第56話 巨大な影と妖魔の饗宴




 何だか最後は呆気なかった気もするが、地の利を得た結果だと無理やり自分を納得させて。それよりドロップが凄いというか酷い、強敵だったから当然とも言えるかもだが。

 まずはスキル6Pは、単体では過去最高かも。何とレベルアップ3回分のポイントを、この亜竜は吐き出してくれた計算になる。

 それも当然か、一歩間違えば何も出来ずに殺されていた相手だもんね。


  それから『命のロウソク』が1つと、宝玉:風魔法《双翼撃そうよくげき》がドロップしていた。ワイバーンが風系の魔法を使っていた記憶はないが、恐らくは風属性ではあったのだろう。

 久し振りに宝玉が貰えた、やっぱり強い奴は報酬も美味しい。それにしても攻撃魔法っぽいのが増えたのは嬉しいが、中級魔法のようなので使い勝手は微妙かも?

 それでもスキル4P付きの、自動取得は凄くお得には違いない。


 命のロウソクで体力も増えたし、今回はあまり活躍出来なかったネムにも魔石(中)とお疲れ様のお肉をあげておこうか。ファーも鞄から果物を取り出し、はみはみし始めている。

 時間も微妙になって来てるので、これはこの場でログアウトする算段に持って行った方が良いのかも。でもそれだと、次にインした時に巨大キメラが頭上に……とかってなりそうで、その可能性は勘弁して欲しい。

 やはり洞窟が良いかな、あそこなら最悪でも熊さんか大蛇程度で済みそうだし。


 おっと、ワイバーンのドロップは他にもあるんだけど。魔石系が出なかった代わりに、何故か『竜玉石』と言うのがドロップ。他にも骨素材なのか、『飛龍の骨』と『飛龍の頭蓋骨』と言うアイテムが。

 恐らくレア系素材なんだろうけど、正直あまり嬉しいとは思わない。骨工系のスキルを伸ばす気は無いし、邪魔になりそうなら売るしか無いかな。

 それより最後の2つが、自分的には大当たりである。


 ――飛竜のベスト 耐久15、防御+15、耐風+25%up


 鱗っぽい感じの見た目の上着で、ベスト風だが防御は高くて良い感じ。これも早速交換だ、見た目も貧乏臭くないし冒険者に見えて丁度良い。

 最後の1つは『飛竜の財宝』と言う、恐らくは換金アイテムなのだろう。売れば幾らになるのか不明だが、大きな宝箱1個分なのは確かめられた。

 鞄を塞がない親切設計だな、有り難く頂戴しましょ。




 浮かれていたので、その場の異変に暫くは気付けなかったのは大いに迂闊うかつだった。以前にも俺はそれを体験していて、厄介な事態を招くと学んでいたのに。

 つまりは飛竜の死骸が、全く消えずに残ったままだったのだ。結果的には岩に潰されての圧死だったので、そんなモノなのかなと思い込んでしまってたんだけど。

 以前のヒドラと同じく、新たなレア種を招く餌だったみたい。


 イン時間ぎりぎりの滞在で、まさかそんな凶悪なトリガーを引くとは夢にも思わず。その存在に気付いた時には、既に遅過ぎたって感じだろうか。

 そう言えば、ラマウカーンにも新たなよどみの調査を依頼されていたっけ……繋げて考えれば、或いは先に気付けていたのかも知れないと言うのに。

 とにかくそいつは、闇系の死霊でとてもでかかった。


「……でかっ!!」


 ファーの指差した先のそれを見ての、第一の感想がそれだった。接近に気付いたのは皆ほぼ一緒で、森の異変を察知しての事なのも同じ。

 森の木々に泊まっていた小鳥たちの逃げ出す羽音、揺れる木々のざわめき。木々を揺らして、その骨巨人は姿を現そうとしていた。

 それが分かったのは、頭部が森から完全にはみ出していたから。


 死霊系なのは、そのおどろしい姿を見ればすぐに分かった。出現する時間を間違えたのか、陽光でダメージを派手に負っている事も判明。

 今日はこんなのばっかだな、現状7割のHPで今も減り続けている様子。


 それを見て、気分的には多少の余裕が出来た。森から出て来て接近するまでに、まだ少しばかり時間も掛かる筈だし。奴が狙っているのが、ワイバーンの死骸と仮定しての話だが。

 それまでに弓矢で削れるし、魔法の取得も可能ではある。風の宝玉は既に使ったし、貯まったスキルPで光魔法の攻撃系が是非とも欲しいな……。

 初級でいいから、詠唱が短くて飛距離の長い奴が欲しい。


 ファーに祈って貰いつつ、スキルPを注ぎ込んで光魔法の取得を即座にこなす。実際は2つ目に、念願の攻撃魔法《ライトアロー》が出て来てくれた。

 1個目は《ライト》と言う、明かりを灯す便利魔法だったので微妙ではあったものの。ファーの祈りは効果ありとしておこう、それ程に《ライトアロー》は思った通りの使い心地だった。

 MPコストも低いし、対闇種族には持って来いの威力である。


 しかし休む暇もないとはこの事だ、鞄からSポーションとマナポを取り出して続けて飲みつつそう思う。ログアウト時間が非常に気になるが、逃げる手は正直無い。

 何しろ目の前に、傷付いたレア種がいるのだ……コイツはUMユニークモンスターらしい、昼間に沸いた理由は良く分からないけど。いかにも闇系なユニーク種、トリガーは恐らく飛竜の死骸だろうか。

 取り敢えずはこちらに有利なUM戦、スパッと勝ち切って早々に落ちようか。


 そう思うと、時間制限付きの戦いに思えて来て、必ずしもこちらが有利とは思えないから不思議。試しに弓矢攻撃を当ててみたところ、防御は柔らかいけどHPは豊富なイメージだ。

 取得したばかりの《ライトアロー》だと、もっとゴッソリHPを削れた。これで一気にとは行かないが、近付くまでに相当良い線まで弱らせてしまえそう。

 手こずりそうなら、お酒系でのドーピングも念頭に入れておこう。


 とにかくある意味時間との戦いだ、狙いも荒くとにかく射ちまくる。まだまだ遠目なので、半分も当たらないのはアレだけど。森の木々が巨体の大部分を隠しているので、それも仕方が無いとも思う。

 しかし、こちらの与り知らぬ所で何かのイベントが進行中なのか? どうしたモノかな、まぁ考えても仕方が無い事だけど。こちらとしては、ただ倒すしかない訳で。

 冒険者の本能とでも言おうか、弱ってるレア種を前に逃げる選択肢など無い。


 再詠唱オッケーになる度に《ライトアロー》を撃ち込んでやった結果、そいつが森を出る頃には敵のHPは半減にまで落ち込んでいた。

 敵の名前は“ボーンキメラ”と言うらしい、闇系の合成生物なのは間違いないようだ。コイツが精霊の言ってたよどみかな、だとしたら排除にも力が入るけど。

 しかし全容を現した骨キメラの、まぁ大きい事!


 てっきり肉は無いモノだと思っていたが、流動する腐ったような液体が全身に流れていた。骨のくっつき方はあちこち異様で、大きさも部位もまちまちだったりしてる。

 本当に、素人が好き勝手に色んな骨をくっ付けて作ったような敵だ。侮れないのはその巨体と、巨体から繰り出すパワーとスタミナだろうか。

 つまりは、接近戦はあんまりやりたくはないかな。


 幸い、ネムはあの巨体にも全く臆している様子は窺えない。とは言え、あの気味の悪い奴に接近戦を挑んだり、ましてや噛み付いたりは止めて欲しいのが本音。

 光のブレス系なら、接近せずに効果も高いだろう。ファーにその旨の指示を出すと、早速光の水晶の欠片を食べさせ始めた。光系はそんなに集めた記憶は無いから、まぁ慰め程度か。

