第166話 飲み比べ大会③

「おっとここでサケノミタイガー選手とウワバミヒューマン選手が仕掛けました。みるみる飲むスピードを上げて、サイレンスシュシュカを追い上げます。しかし、20分ほどで着いた差は歴然。果たして追いつくことができるのか!?」


 変な仮面をつけたサケノミタイガーという獣人とウワバミヒューマンという人間の選手が急速にペースを上げていく。


 序盤で圧倒的なスピードで他の追随を許さないほどのアドバンテージをあげていたサイレンスシュシュカも中盤に入ってペースがかなり落ち始めていた。そこをつくように二人が動いたようだ。


 そのスピードはスタート時のサイレンスシュシュカのスピードに負けずとも劣らないスピードだ。


 サイレンスシュシュカの後を最初から追っていた選手たちはサイレンスシュシュカのあまりのスピードに今はスピードを落としてしまっている。それでもガブガブ飲んでいるには違いはないんだが。


「ここにきて流石のサイレンスシュシュカもスピードが落ちてきましたね、あれリアナ様」

「そうですね。流石にあのスピードで飲み続けるのは無理だったみたいですね。あのまま飲み続けられたら優勝確実だったでしょうけど、これで分からなくなりましたね」

「確かにおっしゃる通りですね。二十分もの間あのお酒を飲み続けられたこと自体凄い事ではありますが、そろそろ胃の容量や酒の回り具合を考えると、厳しくなってきたのかもしれませんね」


 和やかでさも当然なように話しているが、ここまで飲んでいる量はジョッキ何杯とかいう話ではなない。樽が何樽かっていう世界の話だ。それを平然と話しているのが俺からすれば信じられない。


 全く異世界の常識は半端ないな!!


「あの選手たちは中々研鑽を積んでいるようだな。私でもあそこまで飲むことはできない」


 カエデはウンウンと頷きながら飲み比べに出ている選手たちを感心しながら見つめていた


「カエデって酒強いのか?」

「あの選手たちと比べるとそれほどでもないがな。そこそこ飲める方だとは思うぞ?」


 今までそこまで沢山の酒を飲む機会がなかったが、カエデはそれなりに飲める人間のようだ。


「私も強いわよ!!」

『それはない!!』


 何を対抗したのかリンネもアピールしてくるが、全員に否定されるのであった。


 毎回絡み酒を晒しておいてどの口がいうのだろうか。


 そんな俺たちのこととは関係なく、飲み比べ大会は終盤へと差し掛かっていく。


「大会ももう残り十分。すでに全員が満身創痍と言った状態と言えるでしょうか」


 大逃げをかましたサイレンスシュシュカも仮面選手のウワバミヒューマンもサケノミタイガーもすでにべろんべろんになって体を揺らしながらジョッキを傾けていた。


「いえ、一人黙々と飲み続けている選手が一人残っているようですよ」

「え!?」


 アレナの指摘にウマムースは驚きの声を見せてキョロキョロと選手を見回した。


「あっ!?ロリカ選手!!軒並み他の選手がペースを落とす中、淡々と飲み続けてすでに優勝候補たちに後一樽というところまで来ています。信じられません!!」


 そう、最初は遅すぎて全く見向きもされなかったロリカが一定のペースを守ってひたすらに飲み続けた結果、長丁場ゆえに飲むペースが落ちてしまった選手たちに追いついてしまったらしい。


 ロリカの顔はほんのり赤らんでいる程度で他に変わった様子はない。もちろんお腹がポッコリ出てる様子もない。


 他の選手たちは腹がパンパンになっているっていうのに一体どういう身体構造しているんだ?


 そしてついにその時は訪れる。


「残り一分!!なんということでしょう!!ロリカ選手がサイレンスシュシュカ選手を抜いてトップに立っていたサケノミタイガー選手と並んだぁ!!なんというマイペース。ここまで一定スピードで飲み続けられる選手はみたことがありません!!」


 なんと、下馬評では全く見向きもされなかったロリカというドワーフがトップにななってしまった。


「5、4、3、2、1、しゅうううううううりょぉおおおおおお!!」


 そのままロリカがトップのまま大会の競技時間は終了した。


「誰がこの展開を想像していたでしょう!!まさか全くノーマークのロリカ選手が優勝!!優勝です!!二着は惜しくも僅差でサケノミタイガー選手、三着がサイレンスシュシュカ選手となりました」


 こうしてダークホースのロリカが優勝となった。


 まさかの結果だったが、選手たちは互いが互いをたたえ合い、お互いを労っている。


『やっちまったぁ!!!!!!!!!!』


 しかし、そんな中ダメージ受けたのは者がいた。


 それはまさかロリカが優勝するとは思わず、馬券のような賭けチケット買った者たちだった。


 彼らは選手たちの健闘を讃えながら涙を流していた。

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