のじゃロリ魔王に最強スキルを貰って異世界転生した俺が気付いたら悪役令嬢と一緒に銀行強盗していた件【season1完済】
ばらん
エピローグ 異世界転生する前に
薄暗い部屋の中にカチャカチャと軽い音が響く。
格闘ゲーム『ウォーガイズ』。全盛期程の活気はないが、インターネット対戦の募集をかければ一分と掛からずに相手が見つかるぐらいには活気が残っているゲームだ。
「・・・・・・よっ・・・・・・しっ」
辛勝した俺は小指と薬指が痛くなるほど強く握っていたアーケードコントローラーを解放してほぅと息を吐く。
モニターの右上を見ると時刻は午前三時を回っていた。この分だと明日も学校を休む事になるだろう。
本日の目標全国ランキングトップ600入り! と、意気込んだはいいものの、眠気からか負け続けて628位だった順位は683位に。三戦前から調子が出始め、次の試合に勝てれば660位台には戻れると言ったところだった。
深夜三時、薄暗い部屋の中で負けられない戦いが始まる———
『チャレンジャー! 』の合図と共に対戦相手が現れる。
筋骨隆々な巨漢、パンツ一丁でありながら、その姿は誰が見てもかっこいい。高い体力と一撃の重さが持ち味のパワータイプ、グレゴリオだ!
それに対して俺の持ちキャラは細身の剣士、彼が持つ黒剣はすべてを切り裂く。素早い移動速度と手数の多さで戦うスピードタイプ、シュレイドだった。
カチャ……カカ、カチャカチャ……熱くなり過ぎるな俺。
相手はパワータイプ、ならミスをしない事が大事だ。
試合は1対1の最終戦、二戦目でミスって負けたので、若干相手に流れが来ている。
そのまま試合は相手のペースで進み、じわじわと俺のシュレイドの体力が溶けている時だった。
見えた———
「あっ」と思わず声が出る。偶にあるんだよこういう事が。
直感的に未来を察知する。
それは感と言うにはあまりにも確かなビジョンで、人間不信ぎみな俺ではあるけれど、この直感はまるでベッドに飛び込むかの様に信用できた。
直感———具体的にはこうだ。
シュレイドはこの後グレゴリオの強攻撃を食らってダウンする。
グレゴリオはシュレイドが起き上がるタイミングで掴みではなく必殺技を使ってくる。
シュレイドは必殺技をガードし、隙を突いてラッシュ、俺の勝ち!
それじゃあこの俺の『完全幻視パーフェクトビジョン』のシナリオ通りに進む現実を見ていこうか!
シュレイドが強攻撃を食らってダウン。
グレゴリオがシュレイドの起き上がるタイミングで掴み———あれ……?
結局読みは外したが、その後何とか逆転して勝った。
手汗を服の裾で拭きながらモニターを凝視する。
「ハァ……ハァ……さてどんくらい上がるかな」
今回の勝利ポイントが加算され、俺のランクは666位になった。
・・・・・・あれ?
暗闇。
・・・・・・ここは何処だ?
暗闇。
・・・・・・さっきまでウォーガイやってた筈なんだが?
暗闇。
……俺の部屋と対して暗さ変わんねーなぁ。
暗闇。
……夢だろうと思っている。多分寝落ちしたんだ。
対戦中じゃないといいなぁ、せっかくランキング上げたし落としたくねー。
「汝よ、我が声が聞こえるか? 」
真っ暗闇に唐突な声。びっくりした。人の夢に入る時にはノックぐらいして欲しい。
びっくりさせられて多少腹が立っったので、意味不明な事言って逆にビビらせてやるぜ!
