第129話 魔物と人間の混血

「知ってるか?あいつのうち、もともと人間と魔物のハーフから生まれたんだってさ!」

「えー!じゃあ純粋な魔物じゃないの?」

「魔力も弱くて嫌われてるんだって」


いつもの事だった。

自分の事を知らない人達からは、同年代からも大人からも噂程度の事でそれが独り歩きしていき、悪口を言われたり酷い時は暴力を振るわれたリした。

祖母が人間だったというだけで、暁人がなんと言おうともその生い立ちからは逃げられる事はない。

その点においては人間も魔物も大して変わりはない。

置かれていた状況をとても悔しく思い生活していた。

母は暁人を産み落とした後亡くなっており、父は行方不明とされていた。

現状自分の事を分かってくれるのは、孤児だった暁人を部隊に所属させてくれたヴィラル隊長とその部下たちだと思っていた。

日々与えられる任務をこなし、報告がきちんとできれば褒めてもらえる。

自分の居場所はそこなのだと思っていた。

自立しているといえばそうかもしれない。

同年代の子と比べて大人っぽいとはよく言われていたし、暁人にとって交流するなどの特に必要のない事はやらなかった。

それに興味もなかった。

それで生活が成り立っているなら、何も問題はなかったのだ。

打って変わって人間としての学園生活は、なかなかに最初はわからないことだらけだった。

そもそも学校という文化に対して予め下調べをしたが、実際に体験すると調べた資料には書いていないことばかりだ。

なぜ集団で行動するのか、知識を得るなら1人でもできるのに…そう思った。

一人で生活だってできるだろう、他の人に料理を作ってもらう意味もわからない。

だが実際に目の前で起きていることであり、一人で全てをしなければならなかった暁人からは信じられない程、人間とは甘ったれた生き物なのだと思った。

だがそう思うのは、自分が部隊に所属し普通の子どもとして生活を送ってこなかったからなのだろうか?

本当だったらこの生活が普通なのだろうか…。


「学園生活には少しは慣れましたか?」

「え…、まぁ…そこそこ」


亮に質問され、なんだよその質問はと言わんばかりの声で暁人は返した。

出会ってから数か月も経てば少しは人間とのやりとりもスムーズになり、今は人間として生活しているという事も自然に身体に染みついてきていた。

最初は苦手だった歌も、段々と慣れ副作用もなく聞けるようになった。

実は最初は音楽の授業に出る事が出来ず、保健室で休んだり音楽がある日は休むなどの対策を取っていた。

だが、亮と出会い歌を聞いているうちに身体に耐性ができたらしい。

暁人にとって人間として生活するために亮の歌は必要不可欠なのだ。


「そういえばそろそろ昇級試験を受けるって言ってましたね」

「あぁ、ここでの生活も慣れてきたし、いつまでも一番下というのは嫌だからな」


昇級試験に受かれば、亮と同じBクラスに上がれる。

学園に入学してすぐBクラスに上がってしまった亮に比べたら、特異体質のせいで試験を受けるのが遅くなってしまったが、それでも自分の成長を感じられていた。

それに亮達の持っていたマイストーンの腕時計の詳細も気になっていた。

スパイとして潜り込んだ人間の血が混ざっている魔物が、それを得られるのだろうか。

もしそうなったとしたら、上に報告しアイテムを渡すべきなのだろうか?


「楽しみですねー、神無月くんのは何のマイストーンになるんでしょう」

「俺が落ちないって前提で話すんだな」

「そりゃあそうですよ、だって図書室とかでよく見かけてますし、頭が悪そうな人に見えませんから」

「ほう…?」

「頭の悪い人は行動や会話からして違いますし、図書室で何かを熱心に調べたりもしませんよ。見えない部分がありますから、その人が何を考えていて頭が悪いように振舞う事はあるかもしれませんが、僕が感じたのは神無月くんは僕が一緒させていただく先輩達みたいな雰囲気を受け取ります」

「先輩?」


亮は白羽や静羽のメンバーの事を暁人に話す。

Sクラスのメンバーが殆どで、実力も頭もいいのだと話した。

少し前に御前試合があって、その渦中にいた人達のことかと暁人が尋ねるとその通りだと返す。

あの時は単純に歌のイベントが嫌で、特に必要性も感じ無かったことから学園内をぶらぶらとしていただけだった。

御前試合の時には少し興味があったものの、会場まで行くことはなくモニターで様子を見ていたが、さすがにあれだけ大きな騒ぎになると暁人も少しびっくりはしたようだ。


「でもなんで亮はそのSクラスの先輩達と話したりできるんだ?普通に生活してるだけだったらあんまり接点なさそうなのに」

「あぁ、それはですね…今はSランク6位になった桜川さんが、もともと僕と入学時期も一緒でクラスが一緒そして隣の席だったのと、入った創作部の部長さんが神谷先輩で、副部長が白羽先輩だったんですよ。しかも桜川さんもともと白羽先輩と知り合いだったらしくて、それも含めて色々あって一緒に行動させていただいたり、お屋敷に招待していただいたりしてます」

「屋敷…って事は金持ちなのか?」

「そうですね、白羽先輩の家はホテル経営されてるそうで、世界中の国に展開してるそうですよ?なんでもご両親が日本の温泉やお風呂に感動したらしく、それを広めるためにやってるとかで、白羽先輩の家にも普通の旅館にあるようなお風呂が二つあるんだそうです」

「へぇ…」

「よかったら今度一緒に来ます?たぶん白羽先輩達ならいいよって言ってくれると思いますし」

「は?…俺が?」

「はい!お風呂入らせてもらうといいですよ!結構感動します!」


お風呂が目的なのか?とは思ったが、その先輩達とやらの実力や普段の行動も見ておきたかったので、暁人は別に行くなら行ってもいいと答えた。

じゃあ連絡しておきますねと言いながら、亮が意味深な事を話す。


「そう言えば桜川さん最近名前変わったんですよ。”姫歌”から”静羽”に。なかなかそんな人いないですし、珍しいですよねー」


暁人は確かに珍しいねと受け答えをしたが、”姫歌”という名前について引っかかっていた。

それもそうだ、調べた伝承には続きがあってその公開された中に名前が入っているのだから。

偶然か?それとも何かあるのか?

しかもそれをわざわざ亮が語っているというのは、何か意図があって亮は言っているのだろうか?

その一瞬で答えは出ないだろうが、とにかくもし何かあるのであればこれは近づくチャンスにもなる。

自分がスパイであることを悟られてはならないが、もしその静羽という人物に会ったりして情報が得られるであれば逃すわけにはいかない。

日付が決まったら連絡すると言われ、暁人は楽しみにしているよと言ってその日は解散した。


――――――


富山市にある大学付属病院、その病室に向かう紫色の髪に紅色のメッシュがある、腰まで伸ばしたストレートの髪、六渡寺清忠の姿があった。

慣れたように目的の病室がある階までエレベーターで昇り、迷うことなくその病室のドアをスライドした。


「あ!お兄ちゃん!」

「心愛、退院決まったんですって?おめでとう」

「会いにきてくれたの?嬉しい!うん、明後日退院だって、そしたらお兄ちゃんと同じ学園に行く予定だよ!」

「そう、それはよかったわね。でも無理はしちゃだめよ?ちゃんと体調を整えてから学園に来なさいね」

「うん、大丈夫!先生の言われた事ちゃんと守るよ!」

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