第312話 依頼

「おはよう」

「おはよ」


 次の日、朝目覚めてリンネと挨拶を躱し、身だしなみを整えた後、俺達は朝食を食べるために酒場兼食堂に向かって階段を昇っていく。階段を登り切り、酒場兼食堂にやってくるとそこにはすでにカエデたちが準備万端で椅子に座って待ち構えていた。


「おはよう主君、遅いじゃないか」

「おじさん、おっそーい!!」

「おじちゃん、おそいよぉー!!」

「おじさん、もっと早く起きてよね!!」

「おっちゃん、遅かったから肉お替わりくれよな!!」


 カエデ達が俺達の姿を認識すると、完全に非難の嵐である。


 そんな遅かったか?

 いつも通りに起きてきたつもりだったんだが。


「いやぁ、悪い悪い。ここの部屋はとっても落ち着くし、ベッドが気持ちよくてな。ついつい出て来られなかったんだ。お替わり頼んでもいいから許してくれ」

「遅くなってごめんね」

「し、仕方ないな。まぁそれは分かるから許してやろうか。な、皆」

「仕方ないね、おじさんは!!」

「仕方ないなぁ。おじちゃんは!!」

「しょうがないなぁ!!おじさんは!!」

「しょうがねぇなぁ!!おっちゃんは!!」


 待たせたのは確かだから、俺とリンネが軽く頭を下げて空いていた席に座ると、彼らは露骨に態度を変えて俺を許した。


 チョロすぎるだろ!!


「お、皆さん揃ったみたいですねぇ。朝食持ってきますねぇ」


 俺達が全員席に付いたのを見つけた店員が自発的にキッチンの奥へと入っていく。


「さて、今日はどうする?王都に行くか?」


 ある程度見るところは見たので、俺は皆の意見を聞いてみた。


「うーん、もう少しダンジョンに潜るのも悪くないわ。この子達にも丁度いいし」

「確かにこの子達の戦闘訓練にうってつけだな」


 リンネとカエデは隣に座る獣人の子の頭をなでながら答える。子供たちは気持ちよさそうに目を細めていた。


 どうやらまだダンジョンに潜りたいらしい。急ぐ旅でもないし何の問題ないよな。


「もっと戦いたーい!!」

「そうだよねぇ!!」

「僕もぉ!!」

「俺ももっとドロップ肉欲しい!!」


 子供たちもが是やる気みたいなので今日もダンジョンに行くことにした。


「お待たせしました」


 ちょうど会話の区切りが良いところで店員さんが二人がかりで俺達の料理を運んでくる。一回では全て持って来れなくて、もう一往復する羽目になっていた。


 俺達の人数がそこそこ多いから仕方がないけどな。


「飲み物もお持ちしますね」


 料理はこれで全部らしい。さらに飲み物も別途出してくれるようだ。


「行き渡ったみたいだから食べようか、いただきます!!」

『いただきます!!』


 俺の音頭で皆も食前の挨拶を行って食べ始める。朝食は滅茶苦茶普通で、パンとスープとサラダと、皿に目玉焼きとソーセージやベーコンなどが盛り付けてあった。


 カエデ達はお替わりオッケーと言うことで物凄い勢いで食べていく。しかし、食べ方が汚いということもなく、ある程度のマナーは守っていた。


 こいつら中々器用だな。


 俺は心の中で一人ごちる。


「このソーセージとベーコン美味いな」

「ええ、そうね」

「うふふ、そう言ってくれると嬉しいです」


 店員のお姉ちゃんが俺達の会話に入ってくる。


 ちょうど飲み物を持ってきてくれたらしい。


 全員に飲み物を出し終えると、彼女は嬉しそうにこういった。


「このベーコンとソーセージは家の自家製なんですよ」と。


 なるほど。自分の家で作っている物を褒められれば誰でも嬉しいよな。


「そうなのか。ちょっとすぐなくなりそうだからお替わりもらえるか?」

「わ、わかりました」


 ベーコンやソーセージが盛り付けられた皿を見ると、すでに半分以上無くなっていたのでお替わりを頼むと、店員が浮かない顔をしながら返事をした。


「ん?何かあったのか?」

「え、いえ……お客さんに話すようなことでもないので……」


 俺が気になって尋ねると、店員は苦笑いを浮かべて言葉を濁す。


 そうふうにされると逆に気になる。


「いやいや、俺達で手伝えることもあるかもしれない。話してみなって」

「そうですか?……実は、最近このベーコンやソーセージの材料になる素材を取ってきてくれていた人が怪我で療養してまして、在庫が少なくなってきているんです」


 安心させるように催促する俺に根負けしたように店員は話し出した。


 在庫は減るけど、材料が入ってこないからそりゃあ不安にもなるか。


「なるほどな。ちょうどいい。俺達は子供たちを鍛えるついでにダンジョンに潜るつもりだから取ってきてやろうか?」

「え!?いいんですか?」


 俺の提案に、目を見開いて驚く店員。


 ダンジョンに行くついでに取ってくるくらい何も問題ない。むしろ好都合だろう。その肉をドロップするモンスターがどの階層にいるかによるが、最悪子供たちの引率はカエデに任せて、俺とリンネだけで肉を取りに行けばいいだろう。


「ああ、勿論。ただ、真冒険者組合を通した依頼にしてくれると助かるけど」

「それは勿論。妹に連絡しておきますよ」


 俺は個人で受けるよりも真冒険者組合を通した方がトラブルを避けられると考えて聞いてみると、あっさりと受けてくれたので信頼できる人なのだろう。


 というかこの人はあの受付嬢の姉か。そう言われてみれば似ている。妹が受付嬢をしているとなればそういうトラブルの事もよく聞かされているんだろうな。


「そうか。それじゃあ、具体的な内容についてはそっちで聞くわ」

「ありがとうございます。これで家の自慢の逸品を出せなくならずに済みます」

「気が早いって。そういうのはちゃんと現物を持ってきてからにしてくれよ」


 まだ鳥にも言ってもいないというのに頭を下げる姉に、俺は若干呆れながら指摘しておく。


 俺達が食材を持ってこれないということはないと思うが、流石に気が早すぎるだろう。


「うふふ、ありがとうございます」


 何がおかしいのか分からないが、俺の指摘に笑顔を浮かべながら彼女は頷いた。


『お替わりぃいい!!』


 って話していたら俺のソーセージとベーコンがなくなっていた。


「はい、それではお替わりもってきますね」


 彼女はそう言ってキッチンの奥へと姿を消し、皿にてんこ盛りになったベーコンとソーセージを二つもって帰ってきた。


「これは気持ちです」

「だから気が早いってのに」


 ウインクしながらテーブルに置く姉に俺は苦笑するしかなかった。


 俺達はそのまま朝食を堪能し、真冒険者組合に向かった。

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