1章
第1話 王都
ここはレイハ王国が王都レイブンズ。雲にも届きそうな程に高くそびえる王城を中心として 立派な貴族の豪邸が立ち並ぶ。王都にはたくさんの商店で賑わい、平民が貴族が歩き回る。その中でも一際目立つ建物が城を除いて2つ。ひとつは教会。
王都の教会はレイハ王国内において最も大きな教会で教皇もいらっしゃる。王国内の貴族、王族はここの教会を使うこともあり、内装も豪華だ。
そしてもうひとつがレイシェレム学院。
王国内の学校の中で最も有名かつ有望な学院。王国だけでなく、人間族の中で活躍する者の多くはここを卒業している。施設は充実していて、先生もかつては最前線で活躍した者ばかり。中には「英雄」と呼ばれるに至った者まで先生として配置されている。
「勇者」「聖女」などと言った加護に夢を見る少年少女が次に憧れるのがレイシェレム学院の入学とまで言われる。貴族でも入学することは決して簡単なことではない。卒業することが出来たなら貴族でも誇りになる。中には厳しい親からのプレッシャーを受ける者もいる。
アルス、そしてミオが現在通う学校でもある。レイシェレム魔法学院は中等部そして高等部と別れている。基本的に中等部からそのまま進学して高等部に入学することになる。しかし、一部のものはそこで
その抜けた穴埋めと人数確保のための手段が編入試験である。
ゼノンが狙っているのはコレだった。しかし人数は毎年違う上に、規定通りの人数が受かるとは限らない。最低限の強さがなければ入学は認められなかった。過去には編入試験合格者0という年もあった。
試験は筆記と実力に別れている。…ゼノンの知ってる情報はこの程度しかなかった。編入試験にはこの日のために鍛えてきた貴族の子供や魔術家系プレッシャーに耐えてきた子供、何年も入学しようと頑張っている子供、
そんな中、ようやく王都に着いたゼノンは今……
「だ、誰か……み、水を……ください………」
死にかけのホームレスになっていた。服はボロボロ。頬も痩せこけ、ガリガリである
明るい場所はやはり影が濃くなる。それはここでも変わらない。ゼノンとおなじようにホームレス状態の人もいた。
「お、お恵みを…」
ゼノンの隣の人がめぐみを求め、通行人がそれを可哀想に思ったのかパンを落とす。そして同じように俺にもパンを落とす。
(違う…!!俺が欲しいのは水だ!パンじゃない!!)
そう思いながらもパンを頬張るゼノン。
(世の中、捨てたもんじゃねぇな…。よし、頑張ろ)
少し元気が出たところで再び歩き出す。目的地はレイシェレム学院である。
さて、どうしてゼノンがこんな状態になったのか…時は1時間前に戻る。
1時間前
「王都ってどんな所なんだろうなー。友達できるかな〜?」
そんな淡い期待を抱きながら王都へ向かうゼノン。そしてついに、
「うぉぉぉ!!ここが王都か!!でっけぇー!!!ソツ村の何倍あるんだ!?」
中心にそびえる王城を眺めながら王都へと足を踏み入れるゼノン。3日間の度の末ようやくここにたどり着いた。
「うひょー!やっべー!!スゴすぎだろ!やべー!興奮が収まらねぇ!」
辺境のソツ村しか知らなかったゼノンにとってそこは未知なる世界であった。それはゼノンの好奇心は激しく誘い、ゼノンは本来の目的も忘れ、まるで無垢の少年のように目を煌めかせて歩き回る。
しかし……
「へい!らっしゃい!」
「おっちゃん!ソツ芋ひとつ!」
「ソツ芋?なんだそれは?そんなものここでは売ってないぞ。」
ゼノンはソツ芋が売ってないことに衝撃を受けた。
(ソツ芋がない……だと!?ばばばば馬鹿な…!!?ソツ村なら一家に3キロは最低でも保管されてると言うのに!?)
そして次に衝撃を受けたのは値段である。
「そこの牛肉を1キロお願いするわ」
「銀貨5枚ね!まいど!」
(銀貨5枚…だと!?馬鹿な!?たかが牛肉1kgで!?ぼったくりにも程があるだろ!!?)
ゼノンはほとんど金を使うことは無かった。村の中ではほとんど物々交換や狩りを行うのが主流である。たまに来る商人との取引に金を使ってはいたがここまで高くなかった。
(銀貨5枚もあれば500ソツ芋は軽く超えるぞ!?500ソツ芋もあれば…。ソツ村なら家1個買えるかもしれない!やばい…ヤバすぎる!!)
