第3話 試験②
「最後は対向試験だ。今から受験生同士でペアを組み、その2人で戦ってもらう。それを見て我々が評価をつけさせてもらう!」
(…強いやつと戦って勝てば評価されるよな。なるほど、シンプルでわかりやすい。俺向きだな)
全員考えることは同じである。
(負けたら審査に響く!相手が重要だ─!)
と。
試験官の指示でペア探しが始まる。
「誰かー俺とペアを組んでくれませんかー??」
ゼノンは大声で相手を募集する。しかし、ゼノンの周りには誰もいない。そもそも無加護に近づこうとずらしてくれない。話したくもない。いくら相手が重要といえど弱すぎると話にならないというのもある。
(や、やべ〜。これは考えてなかった!しかしこれはある意味、反則では無いと言える。ルールを逆手にとって何とかできる問題でもないし…。ヤバい!無加護と戦ってくれるやつなんているのか!?)
そこでゼノンは一人心当たりがある者を思い出した。それは…
「おーい!ラルク〜!俺と戦ってくれ〜!」
「ラルク=ジュード!俺はお前に決闘を申し込む!長年の決着に因縁をつけようぞ!」
「お、お前はレーチ!い、いいぜ!け、決着つけてやるよ!」
ラルクの心の中では『痛いのやだよォ。』と泣き叫んでいるのだが、虚勢を張っているのだ。みんなこの試験に命をかけているのだ。
「ん?なんだ?無加護じゃないか!まさかラルク!無加護と知り合いなのか?」
「は?んなわけねぇだろ!こんなやつ知らねぇよ!とっと失せろ!」
先程とは違い震えることなく、ゼノンに向かってそう告げるラルクはペアを組み決闘場へと向かう。ゼノンを取り残して。
(き、き、キツい…!!今のは傷ついたぞ!俺のハートがァァ!!)
さすがに今のはゼノンにも辛かったようだ。ゼノンはラルクのことをここに来て初めての友達だと思っていた。しかし、実際は違った。
(くっ…!何を間違えた!?やはり友達になるにはソツ芋が必要なのか!?クッソ!ソツ芋ならもう喰っちまった!そもそも話したんだから友達だろ!?クソ…友達難しい…!!)
対戦が始まり、皆がそれを緊張で見守る一方ゼノンはブツブツとただひたすら友達作りの方法を模索していた。
ラルクとレーチの戦いはラルクの勝利で終わった。
ゼノンは途中からだが、ラルクの応援をしていた。周りからは白い目で見られたが。
(さて…、俺もそろそろ本格的に探さないとな…。最悪先生でも煽るか…。負けてもいい勝負出来たら入学出来るかもしれないし!)
「やぁ、記念受験の無加護くん。ペアを探してるなら僕と組まないか?」
「えっ!?本当ですか!?ありがとうございます!!」
後ろから声をかけられたのですぐに振り向き、返事をする。すると周りが少しざわついた。
「お、おい…ユリアム様が無加護と戦うらしいぞ」「一方的な戦いになるに違いねぇ!」「ボコボコにしちゃってください!」
(ユリアム…?どっかで聞いたなぁ。確かラルクからだっけ?っていうかアウェイ感半端ないな)
「あはは。君も大変だねぇ。こんな中で受験だなんて。本当に可哀想だ」
「いえ、全く気にしていませんよ?犬が吠えたところで何も変わらないでしょう?」
ビキッ!
ゼノンのその言葉に周りの貴族達は黙り、憎しげな目線を送る。当のゼノンは全く気にしてない。
「ふはは。面白いね!うん!僕と戦おうよ!」
「はい!喜んで!」
この人…いい人だ…。今度こそ失敗しないぞ!そう意気込むゼノンと反対にユリアムの中は嘲笑の気持ちで溢れかえっていた。
(クックック…!さすが田舎ものの馬鹿だな!僕に君が勝てるわけないだろ!?身分というものをしれって言うんだよ!無加護が!!どうせ僕の合格は決まってる。なら、ここは無加護を徹底的にいじめるか…。そうすれば先生からも同じ受験生からも良い目で見られる。僕は…こんな所にいるはずじゃないんだよ!)
「正々堂々と勝負しようね!」「あぁ!」
腹の奥では「正々堂々」なんて微塵も思ってない。むしろ戦いになると思っていることが傲がましい。そう思うユリアムだった。
ゼノンは前に出て体を伸ばしている。そこにユリアムが近づいてきた。
「手加減なしで頑張ろうな!」
ゼノンが笑顔でユリアムにそう言うと、彼はゼノンの肩にポンと手を置く。
「無加護が喋るんじゃねぇよ。これはただの公開処刑だ。くくっ。それにしても可哀想だなぁ。お前の
ぼそっとゼノンにだけ聞こえるように言ってから定位置に戻るユリアム。その頃にはもうゼノンは準備体操を終えていた。
「それではこれより受験番号268番と記念受験番号362番の試合を始める!どちらかが戦闘不能になるまで続けること。回復魔法を使える魔道士が待機しているから存分に戦ってくれ。」
「正々堂々よろしくな!」(お前は虐められるだけだけど!)
「……あぁ、よろしく……」
周りにはいつも通りのゼノンを馬鹿にする歓声が響き渡る。
「試合開始!!」
審判の合図とともにゼノンの最終試験がはじまった。
「試合開始!」
その合図とともにユリアムは詠唱を始める。
「敵を破壊する獰猛なる炎よ。その姿を変え、………」
これは戦闘における常套手段だった。少し距離のあるこの試合では魔法を初めに使う。その方が有利だからだ。少ない詠唱時間で敵の懐にまで潜り込むのは難しい。
しかし─
(早い!)
ゼノンはただ真っ直ぐに姿勢を低くしてユリアムに向かって突撃をかましていた。ユリアムは詠唱中のため、動けないのだ。
そしてそのまま─
「灼熱の球となり……かびゃ!!?!?」
真下の所まで潜り込むとそのまま掌底でユリアムの顎を狙う!ユリアムはそれを避けることが出来ず、もろにくらい宙を舞いながら意識を落とした。
「ふぅ……。おい、俺の事無加護だとかなんだとか馬鹿にするのは勝手にしろ。ただ…、俺の家族を侮辱するってんならそれなりの覚悟をもて」
その瞬間…時が止まったかのように周りの歓声が静まり、試験官も受験生も口を開けて止まっている。
最初のゼノンとユリアムの距離は50メートルあった。それを魔法を使わずに5秒で駆け、急ブレーキからの攻撃。魔法を使わないという条件なら試験官でも再現は少し難しい。それは一流と言われるほどの彼らだから分かった。無論魔法を使えるならば簡単に再現できる。
「……あれ?これ、戦闘不能に入んないの?」
いつまでも試合終了の合図がならないことに心配なゼノン。
「し、試合終了!」
「…無加護……だよな!?」「有り得んのか!?」「いや、ズルだろ!」「試験官!やり直せ!!無加護なんて認められるか!」「な、何者だ!?アイツ!!」
「ふ…。名乗る程のものじゃないさ…」
(決まった!これが都会流だろ!)
そのままゼノンはゆうゆうと歩いてその場を去った。周りはざわつきながら。
こうしてゼノンの編入試験は幕を閉じた。
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