第5話 過去③
「さて、どこまで話したかしら?」
「跡取りのあたりからですね」
おおよそ10分が経過した頃にファナが戻ってきて、話の続きが行われることになった。その頃にはゼノンの顔もいつも通りに戻っていた。
「そうね。私たち家族は決して仲は悪くなかったの。跡取りの論争は基本的には兄が次の魔王だって言われていたわ。だけど……はっきりいってしまえば兄より私の方が強かったの」
「そりゃまた…」
そんなハッキリと言いきれるものなのだろうか?と少し思ってしまった。とんでもないほど自信があるんだな。
「事実だもの。その頃から兄は少し私に敵意を持つようになったように感じるわ。…結局お父様が負けることはないでしょうからそんな論争意味無いのにね…って当時の私は思っていたわ」
「師匠の妹さんとお母さんはどうだったんですか?」
ここでゼノンが純粋な疑問をぶつけた。
「妹はよく私に懐いていたわね。懐かしいわ。私たち姉妹はよく遊んでいたの。妹も私より弱かったことと、まだ幼かったから跡取りには関わっていないわ。母はそんな兄も私達も暖かく見守ってくれていたわね」
暖かく見守る…をその言葉にゼノンはリル先生のことを少し思い出した。きっとファナの母も同じような魔族だったのだろう。
「だけど重なって反魔王派なんてものが出来てしまった。そして反魔王派はあることを行ったの」
「あること?」
「兄を勧誘したのよ」
「え!?じゃあ!」
「兄はその勧誘を断ることはせず、反魔王派の旗印になってしまった。お父様と殺り合うことを決めたの。これがお父様の一つ目の誤算」
「でも、魔王って強いんでしょ?師匠より弱い吸血鬼が敵のリーダーになったぐらいでそんなに変わるんですか?」
「1番大きなことは反魔王派にも支持する民衆が増えたこと。そして……お父様は私たち家族には優しかったから……。家族と殺し合うことはしたくなかったの。だけどそれだけならお父様が負けるはずはなかった。何より人間の方で忙しいとはいえ、やろうと思えば勇者すら味方にできたのだから」
「それは、そうですね…」
「だけど、ここで2つ目の大きな誤算があったの」
ゼノンはただ黙って頷いていた。緊張と興奮で手は汗ばんでいる。
「…お父様には昔から親友とも言えるほど仲の良い部下がいたの。その吸血鬼はお父様の右腕とも言うべき人で当時の国でもお父様の次に強かったわ。だけど…ソイツはお父様を裏切った」
「!?どうして!?」
「…私も知らないわ。だけど裏切ったことは事実よ。そして内紛は本格化していくことになった」
「人間との争いはどうなったんですか?」
「私も詳しくはわからないわ。だけど、そっちでも問題があって、勇者も対処に当たっていたらしいわ。ついでに言うと私は内紛に関しても詳しく知らないの。お父様が知ることのできないようにしていたのよ。だから私は妹とお母様の3人でその頃は過ごしていたわ。だから…私もその後のことは詳しくないの」
「?じゃあ、どうして人間族の方にいるんですか?」
「……今から話すわ。内紛は終始魔王派の有利だったと聞いてるわ。裏切りがあったとはいえ、魔王の力は凄まじかった。それほどまでに血液魔法は強力だったわ。でも…ある時に魔王城に勇者がやってきたのよ」
「勇者?それまたどうして?勇者も人間側で忙しかったんでしょ?」
「それは知らないわよ。だけど、そのあとのことよ。魔王は大きな戦いに挑み、敗れ、死んでしまったわ……………」
「え!!?」
その言葉はゼノンに衝撃を与えた。真っ向から戦って死んだということは血液魔法を使っても勝てなかった相手がいることにほかならないからだ。
つまり……血液魔法のゼノンでは勝てない。
「そこからは暴動の嵐よ。そこで決着が着くことはなく、争い、そして吸血鬼は特にその数を減らした。元々多くはなかったのだけれどね……。長くを生きてるつもりだけれどほかの吸血鬼の話は聞いたことは無いわ」
「じゃあ、なぜ師匠は生き残れたんですか?」
「……勇者に助けられたの」
「勇者に!?」
「えぇ。そこで私たち家族はバラバラになったわ。風の噂でお母様が死んだことは聞いた。妹はわからないわ。でも………何も噂を聞かない限りどこでか死んだと思うのが妥当でしょうね。そのあとは勇者に連れられて人間の国にやってきたのよ。これが私の過去のほとんどよ。これを聞いてあなたがどう思おうが自由よ」
「質問が3つほどあるんですが、いいですか?」
「えぇ。なんでもどうぞ」
ひとしきり喋り終えて、机の上にある紅茶を丁寧にそして美しい所作で飲んでいくファナに対してゼノンが手を挙げで質問する。