ゼノンは身の危険を察知した。直ぐにその場を離れ、適当に歩き回る。しかしその歩き方は先程までとは違い、怯えている。
そもそもゼノンは文字の読み書きはリルから教えて貰っているし、金の使い方だって知ってる。この世界の常識もある程度なら教えてもらった。ただ、1度も実践したことは無かった。
王都の怖さを思い知ったゼノンは周りの人に怯えながら前へ進む。これが『未来の魔王様』とは思えない。
グギュルル〜
ゼノンの腹から大きな音が鳴る。
(腹、減ったな…。でも金はないしな…)
そもそもゼノンはお金をリルから渡された最低限の資金しか無かった。しかし先程の光景でお金を使うことを恐れてしまった。
自分のバッグを漁ってみるが、見つかるのはソツ芋しか無かった。
(水無しでソツ芋を食べるなんて水無しで砂漠を1ヶ月歩くこととほとんど変わらねぇよな…。とはいえ、これ以外に喰えるものは何もないし…。ふっ…。しゃあねぇ。俺のソツ芋愛で食べきってやるよォ!見せてやる!俺の8年の成果を!!!うぉぉぉ!)
そう意気込んでソツ芋をまるまる2個食した結果…。
「だ、誰か…水をぉ…」
脱水症状に陥ったというわけだ。なんとも間抜けな話である。
「水…水を……。あ、やば……い……」
学院を目指すゼノンの足が止まり、めまいを感じてその場に倒れ込む。
「はぁ…はぁ…水…水をぉぉ」
その場で水を乞うが誰も反応しない。いや、反応はしている。どの反応も同じく汚物を見る目だ。
(クソ…!まだ俺は…!誰も守れてないのに!!)
この時ばかりは「あいつさえ居なければ!」とソツ芋を恨んだ。
「…あの…大丈夫……ですか……?」
誰かがゼノンに話しかけてきた。しかしゼノンにはもうその人を見る気力さえなかった。
「み、水を……」
何とか振り絞った一声…。これが無理なら本当に旅立つことになりそうだ。
「…み、水…!分かりました!」
声からして女だと判断した。ゼノンは日の眩しさにさえ抵抗できなくなり、瞳を閉じる。その瞬間……
「ぶっ、わぁぷぁわぶ!」
天から水が舞い降りた。その天からの水によって少しずつゼノンの乾ききった喉が潤いを取り戻す。
「ぶぁ!も、もう
「わかったわ…」
そう言って彼女はゼノンに水を注ぐことをやめた。
気力が回復したゼノンはお礼を言うためにと、顔を上げる。
そこに居たのはフードを深く被った銀髪のとてつもなく綺麗な女性だった。ゼノンは何度か夢で成長したミオにあっているがそれに劣らない。そして…どこか既視感を覚える。
ただそれより気になるのは…
(でかい…!)
どこがとは言わないがプロポーションも整っていて非のつけ所がない。
そして反射的に顔を背けるゼノン。彼女は一連のゼノンの行動を不思議に思ったが特に口出しはしなかった。
「あ…えと……助けていただき、ありがとうございました…。お、俺はゼノン=スカーレットです……。このお礼は必ずします!」
「いいの。気にしないで」
「え…と…、お名前を聞いても?」
「名乗るほどのものでもないわ。ただの平民よ」
やんわりと断られたので、これ以上ゼノンが聞くことは無かったが自分だけ名乗ってしまったことが若干恥ずかしかった。
(あれが都会の主流なのか…。次からは気をつけよ)
「あの…助けて貰っておこがましいんですけどレイシェレム学院までよ道を教えて貰ってもよろしいですか?」
「…!レイシェレム学院。…そう」
ゼノンはバッグから王都の地図を取り出す。ただこの地図かなり巨大すぎて道も複雑。特に知識のないゼノンには読み取るのも難しかった。地図は1m×1mの形で取り出すにも一苦労だ。
「この道をこういってここを右に曲がる。それで……」
「なるほど!ありがとうございました!」
丁寧かつわかりやすい説明のおかげで道のりはだいたい理解した。
地図をしまい、水と少しの休憩で完璧に回復したゼノンは再び歩み始めた。
「また会った時にはお礼します!」
「えぇ。受験頑張ってねー!」
「はい!ありがとうございます!」
命の恩人の彼女に背を向け教えてもらった道を歩く。
「あれ?そういや俺受験だなんて言ったっけ?まぁ、でも今日が編入試験なのは有名な話か」
少し思った疑問を自分の中で片付けてレイシェレム学院を目指す。試験までは残り3時間だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます