第22話 新人冒険者、頼まれる。
ゴルドー達小悪党らを最小の力でいなしたローグは、朝の王都「住民街」を興味深く歩いていた。
ギルド《アスカロン》はちょうど王都の端に位置している。
どうも聞くところによると、冒険者というものはなかなかどうして野蛮な生き物だと認識されるきらいがあるらしく、世間一般の職業とは大きく乖離して扱われるらしい。
確かに、常日頃から武装している者達など、非武装の住民にとっては脅威でしかないことも確かではあるが。
サルディア皇国王都は、大人が歩けばおおよそ2時間もあればまわれる広さにあり、円形状に大きく3つに区画分けされている。
1つ目に、住民街。こちらは、円形となっている王都において一番外に面し、一般の人々が住まう区画だ。主に、諸外国・各地方から来る行商人や出稼ぎの農民・漁民で溢れかえる一方で、一般人の中でも比較的裕福な皇国都民も多く存在している。王都には、王都に住む貴族に擦り寄ろうとする者もいれば、一芸に秀でて一代で成り上がりを果たした者などがたくさんいるのも事実だ。
2つ目に、貴族街。王都の中央に聳え立つ「大聖堂」と呼ばれる国の中枢を中心に置いて、そこに仕える貴族や高等武人達が住居を構える地域である。
そして、3つ目が冒険者街である。サルディア皇国王都の住民街――の最東端。
ギルド《アスカロン》の入り口を入ると始まる独自の文化形態を持つ小さな区画だ。
そこには、武器・防具屋、魔法具屋や、常時国家資格を得た治癒術師が在中する救急治療院など、冒険者の冒険者による冒険者のための街が形成されていた。
住民街中央通りを通り抜けて、冒険者街へと向かおうとしていたローグ達。
――と、その前に現れたのは1人の女性だった。
「おはようございます、ローグさん」
後方には彼女の屈強な私兵達が連なっている。
皆一様にサルディア皇国のシンボルにて、護り龍とされる【龍神伝説】ことニーズヘッグの刺繍が入った銀鎧を纏っている。
それらの長、カルファは神妙な面持ちでローグに声をかけた。
「鑑定士さんか、おはよう。何か進展でもあったかな?」
手をひらひらと振ってカルファの声に応えるローグ。
カルファは、ぐっと鎧の横で拳を握る。
「ローグさんにはお伝えしておかなければならないことがありました」
カルファの覚悟を決めたような態度に、ローグは怪訝に首を傾げる。
「ローグさんのステータスは、《鑑定士》の最高到達スキル《隠蔽》によって書き換えられました――が、それはスキルの保有者である私が死ぬことで、抹消されます」
「……だろうね」
ローグの淡泊とした返事に面食らった様子でカルファは少し押し黙った。
むろん、カルファの言ったことはローグも承知の上はある。
カルファが死ねば、ローグの職業ステータス《冒険者》はなくなり、代わりの《
それは、
「要するに、これから鑑定士さんは危ない橋を渡ろうとしているってことか。自分が死ぬわけにはいかないから、ステータスが元通りに戻るようなことを避けたければ私を守れって魂胆だな」
「否定はしません」
カルファは、凜として答える。
ローグは冒険者街へ、そしてカルファは貴族街の中に聳える大聖堂に向けて足を速めていた。
「私は、ここで死ぬわけにはいきません。先日の亜人族での急襲では、王都内に直接的な侵入を許したわけではありませんが、事態を知っていた貴族街からは大半の領主達が各地方に逃げ、トップの皇王は我先にと逃げていく。サルディア皇国の王都には、数十万人の命がありますからね。私までいなくなると、それこそ祖国は滅びてしまいます」
「祖国、ねぇ……」
ローグには、『祖国』という概念はない。
生まれ落ちた時は、どこかの国の孤児院だった。
15歳を迎える頃まで、囲まれていた高い壁から外に出ることは一度も無かった。
生後5歳での、初めてのステータス開示ではステータス
その上、15歳の頃に各個人の能力適性と最適職業を測る神からの神託とやらを受けるべく、礼拝堂に赴けば禁忌職業の《
だからこそ、誇りを持って守ろうと思えるモノがあるという時点で、ローグには羨ましささえ感じられた。
「前皇王の崩御に加え、上層部の崩壊。明後日には新皇王の擁立など、ただでさえボロボロな内部から変革していくことに加えて着々とバルラの手も及んできています」
見なくても分かる悲惨な内情にも、カルファは心が折れていないようだった。
「ローグさん。サルディア皇国の再建に、どうか力を貸して下さい」
カルファの真剣な目つきを、ローグは真っ正面から見つめ返した。
弱くて、誰にも勝てずにいた頃にも居場所はなく、努力して、圧倒的強さを手に入れたにも関わらず、禁忌職業というだけで居場所がなかったローグは八方塞がりでしかなかった。
カルファ・シュネーヴルはローグに『居場所』を提供してくれた恩人だった。
あんなに楽しく酒を酌み交わしたのは、初めてだったかもしれない。
あんなに自分を迎えてくれたのは、初めてだったかもしれない。
ローグはふと笑みを浮かべて、カルファの元を通り過ぎる。
「出来る限りのことはやらせてもらうと約束するよ、鑑定士さん。俺とて、せっかく迎え入れてくれた
そう言って立ち去るローグの後ろ姿に、カルファはいつまでも腰を折ってお辞儀をしているのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます