第8話 決意
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
早朝5時。いつもならまだ寝ている時間である。朝日が登り始めるような時間にゼノンは飛び起きた。体からは大量の汗が飛び出している。手汗もぎっしりだ。身体中に包帯が巻かれているが汗でびしょびしょである。
「ここは…施設…?俺は…確か…イノシシと……それで……」
ゼノンは辺りを見渡す。見慣れた光景が目に映る。自分の記憶を辿るが曖昧ではっきりとはすぐに思い出せなかった。しかし徐々に脳は覚醒していく。そしてそこに映る景色は…
「う、おぇぇ」
絶望だった。
はっきりとではないが、あの臭いですらも若干覚えている。
「はっ!ソティー、マクス…先生!!」
今は7歳の体だとわかっていてあの夢の通りかもしれない…。そう思ったら動かずにはいられなかった。
ベトベトに濡れた包帯姿のままベッドからおりる。
「はぁ…はぁ!」
怪我の影響もあって動くことが難しい。それでも立ち上がり歩みを進める。
体から再び汗が湧き出す。それは動いた反動か…、それとも焦りから来るものか…。ゼノンにも分からなかった。
何とか扉までたどり着きドアを開ける。
「ゼノ……ン……?」
「リ…ル……先……せ…い?」
目の前にはリルがいた。そこ顔には驚きが見て取れる。手には氷水の入った鉄の桶が握られている。ゼノンの世話に来たんだろう。
「ゼノン…!」「リル先生…!!」
お互いの目に涙がたまる。リルは桶から手を離し、目に持っていく。
すると桶が重力に従ってゼノンの足に落下した。
「ぐぉぉぉ!!痛ッ!!冷たッ!!!」
「はっ!みんなに知らせないと!」
桶には約1kgの水と氷があった。そして落下時の高さは地面からおよそ1m。怪我人のゼノンにはとてつもない一撃となった!!
その痛みに耐えきれず冷水浸る地面に転げ回る!
しかしリルはそんなゼノンを放置して、アズレ達に知らせに回る。
「ゼノンが─!!」「何ー!!?」「ゼノンにぃが!!?」
そんな声が朝早い施設にひびきわたる。
そして…
「ぐぉぉぉ!!?足が、足がァ!んでちべたっ!!」
氷も浮いている水の上をあぁひたすらのたうち回るゼノンの声も響く。
何たる仕打ち!ゼノンはまだ悪夢が続いていると錯覚してしまう。
「ゼノンにぃ!!」「ゼノン!」
そしてリルとともにアズレ、ソティー、マクスが姿を現す。
「はっは。この痛さじゃ夢ってことは無さそうだな。」
ゼノンの瞳から涙が溢れ出す。それは痛みからか、それとも─。
それはゼノンにも分からなかった。
そこからリル達からゼノンが眠っている間のことを聞いた。ソティーとマクスはイノシシから逃げた後怪我ひとつなく森を抜け出すことが出来た。そのまま走り続け、すぐに先生と村長の元へ駆け込む。
「先生!ゼノンにぃが…ゼノンにぃが!私たちをかばって……」
「無加護のやつが……」
「落ち着け。何があったんじゃ?」
事情を聞いた村の男たちはすぐに森の中に入った。ソティー立ちに教えてもらった場所に向かうとそこに居たのは血まみれで倒れるイノシシと同じように倒れるゼノンだった。イノシシの頭部からかなりの出血が確認されたが、その場に
すぐにゼノンを村へと連れ帰り、リルを筆頭に回復魔法をかけ、なんとか一命を取りとめた。実はかなり危ない状態だったのだ。そして今日はイノシシを倒した日から3週間が経っていた。
「3週間も!?」「えぇ」
「ってことは……花は!?」
まずは花を優先するあたりゼノンらしいと言えるだろう。
「大丈夫よ。私とソティーが水やりを行ったわ。ただ…」
「ソティーも手伝ったの!いっぱいじょそうざいまいたんだよ!農家の人から借りたの!」
じょそうざい…?ゼノンは頭を傾げたがすぐにある会話が頭をよぎる。
『ええかゼノン!この薬は畑には必要じゃが、気をつけろ。これは草を殺す薬じゃ。これをお前の花にやると…』
『やると…?』
ゴクリと肩唾を飲み、続きを見守る。
『一瞬にして死ぬ。だから気をつけろ!ガッハハハハ!』
この時、除草剤とは幼いゼノンの頭の中では毒、天敵と認識した。
除草剤………。
「ノォオォォォ!」
「褒めて欲しいの!」
ソティーは何も知らなかった。それはゼノンにも痛いほど伝わっている。しかし感情が追いつかない。
「あ、ありがとね〜、ソティー」
「えっへん!」
引きつった笑顔でソティーの頭を撫でる。そう、長男としてのプライドがゼノンにもある!こんなことではゼノンは怒らないのだ!
