薬の名前は

執筆日:2018/04/12

お題:『毒』『嫉妬』『会社』


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会社でなかなか業績を上げられない人がおりました。ちゃんと働いているのに業績があげられないことに、その人はとても悩んでいたのです。


ある日、その人の家に不思議なチラシが届きました。

『あなたのお悩み、解決いたします』

詳しく見てみると、こんなことが書かれています。

『あなたのお悩みを占います。

占いの結果から、相応しい解決法をお教えいたします。

このチラシをお持ちくだされば占い料は無料です。

お待ちしております。

店主 狩野日和』


どうしてもチラシを捨てられなかったその人は、占いをしてもらいにいきました。チラシを持って。

占いの店の中は怪しげな雰囲気で、現れた狩野という人も、不思議な人でした。

「お待ちしておりました。さあ、こちらへ」

その人は占い師と机を挟んで向き合いました。

「頑張っても会社での業績が上がらないのですね?」

何も言わないうちに、占い師はその人の悩みを当てて見せました。

「どうして、それを?」

「占い師ですもの、このぐらいお手の物です。そんなあなたには、この薬を」

占い師は手品のように薬瓶を取り出し、その人に手渡しました。

「この薬はあなたの会社の業績を上げるのにきっと役立つでしょう。しかし、覚えていてくださいね。薬は毒です。飲みすぎると会社で嫌われる人になるので、ご注意を」


翌日、その人は会社でその薬(それは錠剤でした)を一粒飲みました。すると、その人は心の中から何やら感情が込み上げてくるのが分かりました。

(悔しい。同期のあいつはあんなに業績を上げているのに。後輩のあいつには追いつかれそうだ。負けるものか)

その感情だけがその人を支配しました。

そして一週間ほどすると、その人の業績はぐんと伸びたのです。

(ああ、本当に業績が伸びた。あの薬のおかげだ)

そしてその人は薬を飲み続けました。そしてますます業績を上げようと仕事に励みました。

その人の業績は確かに上がりました。

しかし、その人の人柄はどんどん悪くなりました。

全てのものに嫉妬し、ありとあらゆるものを妬むようになったのです。

その人には常にストレスがつきまといました。そして部下を怒鳴りつけることで、あるいは同期を馬鹿にすることで、上司の陰口を言うことで発散するようになってしまいました。

その人は会社の人々から嫌われました。

しかし、その人は周りに嫉妬し続け、業績を上げるために今日も働いています。

会社もその人の業績を見過ごせず、クビにしたくてもそれは大きな損害だったため、彼をクビにすることが出来ませんでした。


「あーあ。だから薬は毒だと言ったのに」

その頃、占い師はそう呟きました。

あの薬の名は、嫉妬。

適度な嫉妬ならば人の役にはたつでしょう。

しかし、過度な嫉妬はある意味人を狂わせるのでした。

占い師は、再び呟きました。

「何事も、ほどほどが一番なのに」

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