第6話〈母とはなんぞや?〉

唯我顕彰を解く銀鏡小綿。

既に九重花志鶴の姿が居なくなったのを確認して、近くに居る駒啼涙に近づく。


「どうも、駒啼さん」


「あの、一体何が?」


駒啼涙は涼やかな表情を浮かべる銀鏡小綿の姿を見てそう聞く。

銀鏡小綿は彼女を一瞥すると、頭を下げてその場から去ろうとした。


「待って下さい、あれは一体なんなんですか?」


「志鶴さんとじんさんです。連れ去られました」


「え……何故?」


「決まっています。志鶴さんは、母親代わりになろうとしているのです」


奥歯を強く噛み締めながら、銀鏡小綿は九重花志鶴の目的を告げる。


「は、え?」


「私との関係性が羨ましかったのか……じんさんを独り占めしたいのか……母は私一人で十分、じんさんを看病する権利も、じんさんの傍に居る権利も、じんさんと生涯を共にする権利も……全て、私だけの特権なのに……」


表情が暗くなる。

それはもう、なりふり構っていられない様子だった。


「………あの、その様子から、してですが。先輩と、銀鏡先輩は、お付き合いをしているのですか?」


駒啼涙も表情を暗くしながら問うた。

それは、もしも銀鏡小綿がそうだと言えば、駒啼涙はショックを受けるだろう。

そしてショックを受け止めて笑みを浮かべる事が出来るのか。

それか、ショックを受け止めきれずに、全てを投げ出す行動をとるのか。

舌先で乾いた唇を舐めた。銀鏡小綿の言葉次第で、全てが決まる。


「私とじんさんがですか?その様な筈ありません。私はじんさんの母なのですから」


そうはっきりと言う銀鏡小綿。

拍子抜けだった。彼女から発せられる感情は、明らかに恋仲、あるいは恋慕故の怒りだと思っていたのに。


「あの、だったら、その、傍に居る、や、生涯を共にする、なんて言葉は……」


何か納得がいかないと、駒啼涙は思う。


「母が子と共にいるのは当たり前の事です。じんさんが誰かと結婚して、子供を作ったとしても、私はじんさんと共に、じんさんの子をあやす覚悟です。そして出来る事ならば、じんさんが死ぬ時は私が看取り、じんさんが火葬される時は私も共にしたいと、そう思ってます」


それが母としての決意だと銀鏡小綿は言い放った。

その断固たる意志に、若干の敗北感を感じる駒啼涙。


「……ま、まあ、話は分かりました。それで、先輩と取り返しに行くつもりですか?」


「はい、ですが。どこに向かったのかは検討がつきません。なのでこれから統一とういちさんの元へ行きます」


「統一?」


駒啼涙は首を傾げた。

それは知らぬと言うよりかは、そんな有名な人間の名前が出てくるとは、と言う感覚だった。


「九重花家の双子の片割れ。九重花志鶴さんの弟に当たる人物、それが九重花統一さんです」

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