第11話 無能のクズと馬鹿にされ虐げられていましたが、俺だけ使える特殊加護が覚醒した結果、最強の加護に変貌しました。勇者パーティーは壊滅的らしいですが知りません。 ~俺から始まる絶対ルール~ 3



 冒険者ギルドで魔石の換金を終えた俺たちは、適当な酒場に入った。


「今日の戦果だ」


 サニスはずだ袋から、十八枚の銀貨と、八枚の銅貨を出した。

 そして順に、銀貨と銅貨を配っていく。

 銀貨を四枚と銅貨を二枚ずつ、配っていく。


「……え?」


 サニスは俺に、二枚の銀貨を手渡した。

 

「サニス、計算が間違ってる」

「はぁ? 何を間違えてんだよ」


 サニスを含め、キャロルもメリアもセレスティアも銀貨が四枚ずつ配られているのに、俺だけ二枚しかない。


「お前、もしかして自分にも等分に報酬が払われるとでも思ってたのか、クズ?」

「え……」

「んなわけねぇだろうが、ばぁか! 手前のせいでキャロルが死にかけたんだぞ。俺たちと同じ額もらえるわけねぇだろうが」

「……そんな」


 確かに、俺が戦況を見誤ったせいで、キャロルがケガをした。

 だが、あの時キャロルの一番近くにいたのは、メリアだ。俺がどうにか出来る問題じゃなかった。


「でも、メリアが――」

「黙れ」


 サニスが一喝する。


「加護無しの無能が俺に意見するな」

「…………分かった」


 俺はその要求を、受け入れることしか出来なかった。


「じゃあここでの支払いはお前が持て」

「……」


 無言。

 銀貨二枚ですら厳しいのにも係わらず、こんなところでも消費しなければいけないのか。


「おし、じゃあお前らなんでも頼んでくれ!」

「サニス、あんた本当良い男だね」

「サニス大好き!」


 キャロルとメリアがサニスにくっつく。

 俺は出来るだけ消費が少なくなるよう、最低限の食事だけでとどめておいた。


「あとで私の分も分けるね」


 セレスティアが俺に耳打ちする。


「大丈夫だよ、死ぬことはないから……」


 装備品を新調したかったのになあ。

 俺は憂鬱なまま、食事を続けた。



 × × ×



 翌朝。

 サクラメリア街中心広場の噴水へ俺たちは集まった。

 宿泊費がかかり、昨日の報酬はほとんどなくなっていた。


「おいクズ、これを持ってろ」

「……これは?」


 サニスから、袋を持たされる。何のためにあるのか分からない、胡乱な袋。


「良いから持ってろ」

「……分かった」


 特に断る理由もなかったので、懐に忍ばせた。魔物に襲われた時の起死回生の道具か何かなのかもしれない。

 そしてサニスは俺に興味を失ったのか、キャロルたちを見た。


「今日も大花の森ドアトールに行く」


 サニスはそう宣言し、両手剣を担ぐ。


「今日はいつものルートとは違う道のりで進むぞ」

「え?」


 セレスティアが呆ける。


「いつもいつも同じルートじゃ面白くないだろ? それに、違うルートで行けばまだ見つかってねぇ何かが見つかるかもしれねぇだろ」

「違うルートを通るのはいいんだが、もう少し下見をしてから……」

「そんな面倒なことしねぇよ。牙猪ファングボアの群れに囲まれたところで、俺がいればなんとかなるんだからよ」

 

 サニスは両手剣を俺の喉元に突き付ける。

 たしかに、サニス一人で牙猪ファングボアの群れを抑える程度の実力は、ある。


「ふふふ……サニスの言う通り」

「サニスさっすが~!」


 キャロルとメリアもそれに同調する。


「じゃあ行くぞ、お前ら!」

「おーー!」

「全く……サニスはリーダーシップがある」

「…………」


 俺の提案が否定されたため、サニスの後ろからついていく。


 頬を叩き、俺は気持ちを入れ替えた。

 昨日と同じような過ちは犯してはいけない。今日はきちんと戦況を見ながら囮役をこなさなければいけない。


 サニスを先頭にして、俺たちは再び大顎の子守歌へと向かった。



「クズ、先の様子を見て来い」

「……分かった」


 森の奥深くまで立ち入り、斥候の役目を言い渡される。

 ある程度魔物の討伐が済んだところで、次の魔物の標的を見つけるまでが、俺の仕事だ。

 俺は草木をかき分け、前へ前へ進んでいく。その間サニスたちは一体何をしているんだろうか。


「……ふぅ」


 魔物はいない。気配を消し、木を飛び移りながら魔物を確認するが、油断してはいけない。前回は上空から突如として降りかかった魔物に腕を切り裂かれ、セレスティアの世話になってしまった。

 木を飛び移っている間でも、上からの攻撃にも備えなければいけない。

 五感だけは良い。自分の感じたものを信じて、気を緩めることなくただ進むのみだ。


 進む。進んで進んで進んで、進む。

 魔物の存在が感じられない。気配すら、全く感じられない。森の奥地にはもう魔物はいないのだろうか。進めど進めど、同じような景色が続く。

 長い距離を、俺は走っていた。


「……っ」


 一体どのくらいの時間が経過しただろうか。

 俺は遥か先に、牙猪ファングボアを視認する。

 魔物の視覚よりも俺の視覚の方がはるかに優れているため、魔物に気取られることはない。


「二体……?」


 森の中に開けた平地があった。

 花が、咲いていた。大輪の花が、一面に咲いていた。花で埋め尽くされている。


「こんな森の奥に……」


 今まで木と草でいっぱいだった森の奥に、こんな場所があるとは知らなかった。

 二体の牙猪ファングボアは、唯一花の咲いていない丘上で、休んでいた。

 丘上に、一本の大きな樹が屹立していた。その樹に寄りかかるようにして、牙猪ファングボアが眠っている。


「不思議な場所だ……」


 どこか、落ち着くような気がする。安堵感が胸に充足する。この場所なら俺は何でも出来るんじゃないだろうか。今ならあの二体の牙猪ファングボアも倒せるんじゃないだろうか、そんな気持ちになる。

 荒涼とした魔物の棲家にはあまりにも似つかわしくない、牧歌的空間。花の蜜の甘い匂いが、俺の鼻腔をくすぐる。


「取り敢えず帰るか……」


 そんな根拠のない自信で斃せるほど、牙猪ファングボアはやわじゃない。俺はサニスたちの下へ戻ることにした。


 

 × × ×



 やはり帰り道も長かった。俺は長い道のりをかけて、サニスの下へ帰ってきた。


「サニス」

「手前、遅ぇんだよ!」


 サニスが俺の胸ぐらを掴む。


「手前が帰って来ねぇと俺らが進めねぇだろうが! さっさと帰って来いこの無能が!」

「魔物がいなかったんだよ」


 何故だか、妙に森閑としている気がする。


「はぁ? 一匹もか?」

「いや、ここを行ったずっと先に二匹の牙猪ファングボアはいた」

「いるじゃねぇかよ!」


 サニスは両手剣を担ぎ、立ち上がった。


「でもサニス、なんだか様子がおかしい。このルートは止めよう。胸騒ぎがする」

牙猪ファングボア二体ごときで何怯えてんだよ」

「だっさ」


 キャロルが鼻で嗤う。


「いや、違う。道なりに魔物がいないんだ」

「良いことじゃねぇか」

いなさすぎる・・・・・・んだよ。ここは何かおかしい」

「このままおちおち帰ったら今日の収穫がなくなるだろうが! 昨日もまともに魔物と出会ってねぇんだぞ!」

「まだ皆は金銭に余裕があるはずだ。ここはもっとゆっくり、慎重に」

「俺に意見するのか?」


 サニスが俺の額に自身の額をぶつけてくる。


「クズが俺に意見してんじゃねぇよ」

「…………く」


 サニスの言葉に、俺は一歩退く。


「分かった……。じゃあそれで良い」

「いちいち時間取らせんじゃねぇよ。行くぞお前ら!」

「足引っ張らないでくれる?」

「だっさ~、あははは」


 キャロルとメリアがサニスの後を追う。


「クレイ……」

「良い……行ってくれ」


 俺とセレスティアも、その後を追った。




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