第16話 ここで、最初に仕留めたハナシ
残念なことに、わたしの予感は当たってしまった。
窓の外から気配を感じたと思ったら、ガラスが微かに音をたてたのだ。中を覗こうとして触れでもしたか。どうやら、手強い相手ではなさそうだ。わたしは引き続き成り行きを見守る。
寝入ってるネイスを確認したか、窓がゆっくりと開けられた。慎重ではあるが、警戒は薄い。都合よく窓が開いていることは幸運とでも思ったのか?わたしが真っ先に除外する要素だ。
窓は完全に開け放たれ、風でカーテンが大きく揺れる。
「んっ」
この診療所の一階は、地面よりも少し高い位置にある。窓から入るのも一苦労のようだ。力む声が漏れ聞こえた後、そいつはゆっくりと部屋に入り込んできた。男のようだだ。体格は中肉中背。暗くて見えづらいが服装はかなり粗野で村の人間ではなさそうだ。
何とか部屋に入り込めた男は、部屋の中に立つと辺りを見渡す。間仕切りの影にいるわたしには気付かない。病室のドアを開け、こっそりと廊下の様子を伺う。アレクロスたちが階下に降りてくることはないから安全だろう。万一彼らまで狙うつもりと分かれば、かなり派手な騒ぎになるだろうが。
男はドアを閉め、ネイスの前に戻った。間仕切りを立てておいたので、奴はおのずとわたしに背中を向けるかたちになる。1人か?いや、明らかにこういうシノギに不慣れだ。見張りぐらいはいるはず。
「おい。まだか」
案の定だ。
窓の外から、押さえた声が聞こえた。こちらも男だ。
「急かすな」
部屋の男がたしなめ、懐から何かを取りだそうとしている。どうやら、刃物ではない。毒か?多少の小細工はするつもりだったらしい。だが、それももう無駄だ。
わたしは、布に薬を染み込ませた後、音を立てず間仕切りから抜け出し、男の背後へと回った。男はまったく気付かない。どうやらこの身体でもわたしの技術は活かせるようだ。外の見張りがまたいつ急かすかわからない。
静かに、確実に、やろう。
「…うん?あっ…」
それは端からみれば、とても呆気のない所作に見えただろう。
わたしは布を挟んだ指を背後から流れるように男の鼻と口に優しく押し当てた。遅くも早くもない、警戒や注意の向かない自然な速度で添えられたそれに、男は不自然さを感じる前に意識を失った。
倒れる男を抱え、ゆっくりと床に寝かせる。次は外の男だ。向こうは少し力ずくになるな。わたしは、窓から外を覗き、急かした男以外に人影がないことを確認すると、身を隠し押さえた声で叫んだ。
「おい」
「うん?」
「おい。ちょっと来てくれ」
「何だどうした?」
外の男が窓に近づいてくる。
「どうしたんだ?」
声からして、男は窓のすぐ下まで来ている。
「村の方を見ろ。灯りが見えた」
「ほんとか?」
振り返った男の顔を、窓から伸びたわたしの手が覆い尽くした。
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