第18話 幻のダンサー
夕方17時過ぎ、夏休みという事もあり人も結構いて何組かのダンサーが踊っているのが見える。
その中でも一際目立つ二人の少女がダンスを踊っている、彗夏と伊莉愛だ、声をかけようとすると社長が止める、やや離れたところで二人を見る。
「なるほど、大きい方は上手いな」
社長がぼそっと口にする、そうか? 俺は小さいほう、彗夏の方が動きも多くて上手だと思うが、素直に社長に俺の意見を伝えると、
「大きい方は余裕を感じるが小さい方はそれがない、表情を見るとよくわかる、それに指先や足先の細かな部分が甘い、踊り終わるころには肩で息をするんじゃないかな?」
音楽が止まると同時に二人の動きが止まった、確かに伊莉愛に比べて彗夏の息が上がっているように見える、社長が行くぞと言って二人に近づく、俺たちに気付いた彗夏が先ほどはどうもと頭を下げる。
昼間撮った動画のデータが入ったUSBを渡す、二人は嬉しそうに受け取り今日中にアップできると喜んでいる。
「君たちのダンスで一番自信あるものを見てみたいが良いか」
社長が二人に言うと、彗夏と伊莉愛が顔を見合わせやっぱりあれだよね、と80年代の洋楽のロックバンドの音楽を流す、デスメタル系と言うのかな? ハードでカッコイイ音楽だ、二人が踊りだす、昼間や先ほど踊っていたダンスとはまた違い、音楽に合わせた様に激しい踊りで終始見入ってしまった、曲が終わり二人がビシッと決めポーズした姿は正直かっけ~っと思ったよ、パチパチパチと見ていたであろう周りの方々の拍手が聞こえる。
社長一人冷めた目をして言い放つ、
「そんな古臭いダンスではなくて俺たちと会う前に踊っていたやつを見たかったな」
「古臭いだって!」
彗夏が感情的になる、社長に突っかかろうとするのを伊莉愛と俺とでなだめる、
「俺は凄く良いと思ったぞ」
素直に本音を言った。
「古臭いから古臭いと言ったまでだ、この曲に関しては二人の息が合ってない、体の動き、ずれが気になって見れたもんじゃない」
彗夏は更に目が鋭くなり睨み付ける、社長は続けて、
「イモ臭いダンサーの猿真似してどうする、自分に合った自分のダンスをしろ」
「イモ臭いダンサーだと! 偉そうに言いやがって、あんたは踊れるのかよ!」
「お前達よりかは上手く踊れるさ」
そう言い放った。
その言葉を聞いて先ほどまでおっとりしていた伊莉愛も雰囲気、目つきが変わる。
俺はおいおい、恥かくからやめとけってとマジで心の声で叫んだ。
だったら見せてもらおうかと彗夏が先ほど社長が駄目だししたロックバンドの音楽を再生する、社長が音楽に合わせてリズムをとる、俺は唾をごくりと飲み、彗夏、伊莉愛もじっと見る。
ここから3分弱は社長に釘付けになっていた、ダンスには疎いがマイケルジャクソンとかは流石に知ってる、あんな感じのキレッキレのダンスを披露する。
スーツを着て革靴を履いているのに体が動く動く、めちゃくちゃたまげた、この人ナニモンだって思う、彗夏と伊莉愛も目を見開いている。
音楽が止み社長の動きが止まる、と同時にどこからともなく拍手喝采、叫び声、ピィーピィーと口笛が鳴りびっくりした、周りで踊っていたダンサーや通行人たちも釘付けにしたのだ、ボー然としていた彗夏が、
「あなたはキャッスルズのキルトですよね?」
と社長に詰め寄る、俺は何だ? キャッスルズ? と呟くと、隣にいた伊莉愛が、
「KOTD(キング・・オブ・ツイン・ダンス)と言うアメリカのダンスの大会で2連覇したコンビの名前です、その一人がキルト、2度の優勝の後、忽然とダンスの世界から消えた幻のダンサーとして名のしれた方です、10年以上前なので今では知っている人も少ないかもですが、彗夏は今の曲で連覇をしたキャッスルズの踊りを見て、憧れダンスを踊るようになったんです、私も何度も動画を見させてもらい影響を受けました」
俺は社長を見て改めてこの人何者だ? と思い知らされた。
彗夏と伊莉愛が社長に頭を下げて自分たちにダンスを指導してくれと頼みこんでいる。
社長は右手で彗夏の顎をクイッと上げ、
「強気な女は嫌いじゃない、自分のダンスをしろ、せっかく可愛い顔をしているんだから笑顔の溢れるダンスをな」
彗夏は顔を朱色に染めた。
社長は二人に名刺を渡す、伊莉愛がそれを見て、
「宝城キルト・・宝城? ・・宝城・・・宝城!」
社長は少したじろいでいる。
「宝城って、ひょっとして宝城リルさんと何か関係がある方でしょうか?」
「リルは私の弟だよ」
「え~! キルトさんの弟がリッリルさんですと~!」
伊莉愛だけでなく彗夏も目を大きくしている、俺の口で、昼間聞いた伊莉愛のリルの思う気持ち、リル愛を説明すると、
「そうか、弟を好いてくれているのだな、嬉しいよ、ありがとう」
「いえいえいえ、こちらこそ存在してくれて嬉しありがとうです~」
と変な日本語を話している。
「今日はもう遅い、お前達明日一人一万円もって還流に渡せ」
と社長が俺を指さす。
二人はきょとんとして、
「えっ一万円でダンスを教えてくれるんですか!」
「明日君たちが都合良い時に還流に連絡しろ」
そう言うと背を向けてここまで乗ってきた車に向かって早足で去っていく。
俺も二人に挨拶して社長を追いかけるように駆け足で追いかけた。
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