第140話 王都

 ドワーフの村を出て一日。


 街道沿いを引き続き馬車にて走っている。


「まだドワーフの王都って見えないのか?」

「見えてるわよ?」

「は?」


 窓際のテーブルに座って紅茶を飲みながらリンネの尋ねると、首を掲げて小悪魔のように笑いながら答えた。


 俺は意味が分からずにおかしな声を出してしまう。


「一体どういうことだ?」


 窓から顔を出して辺りをキョロキョロ見渡すが草原と岩山しか見えない。


「見えてるじゃない、ほら」


 隣から顔を出すようにして岩山を指さすリンネ。


「まさか……?」

「そう、そのまさかよ。あの岩山がドワーフの王都ヘパステンよ!!」


 リンネの方に顔をギギギと向けると、ニヤリと笑ってからドヤ顔で彼女は答えた。


「はぁ!?いやだって岩山じゃねぇか!?」

「ドルトンも言ってたでしょ?地下に穴を掘ったり、山に穴を掘ったりしてくらしているって」

「マジかよ」


 いたずらが成功した子供のように笑ってウインクをするリンネに、俺は呆然としてしまった。


 確かに徐々に近づいてくるにつれて、山自体も削られて城のような形をしていることが分かる。


「うまおじ見せて~!!」

「僕にも見せて!!」

「私にも~!!」

「俺には肉をくれよな!!」


 俺が王都らしい岩山を見て騒いでいると子供たちが群がってきた。


 相変わらずキースは肉のことばかり。でもちゃっかり一緒にやってくるんだから可愛い所だ。


「ほらよ」


 俺とリンネは子供たちと場所を変わり、持ち上げて支えて見えるようにしてやる。


「うわぁ!?」

「デカい!!」

「おっきいねぇ!!」

「肉程じゃないけどなかなかやるな」


 すると、俺とリンネの腕の中で子供たちがはしゃぐ。キースだけは腕を組んでウンウンと頷いているが。抱きかかえているとまだまだ軽いが、肉が大分ついてきたことが分かる。最初にあった頃は本当にがりがりだったからな。


 この子たちの他にもスラムに住む子は沢山いるだろうが、この子がカエデと一緒にいたことは運が良かったといえる。偽善だろうが、この子たちはきちんと成人まで面倒を見ようと思う。


「主君、奥方様、子供たちすまないな」


 子供たちの後からカエデがやってきて、俺とリンネに少し申し訳なさそうに頭を下げる。


「いや気にするな」

「そうね。この子たちはウチの子みたいなものだもの」

「そういってもらえると助かる」


 俺たちの答えに、安堵するように息を吐くカエデ。


 もうカエデは俺の部下なんだし、一緒に住んでるんだから家族みたいなもんだ。その家族が養ってる子供たちも必然的に家族になるだろう。


 それに子供たちは可愛いしな。


 過酷な生活環境の中で生き残るために教会でひっそり暮らしていたせいか、聞き分けもいいし、わがままもそんなに言わない。もう少しわがままを言っても小学生低学年くらいの子供たちなら全然良いんだけどな。


 それから程なくして岩山城の近くへとたどり着いた。


 この岩山城の迫力たるや山のごとし!!

 あ、というか山そのものだったわ!!


 奉納祭が近いせいで行列ができているので、俺とリンネは念のため御者席に座って普通の馬車っぽくして進む。振り向くと、子供たちやカエデやイナホも窓から顔を出して岩山城を眺めているようだ。


 王都はこの城の中にあるらしく、岩山が門のような形にくりぬかれ、その大きな口を開けている。その入り口にはドワーフの門番らしき人物が左右に一人ずつ立っているようだ。


「これいつ入場できるんだろうな?」

「な、なんとか今日中に入れると良いわね」


 俺の呟きに、狼狽えながらリンネが答えた。


 かなり長い行列ができていて、俺たちが入場できるまでかなり時間がかかりそうだ。


 案の定俺たちが王都に入場できたのはすっかり日も暮れてしまった頃であった。


 宿見つかるだろうか……。

 

 俺は少し憂鬱な気分になりながらその大穴の中へと馬車の歩を進めていった。

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