 その分こちらが頑張ろう、すでに覚悟は出来ている。


 他にも見えなかった部分が曝け出されていて、コイツの武器は両手棍のようだった。それも骨で出来ていて、躰に似合った大柄な得物ではある。

 あれで殴られたら怪我どころでは済みそうもない、巨体によくある鈍い動きであって欲しいんだけど。それにしても腐敗臭が凄い、こっちまで漂って来ている。

 バーチャ世界とは言うモノの、変な所が妙にリアルである。


 その腐敗骨キメラは、本当に真っ直ぐ飛竜の死骸へと向かって来ていた。どんな用事かは知らないが、とにかく最接近までは弓矢と光魔法で削りまくる。

 痛覚は全く無いようで、痛がる素振りも呻き声すら発しない合成生物。陽光でその動きは確実に鈍っている、そんな訳で接近までさらに1割以上削れてしまった。

 後は殴りで、残りを食い尽くすのみ。


 武器はこちらも両手棍を選択する、なにしろ短槍じゃああの巨大な骨には太刀打ち出来そうもない。初めて実戦で使う野蛮な大槌だが、なかなかに威力は凄まじい。

 相手の左膝を、思い切り打ち砕く勢い。


 どっこい骨キメラのお返しの《乱撃》も、どうやら範囲攻撃で酷い有り様だったけど。ネムまで巻き込まれて、あわやたった一撃で事故を起こすところだった。

 《硬化》の魔法はなかなかに凄いな、一撃ずつの強力な猛攻の威力をかなり抑えてくれていたみたい。そして指輪の反射効果で、骨キメラにも少なくない反射ダメージが。逆にネムはかなり不味い、慌てて駆け寄って回復してやる。

 目晦ましの《フラッシュ》も効果アリ、こちらに行動の自由が出来た。


 相手は案の定、すごいパワーを有しているみたいだ。夜中に遭遇したら、この上なく厄介な敵に相違無いのだろうけれど。こうしている内にも、骨キメラは弱って行っていると言う。

 ファーはちゃっかり、あの特殊技が来る前に戦線を離脱していた様子。何よりの朗報だ、戦闘力の無い彼女だと本当にお陀仏だったかも。

 とにかくネムと自分に《ヒール》を掛けて、俺は単身骨野郎へと向き直る。


 改めて近くで見ると、何て大きさだと呆れるばかり。こちらの攻撃は、両手棍でさえ太腿まで届くのが精一杯と言った所。これは接近戦でも、魔法は必須だなぁ。

 相手は痛覚も無いみたいだが、視覚には頼っているようだ。とは言え、腰の辺りにも何の生物か良く分からない頭蓋骨が埋め込まれていたりするし。

 取り敢えずは、攻撃の届く脛辺りを殴ってみるけど。


 ダメージはちゃんと入って、思わずホッと胸を撫で下ろす。相手の範囲攻撃には要注意だ、他にも良く分からない特殊技があるかも知れないし。

 例えば腰の辺りの頭蓋骨が、何やら詠唱を始めている気配。そしていきなり視界が真っ暗に、骨キメラの目潰し魔法を喰らってしまった様子。

 やっぱりね、何かあるとは思っていたけど。


 目薬は右側のベルトポーチに入れていた筈、素早く取り出して顔に掛けてやる。それと同時に、上空から凄い圧迫感が舞い降りて来ていた。

 思わず前へと転がるように、武器を手にして回避行動を取る。幸いそれで何とかなった様子、目も見えるようになったけど2度目は御免蒙りたい。

 先に腰の頭蓋骨を潰したいが、武器が届かないのが地味に痛い。


 代わりに《ライトアロー》を叩き込んでやったら、それで呆気なく潰れてしまった。これで正解だったのか、それじゃあ腐肉から出現中のゾンビの群れも、同じ手で良いのかな?

 ってか、そいつ等も既に陽光に焼かれてダメージ負ってるけど。腰の辺りから数体が、同じようにして腐肉と小骨を媒体に地面へと生れ落ちようとしている。

 そこへさっきのお返しとばかり、ネムが飛び掛かって《光のブレス》攻撃!


 そしてファーの操縦で、さっと安全圏へと逃げて行く潔さ。ナイス判断と心の中で賛辞を送りつつ、SP貯めにと大槌で雑魚のとどめを順繰りに刺して行く。

 そして貯まったSPで、本体に《撃ち上げ花火》を喰らわせる。うん、あまり効いてないな……直接攻撃への耐性は強いようだ、魔法攻撃の方が追い込みに適してるかも。

 ってか、ゾンビ産みでも体力を使った骨キメラ、残りHPは残り僅か。


 色々と酷いな、こちらも4時間過ぎたら、あんな継続ダメージを貰うのかと思うとゾッとする。同情などしてる余裕はこっちにも無い、再び振るわれた奴の両手棍の攻撃を何とか躱して。

