第2話 隕石の落下

 ――ことの始まりは、2カ月ほど前になる。

 

 県内のごく近い場所に隕石が落下したのが10月5日。山奥だったこともあり、落下による死傷者は出なかったようだ。

 しかし安心したのもつかの間、翌日になって事態は急変した。発端となったのひとりの男性だ。男は夢遊病にかかったようにふらふらと歩いているのを目撃されていた。そのままゆっくり隣家に向かい、その家の女性に襲いかかった。


 大きな物音と叫び声がしたという通報を受け、警察が駆けつける。男性は完全に理性を失っており、女性を「食っていた」らしい。その場で男性を逮捕された。女性の生存は絶望的と思われたが、救急車両にて病院に搬送される。しかし、――その救急車両が病院に到達することはなかった。


 当時の記録は残っていない。でもその後、街におこったことから考えれば何がおきたかは想像はつく。彼女は搬送される途中でよみがえったのだ。そして救急隊員に襲いかかったのだ。襲われた隊員たちが死亡し、よみがえり、街に放たれた。そしてねずみ算式に『生ける屍』を生み出した。


 原因がその隕石なのかどうかは定かではない。しかし隕石の落下を契機にして、この街に『ゾンビ』が発生したのは間違いないようだった。



 隕石が落下した日のことはよく覚えている。


 偶然に過ぎないけれど、ちょうど彼女とつきあって5年になる記念日だったからだ。カップルによって色々だと思うけれど、5年もたてば仰々しいお祝いは必要ないだろう、ということで僕らの意見は一致していた。もちろんプレゼントもない。


 それでも、せっかくだからどこかにご飯くらいは行こうと彼女が言ったので、近くの大型ショッピングモールに新しく入ったイタリアンの店にいくことにした。無事に食事をおえ、電化製品のフロアを通り抜けていたとき。何人かの人がテレビの周りに立ち止まり、ニュースに耳を傾けていた。その人だかりに彼女が気づきテレビをのぞき込む。そして僕に話しかけた。


「ねぇこれ見てよ。隕石が落下してきたんだって。しかも県内……っていうか、これすぐ近くじゃん……」


「うわっほんとだ。ひどいね。木とかすごい倒れてる。あ、でも誰も死んだりしてないのか。――あるんだね。いきなり隕石が降ってくるなんてことが」


「隕石が接近してくるとかって、意外とわかんないもんなのかな?」


「被害は結構大きくても、隕石自体はすごく小さかったりするし、観測しきれないんじゃない? まあでもほんと誰も死んだりしてなくて良かったね。これ市街地だったら何人も死んでてもおかしくない」


「ほんとね。――でもさ」


 彼女はいたずらっぽく微笑んでいった。


「――パンデミック映画ならここからが本番だからね」


 その冗談に2人で笑ったのを覚えている。彼女のつぶやきがまさか現実のものになるなんて、その時は思いもよらなかった。

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