【8時間目】魔王様、作戦会議のお時間です‼︎


すっかり夜のとばりが下りた頃、僕らはやっと現世界の根城ねじろである四畳半よじょうはんのボロアパートに着いた。

聖良いわくもっと豪勢ごうせいな家も借りられたと言うのだが僕は丁重ていちょうにお断りした。


───1人暮らしの若者にそんな贅沢ぜいたくいらないのだ。


と、思っていた昨日の僕(言ってはなかったけどこの世界に来たのは今日なんだよね、うん僕も驚いてる。だって今日だけでこんない1日を過ごすと思ってなかったんだもん)を殴ってやりたい。


何故ならこの物件には"聖良"という特典が付いていたのである。



「仕方ありませんよ逢魔様、私たちは兄妹なのですから一緒に住むのは至極しごく当たり前の話なのです」



「それ両親いた場合の話だよね?普通一人暮らしするって言ってる兄の家に転がり込んでくる妹はいないでしょ」



聖良はやれやれと両手を広げ首を横に振ると「私たちは兄妹でもあり夫婦でもあるのですから」と言ってきた。

もうツッコまんぞ。僕はそのはがねの決意を胸に秘めると制服の上着を脱ぎ、ハンガーにかけた。

……多分、今日だけで多分50回ぐらいツッコんだ気がする。



「それで、具体的には水原 さくら子とどうお近づきになるおつもりですか?」



台所でコーヒーをれてくれていた聖良がリビングでくつろぐ僕へ問いかけてきた。

砂糖の有無うむの確認のため軽い会話をすると、聖良がリビングへカップを二つ持ち戻ってきた。



「う〜〜ん、そうだなぁ……今日の別れはかなり(聖良のせいで)サイアクだったよなぁ……。ここから巻き返していくにはやっぱり心象しんしょうを良くしないとダメだよね」



「はぁ……私としてはかなりの好印象こういんしょうであった気がするのですが……。あと私のせいにしないでください」



「いや普通に聖良のせいだよ。まあ種田さんもノっちゃったのもあるけど……てか普通に心の声を読むのやめてくれません?」



僕はう〜〜んとうなると聖良が淹れてくれたコーヒーをかき回す。

コーヒー豆の独特な良い香りが僕の脳をくすぐってくる。ぐるぐるとうずを巻くその黒面こくめんに先程僕が答えた"一個"の答えが浮かんできた。

否、"一人"が浮いてきた──────



「……ところで、聖良さん?この砂糖にきざまれてる細目ほそめのおっさんは誰?」



「亜○です」



「いや"さとう"違い、それ。てかいちいち分かりにくい小ネタ入れてくんじゃないよ」



「ところで」と今度は聖良が一息おくと僕に問いかけてくる。

僕は一口、コーヒーをすすった。



「先程から逢魔様のスマホがピンポロパンポン鳴ってるのですが誰からですか?」



「その音なら早くエリア内に戻らなくちゃならないね。……じゃなくてこれね」



僕は先程、というよりも帰路きろについてから常になっているスマホの画面をのぞく。

そこにはつい数時間前に友達になった種田さんからのLI○Eが、鬼のように大量に届いている通知だった。

どうやら初めてできた友達に狂喜乱舞きょうきらんぶしているらしく、僕に(嫌がらせか?)スタばくをしているのだ。

怖いよ。僕あの子怖いよ。



「ブロさくしときましょう」



「身もふたもない。…まあとりあえずは一旦放置しといて今は水原さんの事だよ」



せまい部屋に静寂せいじゃくが訪れる。

完全に余談よだんだが僕はこの聖良との間に流れる静かさは案外あんがい好きだったりする。

いや、だまってた方が可愛いとか言ってないから。やめてそういうの怒られるから。



「分かりました。今日からもう二度としゃべりません」



そう言うと聖良はぷくぅとほほふくらますとそっぽを向いた。

彼女の黒いつややかな髪の毛に自然と目がかれる。



「……ごめんなさい。元気な聖良が1番好きだよ」



「…………はぁ、そういうすぐ謝れてフォローできるとこ本当好きです、付き合ってください、いや結婚してください、いやもうこの際セッ」

「はいコンプラにひっかかるのでやめてくださ〜〜〜い」



再び僕らの間に静けさが訪れる。

聖良と目が合う。合い続ける。心なしか聖良がとても魅力みりょく的に思えてくる。


あれ?なんか今回普通に幼馴染おさななじみのメイドさんとイチャイチャして終わる回なの?まさかまさかのいやし回!?



