第12話 ここで、最初の悪党に会ったハナシ

「ふん」

 わたしの挨拶に鼻を鳴らして応えた村長。

 小柄な体格で痩せ細った顔には深い皴が刻まれている、その姿には威圧的な雰囲気が漂っているが、それよりもこの感じは…。

「奴が住人を襲ったというのか?」

 村長はマニックスを呼び、問い詰めた。

「いえ、それはまだ分かりません。ネイスはまだ目を覚ましていませんので」

「そいつはまだ医者のところか?」

「ええ。そうです」

 依然、捜査に進展はないようだ。

 だが、村長に焦る様子もない。

「この後はどうしましょうか?」

「全員で村の警備に当たれ。さきほど入り口付近で賊らしき者を見たとの報告があった」

「族が?」

 村長の言葉に、保安官たちは色めきだった。

「そうだ。奴にトドメを刺しに来たのかもしれん」

「トドメ?なぜそんな事を」

「さぁな。賊にとって都合の悪いものを見られたのかもしれん」

「都合の悪いものとは?」

「ワシが知るわけなかろう!いちいち質問してないで、とっとと準備をしたらどうだ?それとも、奴と仲良く茶をすすりながら怪我人の目覚めをのんびり待つのがお前らの仕事なのか?」

「僕のはただの水」

 飲み終わったカップを掲げてみせるが、村長は苛立たし気な目を向けるのみだった。

「奴はどうするんです?見張りフェイールは?」

「このまま閉じ込めておけばいい。いいか。村の入り口付近を重点的に見張れ。賊の縄張りである森を捜索するよりははるかにマシであろう」

 一方的に言い捨てると、村長は一足早く事務所を出ていった。

 保安官たちはお互いを見合った後に、諦めたように武器を手にし、事務所を出ていく。

「お前も来い」

 ランタンを持ったマニックスがフェイールを呼んだ。

「しかし…」

「村長の命だ。いいから来い」

「いえ、そうじゃなくて…」

 フェイールの言葉も待たずに、マニックスは外へと出てしまった。

「なかなか切れ者な村長だ」

 あのマニックスが委縮するなぐらいだからな。

「なのに、おかしいよな」

「え?」

 あの男村長から、悪党クズの匂いがした。

 とは口には出さず―

「君が気にしたのって、僕の見張りの件とは別だろ」

 と、指摘してみた。

「あ…」

 どうやら当たりのようだ。

 賊が仕損じた相手を狙いに来る可能性を考えるまではいい。

 しかし、それなのに…。

「…ほら。早く行った方がいいよ」

 わたしはそれを伝えず、フェイールを外へと促した。

 彼はは慌てて外に出ていき、事務所内は静寂に満ちた。

 彼はなかなかに見所のある保安官のようだが、まだ経験に乏しい。のは避けることにした。

 だが、このままではが危険だ。

 という事で。

「さてと」

 冤罪無実だったわたしは、ここにきて本物の犯罪に手を染めることにした。

 平たく言えば、脱獄だ。

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