第255話 エルフの歓迎

 俺達は森林守護隊の後を追って、首都フェアリーガーデンに入場した。


「あれは!?リンネ様だ!!」

「リンネ様だって!?」

「おお、リンネ様だ!!」

「キャー!!リンネ様よ!!」


 俺たちの馬車を見た瞬間、すでに俺達だという認識が広まっているのか、道中から歓声が上がる。


「ケンゴ様もいるぞ!!」

「おお!!世界各地で英雄になっているというケンゴ様!!」

「世界樹の救世主!!ケンゴ様!!」

「うぉおおおお、エルフが憧れる男ランキング一位のケンゴ様だ!!」


 なぜか俺もリンネと同レベルでの歓迎を受けている。


 そして、遠くに見えていた世界樹だが、以前来た時とは比べ物にならないくらい青々と茂っていて、力強い生命の息吹を感じさせた。


「世界樹が結構元気になっているな」

「ええ、そうね」


 俺が色々吐き出した甲斐があるってものだ。

 もちろん少し思うところがあるが、元気にあったのならいいだろう。

 エルフの民には世界樹が元気になった本当の理由は絶対に言えないけどな。


「俺たちはどうする?城にいけばいいのか?」

「いいんじゃない?アレナも帰ってるでしょうし、アイツらもその内城に連絡氏に来るでしょ」

「そうか、それじゃあ城に向かうか」


 ここまで森林守護隊の後をついてきた俺達だが、彼らは先走ってスパイス集めに町中に散ってしまったので、もう成り行きに任せるしかなくなった。


 アレナと久しぶりに仕事とか関係なく会うのも悪くない。


「リンネ様、ケンゴ様のおなーりぃ~!!」


 湖の中心にある王城まで続く一本道になぜか兵士たちと楽器らしい物体をもった人物たちが立ち並び敬礼している。


「いやいやいや、やりすぎだろ……」

「はぁ……全く。個々の連中は本当に暑苦しいのだけが厄介ね」

「悪気はないんだろうけどなぁ」


 兵士たちが立ち並ぶのはアルクィナスでもあったけど、あっちの兵士たちはもっと気軽と言うか、ニヤニヤした表情を浮かべていて距離感が近かったけど、エルフたちはもう感無量って表情で並んでるんだよな。


 流石にそこまで崇めるような状態だとこっちも辟易としてしまう。


「しょうがないか」

「ええ、付き合うしかないわ」


 俺とリンネはあきらめてその間を通って城へと向かって馬車を走らせる。


―パー、パララ、パー


 俺達が一本道に入るなり、音楽隊がメロディを奏で始める。その音楽は荘厳で、まるでクラシックを演奏するオーケストラの中にいるようだ。しかし、その中を通っていくのはなんだか晒上げみたいで滅茶苦茶恥ずかしかった。


「ようこそ、フェアリーパレスへ。リンネちゃん、ケンゴ」


 通った先の城門を潜り抜けると、城の入り口の階段の上に、アレリアーナ、通称アレナが立って俺たちを慈愛に満ちた笑顔で俺たちを見下ろしていた。


「流石に仰々しすぎるだろ、アレナ」

「そうよ、やりすぎよ?」

「まぁまぁ。私はともかくあの子たちは久しぶりだったんですから、許してあげてください」


 俺とリンネが階段を登って彼女に近づいて文句を垂れると、可愛い子供たちを見るような優しい目で下にいる兵士たちを見つめて俺たちをアレナが窘める。


 アレナは女王ではあるが、俺達が同じ場所に立っても他のエルフたちは何も言わない。むしろなぜか涙を流すものまでいて、さらに信仰心のようなものが強くなっている気がする。


 それにしても相変わらずバブみに溢れる小学生みたいな女王だな。


「まぁアレナに言われたら仕方ないわね」

「そうだなぁ」


 なんだかアレナの言葉には人を包み込むような優しいオーラが出ているのかもしれない。


「それじゃあ、早速私の部屋に行きましょう。そのつもりで来たんですよね?」

「ええ、もちろんよ」

「そうだな」


 俺たちは旧交を温めるべく、アレナの部屋へと向かった。


「それですね、あの、そのですね……」


 アレナの部屋に入るなり、なんだかモジモジし始めて先ほどまでの聖母のような姿とは打って変わって見た目の年相応に子供っぽい雰囲気を醸し出す。


 ははーん、これはあれだな。


「全く、素直に言えばいいものを」

「そうね、女王なんてしてるから我慢しちゃうのかしら?」


 俺たちはそんなアレナの様子を意地の悪い笑顔を浮かべて眺める。


「あ~、そんなこと言わなくてもいいじゃないですか。そうですよ、行きたいんですよ、無限図書館に」


 そう、彼女は一度あの果てるとも知らない本が所蔵された図書館に圧倒されて以来、あそこに行くのが楽しみでしょうがなくてそわそわしていたのだ。


 そういうこどもっぽい一面もあるのがアレナだ。


「それじゃあ、今日はあっちで飲みながら話をするか?」

「いいんですか?」

「別にいいんじゃない?アンリが何も言わないなら」

「やったー!!」


 その日俺たちは、無限図書館に跳び、本を傍らに旧交を温めた。

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