第278話 段取り

「コホンッ……大変失礼しました」


 顔を赤らめ、一度咳払いをした後、目礼で謝罪するメアリーナ。


 確かに一国の主として先程のように感情を殺すことが出来ずに露にしてしまうことはマズいよな。仕方がない事ではあるけど。あなたが信仰する神様呼べるけど、呼んでもいいって聞いてるわけだし。


「いや、気にしないでくれ。こんなことを言っても普通信じられないだろうし、宗教によっては神の敵として認定されることもある」

「確かにそうかもしれませんが、あなた方はSSSランク。嘘や酔狂だと断じるのは難しいですね。それで、もう一度お尋ねしますが、水の神様を本当にお呼び出しできるのですか?」


 俺のフォローに返事をした後、メアリーナは一度佇まいを正してから俺に問いかける。


 ここからが本題ってことだ。


「ああ、水の神というのはリヴァイアサンのことであっているか?」

「ええ」

「それなら問題ない。あいつとは一緒に食事をした仲だ。ドワーフの国の近くまで護衛してくれたしな。そして、あいつはこれをくれた」


 俺は念のため、水の神の正体のことをメアリーナに尋ね、肯定が帰ってきたので、リヴァイアサンとの関係を話しながら角笛を取り出した。


「これは?」


 一度アイテムに視線を落とした後、俺の顔を見上げてメアリーナは俺に問いかける。


「これがリヴァイアサンを呼び出す道具だ。あいつは物凄く大きいから街にあまり近づけないが、ある程度近くまでは来ることが出来るだろう」

「なんと、そのようなものが……。」


 角笛をマジマジと見ながら驚くメアリーナ。


 それはそうだろう。自分たちが崇める神を呼び出す道具が目の前にあるのだから興味深げに観察してしまうのは無理もない。


「それでお祭りは確か明後日からとい聞いているが、そこで神様を呼んでみるのはどうかと思ってな。勝手にやったら大騒ぎになると思ったから許可が欲しいと思ってな。一応リヴァイアサンが来ることによって被害が出ないようにするつもりだが、どうだろうか?」

「そんなに簡単に呼び出してしまってもよろしいのでしょうか?」


 俺の提案に恐縮しながら尋ねるメアリーナ。


 確かに神様をそんなに軽く扱って大丈夫か、というのは分からなくない。でもリヴァイアサンは結構人懐っこいし、気の良い奴なので問題なく来てくれるはずだ。


「ああ。俺が呼ぶならすぐ来てくれるって言ってたし問題ないだろ」

「ははぁ。ケンゴ様たちは水の神様と仲が良いのですね」

「一時とはいえ一緒に旅をした仲だからな。あいつも何を気に入ったのか、俺にこんなものをくれたわけだし、逆にたまに呼んでやらないと拗ねるかもしれないぞ?」


 自信満々な俺にメアリーナが微笑みながらそう言うと、俺は呆れ顔をして肩を竦める。


 普通の人間みたいに話すし、酒は飲むし、美味い物が好きだしな。ほとんど人間と変わらない。仲良くなったのに呼んでやらなかったということを知れば、あいつは本当に拗ねてしまうかもしれない。


「そうですか……わかりました。当日のメインイベントとして呼んでいただくこととしましょう」

「話が分かるな。助かるよ」


 メアリーナはあっさりと俺の提案の受け入れてくれた。


 いくら自分たちが祀る神様とは言え、祭りまであと二日しかなくて各所への根回しや調整は本当に大変だろうに快く引き受けてくれる彼女に俺は好感を持った。


「いったっ!?」

「何か?」

「いや、何でもない」


 突然大声を上げて飛び上がった俺をメアリーナが目を丸くして見つめてきたので、俺は気を取り直して首を振る。俺は脇腹に痛みを感じたと思えばリンネが俺の脇ばらをメアリーナからは見え無い位置でつねっていた。


 おいおい、人として好感を持ったくらいで嫉妬するんじゃない。


「そうですか。私達水の民は皆水の神様に深い信仰心を持っておりますので、お会いできるのなら望外の喜びです。この街に誰も拒絶する者はいないでしょう」


 メアリーナは信心深く目を瞑って祈るような仕草をしながら呟いた。


 ここに元々根付いていて、協会のような組織に思想を押し付けられたわけではなく、親から子へ、子から孫へと代々受け継がれてきた信仰なんだよな。そんな信仰なら愛着がわいても仕方がないと思う。


「了解。それじゃあ、当日の流れについて教えてくれ」

「承知しました」


 一人納得した俺は彼女にお祭り当日の行事の流れや段取りを確認し、いつどこでどのような形で水の神に降臨してもらうかを決めた。


「それでは明後日はよろしくおねがいします」

「わかった」

「任せておきなさい!!」


 俺達に頭を下げてしまうメアリーナに苦笑しながら俺たちは安請け合いをした後、部屋を出る。


「さて、このことをラムにも教えてやらないとな」

「ええそうね」


 扉を閉めて二人で顔を見合わせて微笑み合うと、宿へと帰路に着いた。


 ラムに神様を呼び出すことが決まったことを話すと、飛び跳ねるようにして彼女は喜んだ。その笑顔を見ると、女王に会いに行って良かったなと思えた。

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