第17話
なぜ余の心がモヤモヤするのだ?
こんな感情は生まれて初めて持った。
なぜだ!
魔法少女が今負けそうになっているのだぞ。
普段だったら勝てる相手に苦戦をしているのだぞ。
余がいつも負けている魔法少女がボコボコにされているのだぞ。
なのになぜ余の心のモヤモヤは大きくなっていくのだ。
喜べよ、魔法少女が負けそうになっているのだぞ。
自己暗示をしろ、魔法少女が負けて嬉しいと。
「ピンクそろそろやばいって」
「もう私たちも限界です」
桜井莉緒が戦えない間ずっと高宮千沙と九重菫が持ち堪えてくれている。
「私だって頑張ってるって」
桜井莉緒が怒りに任せながら叫ぶ。
「でも、頑張っても頑張っても魔法が出ないんだもん」
頑張って精神状態が良くなるわけではないからな。
「そこをなんとか頑張ってよ」
「ピンクさん頑張って」
高宮千沙と九重菫は戦いながらも桜井莉緒に応援をする。
頑張ってない奴なんてこの場にはいない、だからどっちも相手の状態を把握できていない。
「ピンクなら絶対に出来るよ」
「ピンクさんは私たちのリーダーなんですから」
「私には無理だよ」
「無理じゃない、ピンクはそういう人間じゃない」
「ピンクさんはいつだって私たちに笑顔を届けてくれたじゃないですか」
高宮千沙と九重菫は戦いながら必死に桜井莉緒に声をかける。
「私、みんなでクレープ食べに行きたい」
「私は学校の近くにできた所が良いです」
「じゃあここで勝ったら明日行こう」
「そうしましょう」
「諦めるなんて私たちらしくないよ」
「そうですよ」
高宮千沙も九重菫もかなりボロボロになってきている。
もうやられるのも時間の問題だ。
「大丈夫、私たちもついてるから」
「そうですよピンクさん。ピンクさんは一人じゃないですから」
「みんな…」
お、ピンクの中のマナが微かに普通になりかけている。
これが人間の友情というやつか。
余には今後永遠に関わることのない言葉だ。
余は孤高の王だからな、友情なんか邪魔でしかない。
「私頑張ってみるよ」
「それでこそピンクだよ」
「一緒に頑張りましょうピンクさん」
ピンクの中のマナは少しずつではあるがいつも通りになってきている。
この調子だったら出るんじゃないか、合体技が。
「もう私もブルーも限界に近いから最後に賭けよう」
「そうですね」
「今ならいける気がする」
ここで出るんだな、合体技が。
ここで出なかったらもう倒すことが出来なかなって負けてしまうだろう。
「じゃあいこうみんな」
「「うん」」
出る、あの合体技が。
「「「スーパースマイルスプラッシュ」」」
出ると思っていた合体技は残念ながら不発に終わってしまった。
「ごめん。みんな」
合体技を放つ前に桜井莉緒の魔法が乱れてしまっていた。
マナの調子も良くなってきていて出ると思っていたのだがな。
やはり、相手が父親だから合体技を放つ前にそれが過ぎったのだろう。
「ううん、気にしないで」
「仕方ないですよ」
高宮千沙と九重菫は桜井莉緒に励ましの言葉をかける。
三人は明らかに落ち込んでいる様子だ。
「私たちに魔法少女は荷が重すぎたのかもね」
「そうかもしれませんね」
もうすっかり諦めムードになってきている。
なんだこの魔法少女どもは、余が知っている魔法少女ではない。
余が知っている魔法少女どもはこんなところで負けるはずがない。
学校では底なしで元気なくせになんで今は違うんだよ。
元気すぎるくらいがお前らだろ。
なのになんで今はそんな暗い顔をしているんだ。
諦めないのがお前らの良いところではないのか?
「それに私たちは普通の高校生だし」
「地球を救え、なんて無理だったんだ」
なんだこいつら。
余はこんな奴らに負けたのか?
「ぐす……っおかあさんどこぉ」
まだ逃げられていない女児がいた。
桜井莉緒の父親の怪人化した近くに。
「ねぇあれ」
「逃げ遅れたのかな?」
すると桜井莉緒の父親の怪人化が飛ばした瓦礫が女児の方へ飛んでいく。
「危ない」
三人の魔法少女は慌てて飛び出したがこのままでは確実に間に合わない。
遅い。
余と戦った時はそんなものではなかったぞ。
余は三人の魔法少女よりも早く女児のところへ行き、瓦礫を殴り飛ばした。
そして腹いっぱい空気を吸って叫ぶ。
「なにしてんだぁ魔法少女ぉ」
余以外に負けるなんか余が許さない。
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異世界に転生したからチートで無双してモテモテな異世界ライフ! ……って思ってた時もありました
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