幕間3

EX.04 夢の続き(ユウキ・コウノ)

「よくぞ試験を突破なされたな、ユウキ殿。全く苦戦されなかったとか」

「ええ。特に問題ありませんでした」


 目の前で揉み手をするいかにも小者臭のするおじさんは冒険者ギルドのヒュマノス王国の王都支部のギルドマスターだ。


 俺みたいな元高校生にもヘコヘコ頭を下げている。


 プライドというものがないのだろうか。こういう大人にはなりたくないなぁ。


「それは素晴らしい。これなら近々Sランクに推薦できるでしょう」

「そうですか。それは嬉しいですね」


 大げさに褒めたたえるギルドマスターに、俺も笑顔で答える。


 笑顔は慣れている。昔から俺の周りには人が集まっていたからな。自然と身に着いた。


 それにしても、それならすぐにでも推薦しろよなぁ。全く手間がかかる。


 俺たちは1か月という速さでAランク試験に挑むことになった。依頼内容は貴族の護衛任務だった。モンスターも今の俺達には大したものではなかったし、相手の貴族も俺たちに対して傲慢に振舞うようなタイプでもない。


 貴族の護衛が裏切るというイベントはあったけど、それも大したことはなく、俺たちにあっという間に制圧されてしまった。


 なんで俺たちが依頼を受けている時にそんな大それたことをしでかしたのか分からない。俺たちが異世界から召喚された勇者だということも、異例の速さでランクを上げているということも知っているはず。


 俺なら絶対にそんな時に事を起こさない。


 まぁ俺たちが主人公の物語だからイベントは起こってしかるべきということなのかもしれないな。


 それを考えればあのイベントは俺たちのためにあったということか。


「それではこちらが皆様のAランクのギルドカードです」

「ありがとうございます」

「おお、これがAランクのカードか!!」

「なんだか光沢が出たわね」

「これならまだマシかなぁ」


 差し出されたカードを受け取って各々が反応を示す。


 健次郎は嬉し気に、聖は光に反射させて材質を確かめ、真美は今までの木や銅と違って光沢のあるシルバーのカードがオシャレ的になんとか合格点のようだ。


「それでは今日の要件はこれくらいですかね?」

「そうですね。何かお願いしたい依頼があれば、王城へご連絡いたします」

「分かりました」


 俺たちは要件を済ませると、ギルドマスターの部屋から退出した。


「おお、勇者様たちがまたやったらしいぞ」

「すげぇよな、あっという間にAランクじゃねぇか」

「ホントにな。まだ冒険者登録して2週間くらいだって聞いたぜ」

「そうそう。俺ちょうどその場に立ち会ったからな」


 受付前の広場では俺たちの話題でもちきりになっている。


 当然だよなぁ、こんなに早く昇格していく人間なんていないもんな。


 まさに主人公そのもの。ふふん、気分は最高だ!!


「おい、お前ら調子に乗ってんじゃねぇぞ?」


 そんな俺たちの気分に水を差す声が耳に届く。


 声の主の方を見ると、男ばかりのパーティ。黒い甲冑を身に着けている悪人面の男、いかにも斥候役をしそうな細身の糸目男、ローブをきた魔法使い風の男、そして大きな盾を背に負う大男で構成されている。


「俺たちに何か用ですか?」

「ああ、新人が調子にのっているようだから忠告しにきた」

「ああ、そうですか。ありがとうございます。それでは」


 俺は面倒なので、適当に感謝の言葉を述べてその場を去ろうとする。


「おいまてや」


 黒甲冑の男が俺の肩を掴もうとしているが気配で分かったので、俺は振り向いてその手をはじいた。


「な!?」


 相手は驚愕の表情を浮かべている。


「その汚い手で俺に触らないでもらえますか?」

「なんだと!?」


 俺がにこやかな笑顔を浮かべて手をハンカチで拭きながら振り返ると、驚いていた男が激怒し始めた。


「俺たちは忙しいんですよ。あなたに構っている暇はないんです」

「ふざけんなよてめぇ!!俺達を誰だと思ってんだ?」

「知りませんよ、あなた達のことなんて。興味もありません」

「そりゃあ、運がなかったなぁ。俺達ベテランのSランクパーティに喧嘩を売ったことを後悔させてやるよ」

「へぇ。どう後悔させてくれるんですか?」

「こうやってだよ!!」


 黒甲冑が拳を振り下ろす。


 速い。でもそれだけだ。俺には良く見えている。


 左手で弾いて、がら空きになったその顔に右の拳を打ち込んだ。

 

「ぐへぇ」


 みっともない声を上げて後ろに倒れる黒甲冑。


「てめぇ!!」

「許さねぇ!!」

「痛い目を見たいようだ!!」


 その姿を見て他の三人が俺にとびかかる。幸い剣を抜かないのはわきまえていると言えるだろうか。


「ハァ……ヤレヤレ」


 俺はため息を吐き、首を振った後、三人に視線を向け、拳を振った。


「はぎゃ!?」

「ほげ!?」

「ひでぶー!?」


 全員まともに喰らい、黒甲冑の上に積みあがるように重なる。


「全く何を後悔させたかったんだか……」


 俺は独り言ちると、少し離れた仲間の元へと戻った。


「うぉー!!勇者様、あの漆黒の牙を何もさせずにのしちまったぞ!!」

「すげぇ!!全然見えなかったぜ」

「きゃー!!かっこいい!!ユウキ様ぁ!!」


 周りは俺の活躍にさらに過熱する。


 いい引き立て役になってくれたみたいだな。


「待たせたな」

「まさかこのタイミングでテンプレとはなぁ」

「ホントにあるのね」

「もう早く帰りましょ」


 戻ってきた俺にそれぞれが感想を述べるが、真美はそそくさとギルドの入り口へと向かう。


 全く相変わらずだ。


「そうだな、それじゃあ、さっさと帰るか」

「そうだな」

「そうね」


 俺は聖と健次郎に声を掛けると、ギルドを後にした。



■■■■■



 勇気達が帰った後の冒険者ギルドマスターの部屋。


「これで良かったんですか?」


 漆黒の牙のリーダーの黒甲冑がギルドマスターに尋ねた。


 黒甲冑は依頼の首尾が気になるらしい。


「ああ、すまないねぇ」


 ギルドマスターは申し訳なさそうに頭を下げて、何も問題なかったと告げる。


「いえ、ギルドマスターにはお世話になってますからね」

「ありがとう」

「でもこんな依頼は今回だけにしてくださいよ?」


 黒甲冑は心底嫌そうな表情になった。


 あんなCランクの冒険者のような真似は、依頼とはいえ流石に嫌だったことが窺える。


「分かっている。君たちSランクパーティ『漆黒の牙』に二度とこんな依頼はしないさ」

「それならいいんですけどね」

「今日は悪かったね。報酬には色を付けておくよ」

「ありがとうございます」


 黒甲冑が感謝を述べると、漆黒の牙のメンバーは全員部屋を退出していく。


「あと少しの辛抱さ……」


 扉が閉まったのを見届け、椅子に深く腰掛けて、ぼんやりと天井を見つめて、ギルドマスターは意味深に独り言ちた。 

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