可愛いだろうと言うところが火村さんらしい。色々なコスプレ衣装が氷織には似合いそうなので、火村さんの言葉に俺は何度も頷いた。

 火村さんに似合いそうとか可愛いとか色々と言われていたけど、氷織は楽しそうな様子でコスプレしている人達を見ていた。


「いやぁ、コスプレエリアではヒム子のテンション爆上がりだったッスね。毎度のことひおりんに似合うって言うところがヒム子らしいッス」


 コスプレエリアを通り抜けた直後、葉月さんはとても楽しそうに言った。


「俺も同じことを思ったよ、葉月さん」

「だって、氷織に似合いそうなコスプレがいっぱいあったんだもの! あたしの脳内では色々なコスプレをした氷織がいるわ!」


 コスプレエリアで見たコスプレ衣装に身を包んだ氷織がいっぱいいるのか、火村さんは恍惚とした笑みが浮かんでいる。そんな火村さんを見て、氷織は「ふふっ」と上品に笑う。

 葉月さんと一緒にサークルを廻って同人誌を買ったし、企業ブースではグッズも買ったし、コスプレエリアでは興奮していたから、俺達の中でコアマを一番楽しんだのは火村さんかもしれない。


「紙透。2学期になって、文化祭の出し物を決めるときにはメイド喫茶かコスプレ喫茶を提案するわよ! 氷織のコスプレした姿を見たいし、接客されたいから! それに、氷織と一緒にコスプレしてみたいし」


 とても力強くそう言うと、火村さんは俺の左肩をガッシリと掴んだ。火村さんはやる気に満ちた様子になっていて。

 文化祭か。秋に開催されるのもあって、クラスの出し物は2学期になってから決める。だから、メイドをはじめとしたコスプレした姿の氷織を文化祭で見られる可能性はある。とても魅力的だ。


「そうだな。氷織が嫌じゃなければ、メイド喫茶やコスプレ喫茶はとてもいいな。俺も見てみたい」

「さすがは紙透! 話が分かるじゃない!」


 火村さんはニコッと笑いながらそう言い、俺に向かってサムズアップする。


「氷織なら色々なコスプレが似合いそうだからな」

「確かに、紙透君の言う通りッスね。ひおりんは美人で可愛いッスから。スタイルも抜群ッスし。ヒム子も色々なものが似合いそうッス」

「確かに、火村さんも色々似合いそうだな」

「2人がそう言ってくれて嬉しいわ」

「嬉しいですね。……コスプレエリアでは可愛いコスプレをしている人がいっぱいいました。あの光景を見ていたら、私も文化祭やハロウィンなどでコスプレしてみたいなって思えました」


 氷織はいつもの優しい笑顔でそう言う。

 思い返すと、コスプレエリアでは氷織はコスプレする人を楽しそうな様子で見ていたな。コスプレしていた人達の多くは楽しそうにしていたし、あの光景を見て自分もコスプレを体験したい気持ちになれたのかも。


「コスプレしてみたいって言ってくれて嬉しいわ、氷織! 2学期が楽しみになったわ!」


 ワクワクとした様子になる火村さん。まるで、もう文化祭でメイド喫茶かコスプレ喫茶をやるのが確定した感じになっているけど。実際にそうなったら嬉しいな。

 コスプレのことや文化祭のことを話していたら、気付けば最寄り駅の国際展示ホール駅が見えてきていた。


「ねえ、みんな。帰る前に4人で国際展示ホールをバックに写真を撮らない?」


 火村さんは立ち止まって、俺達にそんな提案をしてきた。4人で初めてコアマを廻った記念に写真を撮りたいのかもしれない。


「いいですね、恭子さん!」

「いいッスよ!」

「ああ、いいぞ」

「ありがとう!」


 火村さんはとても嬉しそうにお礼を言った。

 その後、俺達は火村さんのスマホで、東京国際展示ホールをバックに自撮り写真を何枚か撮影した。その写真はLIMEで俺達のグループトークに送ってもらった。


「いい写真を撮れたわ。……今日はとても楽しかったわ! 沙綾と一緒に同人誌を何冊も買えたし、グッズも買えたし、氷織とも会えたから」

「あたしも楽しかったッス。目当ての同人誌の多くを買えて、並んでいるときもヒム子と漫画やアニメのことなどでたくさん話せたッスし。ひおりんに同人誌を代理購入してもらえたッスし。この4人で会場を廻れたッスから」

「私も楽しかったです! 明斗さんとコアマデートをしながらお目当ての同人誌を全て買えましたし。沙綾さんには同人誌を代理購入してもらえて。沙綾さんと恭子さんと4人でも会場を廻れましたからね」


 3人ともいい笑顔で今日のコアマの感想を言う。みんなとても楽しかったのだと分かる。まあ、感想を聞かなくても、会場の中では3人とも今のような笑顔をたくさん見せていたから、コアマが楽しかったことは十分に分かっているけど。


「明斗さんはどうでしたか?」

「俺も楽しかったよ。氷織と初めて同人イベントデートができたし。いくつか同人誌を買ったしな。この4人で廻るのも楽しかった。こういう時間を過ごせたのは氷織が誘ってくれたおかげだよ。氷織、ありがとう」


 氷織の目を見ながらお礼を言い、俺は氷織の頭を優しく撫でる。そのことで氷織の笑顔は楽しげなものから柔らかいものに変わっていく。


「いえいえ。明斗さんも楽しんでもらえてとても嬉しいです。こちらこそありがとうございます、明斗さん」


 氷織は優しい声でお礼を言うと、俺にキスしてきた。

 唇から伝わる柔らかい感触や氷織の優しい温もりが心地良くて。早朝から外出していたし、暑い中ずっといたので疲れもあったけど、氷織からキスされたことでその疲れが抜けていくような気がした。

 数秒ほどして、氷織から唇を離す。目の前には頬を中心にほんのりと赤らんでいる氷織の笑顔があって。そのことにも癒やされる。


「では、帰りましょうか」

「そうだな、氷織」

「帰ったらさっそく同人誌を読むッス!」

「あたしも読むわ!」

「私も同人誌を読むのが楽しみです。読んだのはお二人を待つ間に明斗さんと読んだGL同人誌くらいですから」

「俺もまだ読んでいない同人誌が何冊かあるからな。読むのが楽しみだ」


 同人誌を読むのが楽しみな気持ちを胸に、俺達は帰路に就いた。デートから帰っても楽しみなことがあるのっていいな。

 駅のホームには非常に多くの人が電車を待っていた。それもあり、帰りの電車も途中までかなり混んでいて。それでも4人で話すのが楽しかったし、氷織と密着できたので苦だとは思わなかった。氷織や葉月さんは楽しそうで、火村さんは氷織とくっついていたから終始興奮していた。

 氷織との初めての同人イベントデートはとても楽しかった。これからも、一緒に同人イベントに参加したいなと思う。




特別編7 おわり

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