「逢魔様………」



気づくと聖良が僕に急接近していた。

聖良の手が僕の組んだ足に置かれ、さらに体重を僕の方にあずけてくる。聖良の可憐かれん見目麗みめうるわしい顔が僕の顔を自然と吸い寄せてしまう。それはまさに唇と唇が合うぐらいに───────



「おおっ!我が盟友めいゆうよ!女性経験は無いと言いながらヤる事ヤってるではないか!!」



「………いやちょっと待って。なんでうちに居るの?種田さん」



突然の(真新しい)友人の来訪らいほうに頭が混乱している僕をよそに種田さんは髪をかきあげ、それはもう見事なドヤ顔をかますと高らかに宣言せんげんした。



「それは無論むろんっ!我が盟友からのしらせが一向に来ない為、何か強いモンスターと対峙たいじしてるのではないかとうたぐって急遽きゅうきょ応援にけつけたのだっ!」



ん、ああ、怒涛どとうのLI◯Eを無視ったからか。

いやだからってなんで家知ってるの!?怖いよ!!僕、怖いよっ!!ストーカーだよこれもうっ!

てかあまりの青天せいてん霹靂へきれきさに聖良さんフリーズしてらっしゃるよ!?あの聖良さんが!フリーズ!してらっしゃるよ!?!?



「聖良?…聖良さん?大丈夫?」

「聖良大丈夫か?私のヒールいるか?……いやむしろヒールよりエールの方がほしいか?」



いややかましいわ。

そんな顔をかがかしても誤魔化ごまかされんぞ。てかエールじゃなくて家に"帰ーる"選択をしてほしいわ。

すると突然、聖良がぐわっと立ち上がり目をかっぴらいて僕らを見つめてきてこう言った。



「逢魔様、種田 冬火さん。ついに思い浮かびました……水原 さくら子と"友達になろう作戦"が………!!」



「あれ?いい雰囲気ふんいきになってたとこぶち壊されてフリーズしてたんじゃなかったんだ……それでその作戦とは……!?」



僕と種田さんが期待を込めて聖良を見つめ返す。

聖良がそれに応えるように右手の人差し指を天にかざすと静かに語った。



「水原 さくら子をストーカーすれば良いのです……!!」



「いや考えうる限り最悪の帰着きちゃくだよ」



☆次回、さくら子尾けられる───────



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【登場人物紹介】


●躑躅森 逢魔


魔王の息子で主人公。

本人は一人暮らしのつもりで現世界に来たのでまさか一つ屋根の下で幼馴染メイドと過ごす事になるとは思ってもなかった。実はよくよく考えたらお付きのメイドなので一緒に暮らすのは当たり前だっり…。

なんだかんだ元の世界でも一緒に暮らしていたので割と抵抗は無い。



●躑躅森 聖良


逢魔の幼馴染でお付きのメイドさん。

今回の生活であわよくば逢魔と一線(意味深)を越えようと色々と画策している。

だが逢魔本人が色々と希薄なため、苦労が絶えない。頑張れ聖良ちゃん。目指せ勝ちヒロイン。



●種田 冬火


1人目の能力持ち厨二病ぼっち少女。

初めてできた友達に嬉しくなりすぎてちょっとヤンデレ気味に。実際友達になって数時間で安否のスタ爆はヤバいと思う。

でも本人は元々人付き合いがない為いまいちそこんところが分かってない。今後の成長に期待が高まる。



●亜○ 佐藤


一言で言えば死なないヤバいやつ。

どうもマ○オプレイヤーだと思うと個人的には親近感が湧いて仕方がない。あと純粋な悪はめっちゃクール。

「誰かがコインを入れたみたいだね」


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