 お返しの詠唱は、長くなるのを覚悟して《キャノンB》を選択。


 邪魔されるかなと思ったけど、骨キメラは本当に鈍かった。この期に及んで、通常攻撃ではなく何か特殊技を敢行しようとしている気配が。

 腹の辺りの腐肉がぞわぞわしてたので、再度の産み落としか何かだったのかも知れないが。こちらの呪文の完成が生憎と先だったようで、派手な炎が巨体を包み込んでいく。

 そのダメージで、さすがの巨体も崩れ落ちて行った。


 奴の死角にいたせいで、危うくその崩壊に巻き込まれそうになったけれど。何とか難を逃れて、腐臭を放つその死霊の成れの果てを見守る。

 陽光に溶けて行く大半のよどみと、何故か残った感じの消えない大骨の部位たち……あれっ、この辺りのレア種って死骸は消えないルールでもあるの???

 呆然とした表情で、何となく腑に落ちないままそれを眺めていると。


 ネムを連れて、ファーが呑気な笑顔で飛んで合流して来た。おっと、そうだった……愚図々々ぐずぐずしていられない事情が、こちらにはあるんだっけ。

 仲間との合流を果たしながら、素早く現状の整理など。何と言うか、今の戦闘で俺のレベルが20へと上がってしまった。初心者の限界レベルなのか、素早い転職をアナウンスに勧められる。

 あらら、こんな僻地でとうとう選択を迫られる破目に。


 とは言っても、現状持っているのは『妖精使い』と、レベルアップ時に新たに増えた『初級八属性魔術師』『竜宮の遣い』『竜使い』の全部で4つのみ。

 そして転職を執り行ってくれると言う、神官だか巫女さんがご近所にいない現状で。俺の一存ではどうし様も無いと言う、ちょっとこの森に長居し過ぎたようだ。

 まぁいいや、これは後で考えるとして。


 インでの活動時間が、本格的に不味い所まで来ている。これはもう、安全地帯まで戻るのは不可能である。不本意だが、洞窟に避難して香炉を焚いて落ちようか。

 取り敢えず、ネムと自分の体力の全回復と、相棒達に労りの言葉を掛けるのだけは忘れない。こう言うのは信頼関係が大事である、従者と言えども道具のように扱うつもりは俺には無い。

 しかし参ったな、あんなに注意してたのにネムを死なせ掛けちゃったよ。


 仔竜は宙も飛べるし割と撃たれ強くはあるんだけど、如何いかんせんその攻撃手段はほとんどが近接攻撃だ。ブレスも条件が整えば使えるが、属性&範囲攻撃の手段である。

 要するに、雑魚戦では割と無敵に振る舞えるけど、レア種戦にはまだ早いって事か。じっくり育てて行こうと思ってたけど、俺のレア種遭遇率は人より断然高いらしく。

 このままじゃ厳しいかも、何か対策を立てないと。


 腕輪の反射効果は、雑魚戦ではあまり目立たなかったけれど。骨キメラの特殊技を喰らった際には、反射ダメージが凄い事になっていたな。

 竜宮城で貰った補正スキルの《集中》は、詠唱中断率の低下と同時に詠唱速度が上がる効果もあるのかも。さっき《キャノンB》を唱えている時に、以前より早く呪文が完成したように感じたのだけど。

 色々と考えたけど、他に思い当たる節が無い。


 集中するって、色々と役に立つのは確かではあるけどね……特に呪文完成までの全般で役に立つのかも、そう思って間違いないみたいだ。

 それより、今回もちゃんとレア種ドロップは存在した。良かった、半分は陽光での自壊で倒れたみたいだったから、ちょっと心配していたんだけど。

 ユニーク種らしく、スキルPは2Pと少なかったものの。


 魔石(中)から始まって、皆伝の書:補正と魔力の葉が1個ずつ。それから還元の札が1枚と、魔力の大骨と魔力の核と言う謎素材が1つずつ。

 装備品として、今回は『理力の杖』と『暗塊あんかいの杖』と言う名前の、長さの違う2種類の杖がドロップ。性能からして、後衛用の魔力アップ系の武器みたいだけど。

 何故に同時に報酬品で出たのかは、全くの不明。



 そんな感じでドロップ確認も慌ただしく、その後すかさず洞窟に向けて移動しようとしたまさにその時。時間が残り3分とかで、普段ならとっくに落ちているまさにその時。

 不意に、誰もいなかった筈の背後から大声を掛けられて。


「……あ~~~~っ!!!」





 ――あ~~って女の子の声で、非難がましく叫ばれてしまった。





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