「お前はもう、俺様の暗黒術式に囚われてるぜ! 」
暗闇に叫ぶ。ヤバい奴度なら大抵の奴には負けない自信がある俺だ、相手はビビッて逃げるだろう。
しかし声の主は俺の期待を裏切った。
「おお! 暗黒術式とは分かってるでは無いか! ならばこちらも最強のヴォルカニックスピアで———」
相手にノリノリになられて今度はこっちがビビる。
「えっ、あのその……」
「かかっ、冗談じゃ。まぁいい、手を伸ばしてみよ」
冗談かよ……
そして手を伸ばせか……何がどうなってるか分からないが、どうせこの暗闇でやる事など他に無い。
俺は文字通り闇雲に手を伸ばした。
「手を伸ばしたぜ! 」
「汝もうちょい右じゃ」
「もうちょい右に伸ばしたぜ! 」
「汝もうちょい前じゃ! 」
「もうちょい前———」
むにゅん。
伸ばした手は何か柔らかいものにぶつかって止まった。
「な、何処触ってんじゃ馬鹿者ー! 」
「え? これを揉めばいいんですか?」もにゅもにゅ・・・・・・
「絶対分かってやっとるじゃろ汝いいいいいいい! 」
と、まあなんやかんやあって暗闇は晴れ、俺は幼女の前で正座していた。
暗闇が晴れたと言っても、ここは何も無い空間だった。
全てが真っ白で、俺とあの声の主の幼女だけがこの世界で色を持っている。
目の前の声の主を見る。
背丈は俺の腰ほどまでしかなく、彼女が立ち、俺が正座していないと顔も見れない程だ。
この白の世界に溶けてしまいそうなほど淡く長い白髪に、キッっと鋭い血色の瞳。
その瞳の赤はとても深く、人と基本的に目を合わせない俺ですら飲み込まれそうだった。
加えてのじゃ口調も気になる。
端的に言って萌えなのだが、彼女が放つ圧倒的プレッシャーの前では素直に萌えられない。
「のじゃロリもいいもんだな、声に出したらぶっ飛ばされそうだけど。」
「声に出とるぞ・・・・・・」
「あっ、すいません・・・・・・」
「あと我の顔をじろじろと見るでない、不完全形態の姿など恥でしかないわい。」
「俺は結構良いと思うっすよ、のじゃロリ」
「にゃ、なにを言っとるんじゃお主は! 開き直り過ぎじゃ!」
「初見時のプレッシャーにやられてもう漏らしてるんでね、もう何も怖くない! 」
プレッシャーでプッシャー! なんちって。
これは間違えても声に出さないけど。
「我はお主が怖いよ・・・・・・」
無敵系主人公でごめんね。
「で、そういえばここ何処ですか? 」
「そうじゃな……我がちょっとした魔法であやつの固有魔法を引き出して作った———うむ、強いて言えば何処でもない場所じゃ」
詩的な表現だった。
「じゃ、じゃああなたの名前は?あっ俺は馬鹿山田馬鹿男って言います」
「我は魔王ソウルテイカーじゃ」
うお……
「かっこいい! 俺もそんな名前に生まれたかった……」
「なんじゃ? 名前が気に入らないなら他の名前を名乗ればよかろう」
なんて事ないという感じで言ってのける。
この時点で俺はこの幼女が若年性中二病かガチ魔王か判断し終えていた。
「じゃ、じゃあ俺にかっこいい名前付けて下さいよ。ソウルテイカーに並ぶ位かっこいいの! 」
「ヴォルカニックスピア丸とかどうじゃ? 」
適当過ぎるだろ。
「ちっ、まぁ良い名前っすねー、5点」
「はぁ~。そのクソ程不遜な態度、あやつを思い出すのぅ……」
ソウルテイカーたんがクソデカいため息を漏らした。
そして頭を抱えてじたばたした。
かわいい。
「そろそろ本題に入って良いかの? 」
「えー、もうちょっとダラダラ喋りません? 」
本題に入るとこの楽しい夢が終わってしまう様な気がしたから。
久々の良い夢を終わらせたくないから———
「悪いがもう時間が無いのじゃ……」
すまなそうに目を伏せるソウルテイカー。
「時間無いなら名前付ける下とかやってる場合じゃなかったっすね。」
「おまえ…おまっ……お前えええええええええええええええ! 」
「お前には我の力を継承し、我の世界———お主的には異世界か、に行ってもらう! 」
「へ? 」
思わずアホ面になってしまう俺と真剣なソウルテイカーたんが対照的だった。
「実は我はもう死んでいるのだ! 」
「へ? 」
思わずアホ面になってしまう俺と真剣なソウルテイカーたんが対照的だった。
「黒き勇者と相打ってな……」
「へ? 」
思わずアホ面になってしまう俺と真剣なソウル———
「ええい! 何度同じ下りをやるつもりじゃ!」
「ああ、いや、ちょっと情報のスケールがデカ過ぎて脳のcpu稼働率が100%超えちゃって……」
つまり、つまるところ、ソウルテイカーは何が言いたいのだろうか?
じっと見続けていると赤面したソウルテイカーはプルプルと震えだして———
「色々頑張って強くなったけど勇者と相打ちして死んじゃって悔しいからせめて自分の力を誰かに継承して残したかったんじゃよ! 言わせんなバカ!鈍感!」
成る程……
「つまりソウルテイカーが築き上げたヴォルカニックスピア道の先を見てこいと———」
「いやそうだけどさっきのセリフからそれを言い当てるのは察しが良いどころか読心術のレベルじゃろ……」
ドン引きするソウルテイカー。
すまんな、俺は鈍感系じゃねぇんだわ。
「まっ、我が死んだ後のことだし気楽に行ってくるがいい。我の最強スキルもくれてやるしの」
気楽にやっていいなら……
「異世界転生ってやつっすか、いいっすね。それでスキルってのは? 」
ラノベで読んだやつだ。
やれるならやってみたい。
「全ての魔法を我と同じ最強レベルで使える、あと魔力無限」
チートみてぇだ……
「くくっ、凄いじゃろ? 最強じゃろ?」
ソウルテイカーは楽しそうに笑う。
「凄え美味い話っすね」
素直な感想だった。
「信用できんか? 」
「そうでもないっす、ソウルテイカーさんめっちゃ強そうだし……こんだけ力の差があったら嘘つく意味も騙す価値もないっすもん」
どうやら俺の目は幼女相手でも分析を辞めなかったらしく、それっぽ理屈が口から飛び出した。
「かかっ、……正直今までの言動でお前を選んだのを後悔しとったんじゃが、どうやら杞憂だった様じゃ」
我に間違いはないのだと、腰に手を当ててソウルテイカーが威張る。
ぷにぷにしたお腹が張ってえっちだな……
「じゃあ、そろそろ行ってもらうかの」
最後に、お主の新しい名前と身体に魂を移すぞ。
と、ソウルテイカー。
新しい名前ヴォルカニックスピア丸とかじゃねぇよな……?
馬鹿山田は予感した、以降、ソウルテイカーとはもう会えないと。
もう死んでるんだっけか、だとしたらもう会えないはおかしな話だな……
「あの、ソウルテイカーさん! 」
「ん、なんじゃ? 」
「なんか、ありがとうございました」
お礼は言っときたかった。
楽しい夢だったし。
なんか言わなかったら後悔しそうだし。
もう会えないんだし。
「かかっ、では行ってこい。最強の魔王が残した最後にして最強の残骸、シュレイドよ! 」
ソウルテイカーは馬鹿山田———シュレイドを笑って送り出す。
そりゃあもう、魔王みたいな凶悪な笑みで。
おまけ
悪役令嬢セレーネとは私の事だ。家名は無い、剝奪された。
貴族序列トップ10に入るほどの名家、ゴージャス家に生まれ、何不自由なく生きてきた私の人生はほんの些細なことでガタガタに崩れ去る。
たまたま宮廷を歩いている時にぶつかってきた使用人をひっぱたいたら、その使用人は王子のお気に入りだったらしく、翌日には私の打ち首が決定。
私は屋敷の窓ガラスをぶち破り国外逃亡。
今は田舎町の冒険者ギルドの天井裏で寒さに震えていますわ。
「何故私がこのような目に・・・・・・」
逃亡中に汚れたらドレスを買い替えたりで路銀は底をつき、もう三日は何も食べていない。
埃っぽい室内に溜息が溶けていく、こうしていると未来への不安で頭がいっぱいになってダメだ。
「下の冒険者ギルドで依頼を……ううっ、でも」
せっかく思い付いたアイデアも、余計な感情が邪魔して実行に移せない。
このまま餓死するまでここでうずくまっているだけなのだろうか?
「ドレッド、貴女のところへ行くのも思いの外早くなっちゃいそうですわね……」
しかしセレーネの想像とは違い、意外と沈黙の時間はすぐに終わりを迎えることになるのだが、今の彼女に知る由はない。
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