第119話 旅立ち
「ドワーフの国か……ちょうど良かったな」
「そうね」
「どういうことなんだ主君?」
俺とリンネがお互いに分かり合っている所に、カエデは何のことか分からないと、不思議そうな顔で俺達に尋ねた。
そういえば、バレッタを紹介したり、船に連れていったりはしたが、俺たちがどうしてこの国に来たとか、俺達が旅している目的とかちゃんと話していなかったな。
いい機会か。
「ああ。俺たちは試練の洞窟の奥にあった『英霊の園』や俺の船が隠されていたような超古代遺跡を探すため、各地の古代遺跡を巡ってのんびり旅しているんだが、エルフの国に行った時に得た古代遺跡の情報がここ、獣人国と、ドワーフの国だったんだ。だから次はドワーフの国ってことさ」
元々次はドワーフの国へ行くつもりだった俺たちにとって、船のパーツがドワーフの国の古代遺跡にあるであろうことが分かって渡りに船といった感じだった。
「そういうことか。なるほどそれは確かにちょうどいいな。私も生まれてこの方、獣人国以外には行ったことがなかったからな。楽しみだ。子供たちもいい経験になるだろう」
国外に出るとあってカエデも嬉しそうにしている。もう出会った時のような力の無さを嘆く、憂いに満ちた表情をしなくなって何よりだ。
「そうだな。急ぐ旅でもないし、ゆっくり観光しながら旅をするのも悪くないな。天空島にもすぐ行かなきゃいけないってわけじゃないし」
「そうね。獣人国内はまだケンゴに襲い掛かってくる人もいるだろうから注意が必要ね。南の大陸に渡ってからなら流石に大丈夫でしょうけどね。ケンゴの馬車なら疲れもあまり溜まらないでしょうし、何かあれば船に居てもらえばいいしね」
確かにその通りだ。俺に襲い掛かってくる獣人は武術大会に集まっていたので粗方倒したと思うが、それでも獣人全てが集まったわけではない。まだまだ潜在的な危険があるということか。
安全のため、子供たちにはインフィレーネで結界を張っておくべきかな。
それから俺たちは天空島を眺めながらしばらく話をして部屋へと戻り、試練の祠での戦いの疲れを癒すため、馬車を出して風呂に入り、ベッドに倒れ込んだ。
そして、俺たちは数日程獣人国の王都でのんびりと過ごした後、ドワーフの国に向けて旅立つことにした。
獣王に別れの挨拶に行くと、最終日の夜はまた飲めや歌えや騒げの大宴会が行われ、多くの者たちがその醜態を朝まで晒すことになったのであった。
「まずはどこに行くんだっけ?」
「主君ドワーフの国への船は、南の港町アールスデンから出ている。そこに向かうのがいいだろう」
「了解」
大宴会の次の日、死屍累々の街を尻目に、次の目的地を確認し、一路南へと向かって出発するために馬車を走らせ、街の城門に差し掛かる。
すると、城門の先からひょっこり獣王が顔を出した。俺は窓を開けて馬車を停めた。あたりの兵士も苦笑いを浮かべている。
「おう、見送りにきてやったぜ?」
「いや、獣王が勝手に抜け出してくるなよ」
自由に抜け出してはサボっているこいつには本当に呆れてしまう。
王の仕事が孤独で息が詰まるというのは分かるが、こいつは本当にサボりすぎだ。文官たちの苦労のが偲ばれる。
「大丈夫だ。上手く言ってきたからな」
「シンに怒られても知らねぇぞ」
「あんたは相変わらずねぇ」
俺はジト目でニヤリと笑う獣王を睨み、リンネは隣で呆れていた。
「大丈夫だ。それより、良く俺の国を救ってくれたな。お前がいなかったらかなり大きな被害が出ていただろう。礼を言う」
「なんだよ、改まって」
一国の王だけになんか裏がありそうな気がしてしまう。
ついつい怪訝な表情をしてしまった。
まぁこいつがそんなこと考えてるはずもないか。
「ケジメだよ、ケジメ。それに、あれだ。何かあったら俺に頼れよ?俺にできることは何でもするからよ」
照れたように頬を赤らめて頭を掻く獣王。
ワイルドなおっさんのテレ顔は誰得なのか。
獣人達には需要があるのかな。
少なくとも俺にはない。
「おまえキモいぞ」
「なんだと!?人が親切に言ってやってんのに。なんて言い草だ」
俺の指摘に獣王が憤慨する。
あまり長話するのも悪いな。
「おっとつい本音が。まぁどうしても協力が必要になったら連絡する」
「はぁ。最初から素直にそう言えよな」
俺がおちゃらけたように話すと、獣王はあきらめたようにため息を吐いた。
「それじゃあ、またな」
「おう。またな。次はもっと強くなってるからよ。また手合わせしようぜ」
「やなこった!!」
心底楽しみしている獣王を尻目に俺は馬車を進める。
「おいちょっと待てよ!!」
そんな声が聞こえた気がしたが気のせいだろう。
馬車を爆走させ、俺たちは王都から旅立った。
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能無し陰陽師は魔術で無双する〜霊力ゼロの落ちこぼれ、実は元異世界最強の大賢者〜
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