第198話 懐かしく、忌まわしい城

 ここは王城の目の前の少し開けた場所。


 町中の情報収集を終え、俺達はここにやってきた。街は国民を含め人間が世界の頂点であるという価値観や、その価値観を推奨する宗教が国教になっていることがわかった。


 俺たちは偽装魔法により、表向きこの世界の普通の人間と変わらないので、特に差別などをされることもなく、多少訝しく思う連中もいたが、概ね快く俺たちの質問に答えてくれる。


 上が腐っているがゆえに、末端までこの街は腐ってしまっていた。この国のどこまでこんな教えが根付いているか分からないけど、とにかくはこの街はもう手遅れと言っていいほどその教えに染まっていた。


「外から見上げるのは初めてだな……」

「そうなの?」

「王城内で召喚されて、そのまま転移装置に乗せられたからな」

「許せないことだけど、そのおかげケンゴと出会えたと思えば感謝した方がいいのかしら?」

「さてな……。俺はもうどうでもいいと思っているが、他の種族に侵攻しようとしているなら話は別だ。大人しくなってもらいたいところだな」

『面白い形してるねぇ~』


 俺は王城に対して郷愁のような感情を想起し、リンネと話していると、イナホは率直な感想を念話で述べる。


 見た目だけは歴史を感じさせ、荘厳な佇まいを日の光のもとにさらしている王城は、それはそれは美しい。でも中身はドロドロな辺りが、なんというかこの国を体現しているようで少し滑稽に見える。


「おい!!お前たち!!王城の前で何をしている!!」


 しばらく城を見上げていると、王城の門番が最初から喧嘩腰で俺達に近づいている。


「いや何って王城を見てただけだが?」

「なんで城を見る必要があるんだ!!」

「外から来たから珍しいから見てただけだ。何かおかしいのか?」

「ふん、よそ者か。ここは神聖な王族の住まう場所だ。お前たちのような下賤な平民が来るところではない!!即刻立ち去れ!!」


 ただ見ていただけで兵士に文句を付けられた件……。


「これを見てもらっていいか?」

「なんだ?」


 俺はさも何か重要そうな巻物を手渡し、催眠魔法で城門の通行許可証に見えるようにする。


「こ、これは!?失礼しました!!ささ、お通り下さい」


 その真っ白な巻物を見て何が見えたのかは分からないが、突然顔色が変わり、ぺこぺこと謝罪した後、俺達を先導して城門の通用口に案内する兵士。


 念のため、他の兵士達にも催眠魔法をかけておいて全員が許可証を見て通したという事実を作っておいた。それから城門を通った後、俺達は少々面倒なので、インフィレーネでステルス状態になって城内を進んでいく。


 あ、あそこの建物はみたことがあるな。


「あそこの中で俺たちはこの世界に呼ばれたんだ」

「へぇ~。なんだか古代遺跡のような造りをしているわね」

「そうだな。おそらくあっちは古代遺跡なんだと思うわ、多分」

「へぇ~」


 リンネが古代遺跡と聞いてとても行きたそうな表情をしている。


 俺はあの時のことを思い出してしまう。


 俺をゴミのように見つめる高校生たちや王族に貴族や兵士。そして俺をおもちゃのように誰も帰ってきていない場所に送り込んだあの糞ったれな国王。少しあの時の気持ちがよみがえり、憎しみの炎が燃え上がる。


「後であそこにも行くから今は目的を優先するぞ」

「わ、分かってるわ」


 俺から殺気が漏れていたのか、慌てて気を取り直すリンネだが、少し残念そうだ。


 落ち着け。あいつらは高校生だ。自分が特別扱いされて、ちょっとくらい調子に乗るくらい普通だ。今は仲間がいるし、楽しい生活を送っているから別になんとも思っていない。


「ふぅ~」


 深く息を吐いて気分を落ち着かせる。


 まずはあいつらがいるかどうか探さないとな。


 気持ちを切り替えた俺は、適当な兵士を捕まえて催眠魔法で情報を聞き出す。


 兵士によれば、勇者たちはすでにここではなく、魔王種を討伐するために、魔王種の巣がある場所の近くにある町に行っているらしい。


 一足遅かった、というかやはりあいつらが何かしたから魔族が侵攻してきていると見るべきだろうな。


 そういえば肝心なことを聞かないとな。


「あいつらは自分の意志で戦っているのか?」

「はっ!!あいつらは人間じゃなくて化け物だ。でもその力は有用だ。だから俺たちの命令を聞くように隷属の首輪をつけて活用してやってるのさ」


 返ってきたのは反吐が出るような答えだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る