「1つ目、先生が人間の方に来た後、どうして魔族側に戻らなかったんですか?」
「そう…ね…。勇者が死んだ後、そうしようとも思ったわ。だけどこっちに残った理由は3つね。1つは勇者に恩を返そうと思ったから。2つ目は純粋に向こうに帰るのが嫌だったの。今は知らないけれど昔は
「なんとなく?」
「えぇ。これは勘でしかないけど、ギルザは生きてると思ったからよ」
「ギルザ?」
「お父様を裏切った元腹心よ」
「なるほど。それは情報とかはないんですか?」
「勘でしかないと言ったでしょう?でも死んだとは思えない。昔から強い癖にあんまり表に出ずにネチネチとしてたもの。だから……アイツに色々と聞くまでは帰る訳には行かないの」
酷い言われようだな…。そう思ったが、ファナの気持ちを考えればそう思うのも仕方なかった。
「それなら魔族側の方が情報が集まるんじゃないですか?」
「アイツは表には出てこないわ。仮に会える状況になったとしても暗殺されるのがオチよ。…吸血鬼は心臓を刺されれば死んでしまうわ。私は色々と聞きたいことがあるから暗殺する訳には行かない。なら、正面戦闘しかないわ。魔族側ならそんなチャンスはないけれど、
「なるほど〜。じゃあ、2つ目。今、師匠何歳なんですか?」
ゼノンの知っている『勇者の英雄譚』。あれはゼノンの中では500年程前だったと記憶している。そこから逆算すると、ファナの年齢はいくつになるのだろうか?と純粋に疑問に思ってしまった。
「女性に年齢に聞くなんて失礼にも程があるわ……と、言いたいけど答えてあげる。確か……423……だった気がするわね…………」
「423!?ババ……」
ファナからの告白に思わず大声を出して驚いてしまう。しかし、
ビュウ!
と、その瞬間に何故かかまいたちが発生してゼノンの頬をかすめ、真っ赤な血が滴る。
「あらあら、何故かかまいたちが発生したわね。気をつけなさい。きっと風の精霊が怒ったのね。それで?何を言おうとしたのかしら?」
「…………いえ、師匠の美貌は素晴らしいですね」
「よく分かってるじゃない。女性を褒めるのは基本中の基本よ」
「……肝に銘じておきます…………」
ゼノンはもう決して忘れることはないように深く海より深く心臓に刻んだ。決してその鼓動が泊止まることがないようにと。
「それじゃあ、3つ目…………今の話とこの部屋が汚いこと…関係ありました?」
その言葉にファナのお茶を飲む手がピタリと止まった。
「…………私は王族よ……。掃除はやらないわ」
またもゼノンから目を背けるファナ。しかしそれを逃すゼノンではなかった。
「でも、
「……だって…できないんだもん………」
「ぐふッ!」
目をうるうるさせて上目遣い。それに加えて撫で声と完璧なあざといポージング!
ファナのプロポーションと相まって生み出される可愛さと罪悪感そして少しのエロさ!それが今のゼノンを刺激していた。
まさに最終奥義と呼ぶにふさわしい!
世の男全員がこの姿の前に屈してしまうだろう!だが、ゼノンはギリッギリのところで舌を噛みスタンを防ぐ!鼻血がたれているが!
「時間があるんだから学べたでしょう。まさかとは思いますけど、200年このままってことは無いですよね?」
しかし、ゼノンの攻めは今のゼノンの姿により半減されてしまっていた。
「さすがにそれはないわ。最後に片付けたのは……そうね、10年ほど前かしら?」
「変わらねぇじゃねぇか!!!」
つい大声を上げてしまう。しかしそれほどまでにゼノンに驚きを与えた。ゼノンは潔癖症ではないが、そうでなくてもこの部屋の残状を見れば嫌気がしてしまう。
「10年と200年よ…?全然違うじゃない」
「10年掃除してないって言う時点でアウトです!」
「私だってしようとは思ってるわ」
プクーと頬を膨らまして不満げな表情をするファナを見て、またもスタンしそうになってしまう。
「そ、掃除はしなくていいんですか?」
「えぇ。やらなくていいわ。どうせあとちょっとしたら片付けるもの」
「それ、やらない人のセリフですよ」
「……あなたが」
「俺が!?」
いきなりの命令に驚いてしまう。明らかにこの部屋にはファナの私物しかなく、その中には下着などというものまであった。
「弟子になったんだし、修行の一環よ。さて、それは置いといて…」
「置いとける問題でもないんですけど……」
ゼノンのツッコミはどこ吹く風で受け流され、ファナの雰囲気が変わる。それを察知したゼノンもまた顔つきが変わる。
「次はあなたの話を聞かせてくれるかしら?」
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