後日の話ではあるがソティーの晩御飯には大の苦手のピーマンが大量に並べられていた。
「ピーマンがたくさん!?!?」「ピーマンは食べて欲しい人の元にいくんだよ!」「ぎゃー!!!」
ゼノンの小さな復讐はこうして果たされたのだ。
ちなみにリルのお陰で何本かは無事だった。
「それと…イノシシも村のみんなに食べられちゃったわ…」
「美味しかった!」
まぁ、それはある程度わかっていた。3週間も生肉が持つはずがないと。仮に持ったとしてもこの村の人数ならすぐになるなるだろう。ただゼノンの一日の楽しみは花のお世話と食事だけなのだ。1番はブドウが好きなのだが、きっとイノシシが食べられた時に葡萄も出たに違いない!と思うと少し気が落ちた。
リルや見舞いに来た村長には「どうやってイノシシを倒した(の)?」と言われたが「分からない。」としか言えなかった。ゼノンも無我夢中だったので記憶があまりなかったことと「剣が見つからなかった」ということで全貌はゼノンにも把握することができなかった。
それからは続々と村のみんながゼノンを心配して見舞いに来てくれた。どこか恥ずかしそうにするゼノンだが嬉しそうであった。
ゼノンはそれほど村のみんなに愛されていたのだ。
「あ、あのさ…」
「どうした?マクス」
「無加護ってバカにして…ごめん……」
ゼノンにはマクスが素直に例を述べたのが少し意外だった。アルスならこんな場面で絶対に、謝ったりしないということも大きい。
「別に怒ってないよ。マクスは俺の弟だから」
そうしてひとしきり騒がしい騒ぎが終わったあと、部屋にはゼノンがただ1人取り残された。
「
まず目に入ったのはステータスではなく、ある文字だった。
『クエスト:イノシシを倒す(1/1)が達成されました。ボーナス報酬として経験値+10%が付与されます』
「10%…。すごいのかいまいち分からないな…」
そして現在のゼノンのステータスは……
ゼノン
レベル38
加護 無し
魔法 成長魔法
セカンド 血液魔法
筋力 43
耐性 43
速度 49
精神 122
魔力 98/98
ステータスポイント:21
「え……?イノシシ倒しただけでレベルがふたつも上がってる!?」
これはゼノンにとって衝撃的なことだった。トレーニングしても1日にレベルが上がらないことが大半だ。それほどまでに実戦と言うものは大きいのだ。
「はぁ…。3週間も寝てたんだ…。ステータスポイント21ポイント分無駄にしたなあ」
しみじみとそうつぶやくゼノン。ここまでくるとステータスポイントの重要性についてかなり理解している。
自身のステータスを確認し終えたらベットに寝転がる。
今、ゼノンが考えていることは3つ。
「あの時の声…幻聴なのかな?」
イノシシを倒した時に間違いなく剣を握った。その直前には頭の中から声が聞こえた。男の人っぽかった気がする。
「試してみるか…」
ゼノンはベッドから飛び降り、ペーパーナイフで軽く自分の指を切り、血を滴らせる。
「ええっと……確か……我が血と魔力を糧に…。血液魔法『血液想像』」
あの時と似た状況を作って見たが、しー…んとしたままで何も起こらなかった。だが、あの時間違いなく血液魔法を使えた。
「えぇーと俺の声って聞こえてますー?」
今度は何もいない空間に向かって話しかける。もちろん返事など帰ってくるはずがなかった。ただの少しヤバい独り言になってしまった。
もう一度ベッドに寝転がり、夢について考える。あの時の夢は…おそらくいつも通りアウクセシアーが見せたもの…だろう。あれが何を意味するのかは分からないがゼノンは未来のことだと考えている。
だとするとゼノンは「守った」と思っていたが実際には「守っていなかった」。この程度で満足していては何も守れない…そう解釈していた。
「全く…悪夢のタイミングも悪すぎるな……」
勝利の余韻にも浸ることなく、ただ努力することを続ける。それがゼノンにできることだと認識し直す。
(俺は…弱すぎる。このままじゃ何も守れない。もっとだ……。もっと努力しないと…。無加護でも守るんだ。だからこそ俺に出来ることは
それは間違いなく棘…いや地獄の道に違いないだろう。この世界で神の祝福なしに"勇者"達よりはるかに強くなり、"魔王"を目指そうというのだから。だが…、
(俺は本当の地獄がどこか知ってる。地獄ならもう……見てきた!!!)
そして3つ目。ゼノンが考えていることは……
「花……どうしよう?」
ゼノンにとって花はかなり大事な存在であった。しかし今その大地は
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