第086話 制限

「姉ちゃんに何するんだ!!」

「離れて!!」


 知らない人がいるのを確認し、目をはっきりと覚ました子供たちが俺の前に立ちふさがってカエデを守ろうとする。


 なかなかいい子たちだ。


「こらこらお前たち止めないか」

「なんでだよ!!」

「また物取りとかじゃないの?」

「姉ちゃんの体目当てだろ」

「ふわぁ」


 子供たちが騒ぎ出すと途端ににぎやかになった。


 子供たちに囲まれるのも悪くないなぁ。


「いいか、この人は私を助けてくれたんだぞ?」

「そうなのか?」

「いいおじさんなの?」

「ふーん」

「おはよう」


 カエデは自分の前にいる子供たちを諭すように頭を撫でる。


「これからどうする主君」


 子供たちが落ち着くと、こちらを向いて今後の予定を尋ねるカエデ。


―キュルルル


 しかし、可愛らしい音によって遮られた。


 その出どころは子供たちである。

 戦い通しでご飯も食べてなかったからちょうどいいだろう。


「ひとまずこの子たちを腹いっぱいにしてやるか」


 俺は倉庫から出来合いの料理を出してやる。

 獣人が好きそうな肉料理を床に並べてやった。


「なにこれ!!」

「いい匂い!!」

「凄ーい!!」

「じゅるっ……!!」


 子供たちは料理を見た途端、目を輝かせる。


「こ、これは一体!?」

「ああ、俺はマジックバッグを持ってるからな。そこに入っていた料理を出しただけだ」

「それにしても出来立てというのは……じゅるっ」


 カエデは驚きながらもよだれが出るのを止められない。


 こいつらのやせ細った状況を見るに碌な食事情ではなさそうだからな。


「これ食っていいのか、旨そうなおっちゃん!!」

「いいの、旨そうなおじさん!!」

「食べたいよ、旨そうなおじさん!!」

「じゅる……旨そうなおっさん!!」


 しばらく料理を眺めていた子供たちは凄い勢いでこちらを向く。


 俺はなんか旨そうなおじさんにされてしまったようだ。

 まぁハムの人みたいなもんだと思えば、覚えられないよりははるかにマシだろう。


「こら、お前たち失礼だぞ。この方はケンゴ様だ」

「いや、いいんだ。この子たちは別に部下でもなんでもないんだからな」

「そうか。主君の意向なら仕方ないな」


 カエデが少ししかめっ面をして子供たちを叱るが、俺がとりなすと引き下がった。


「ああ、みんなで食べよう」


 俺たちは料理を囲むように座って料理を食べ始める。


 彼らには皿とスプーンとフォークを用意してやって、カエデが皆に配り、彼らはがっつくように食べる。


 まるでアニメや漫画で見るような食事風景だ。

 現実でやればまず間違いなく白い目で見られるだろうが、子供たちが美味そうに食べてくれるならそれでいい。


 しばらく食べると全員がお腹いっぱいになったのか、横になって動かなくなった。


 また眠ってしまったようだ。


「ふぅ、これだけ食べたのはいつ以来だったか」


 人心地が付いたのか、俺にカエデが語り掛ける。


「おう。腹いっぱいになってよかった」

「主君よ、感謝する。私だけでなく子供たちまで助けてくれるとは、感謝してもしきれない」


 彼女は改めて俺に頭を下げる。


 こういうのは柄じゃないんだよなぁ。

 見過ごせなかっただけで。

 ロマンの損失は世界の喪失だしな!!


「気にするな。カエデの家族なら俺の家族も同然だ」

「ふっ。言うこともまさに主の言葉だな。それで今後どうする?」


 子供たちが寝静まったところで、カエデは先ほどの質問をする。


「とにかく俺が倒しまくるしかないんだよなぁ。そうしないとあの子たちみたいに獣人が俺に襲い掛かってくるからな。カエデ以外は例外今まで一度もなかった」

「ふむ。なるほど。確かに鍛錬をしていない者たちは本能に飲まれてしまうかもしれないな」


 お互いに腕を組んでうーんと唸り合った。


「だから騒動が納まるまでとにかく倒して倒して倒しつくす。これにつきるだろう」

「そうか、では私もお供しよう。力を手に入れた今なら多少なりとも助力できるはずだ」

「分かった。この子たちが寝ている間にさっさと終わらせよう」


 インフィレーネがあれば苦戦のしようがないんだがなぁ。


 そうは思っても彼女の善意を無碍にする訳にもいかず一緒に戦うことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る