誓いの握手
執筆日:2018/04/03
お題:『騎士』『人肌』『緑』
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騎士がいた。
騎士は一人、敵の陣地へと乗り込んだ。
矢が飛んでくる。
しかし彼はそれを見事に避けて先に進む。
彼は決して自分が持つ短剣や矢は使わなかった。
目的地まであと少し。
敵がまばらになってきた。
騎士が安心したのもつかの間。
一人の騎士が刀を振りかざしてこちらへとやってきたのだ。
騎士はあっさりと両手を挙げた。
「……降参か、深緑の騎士よ」
呆れ返ったような敵の声。
「戦うつもりはない。ただ、国王に会いたい。それだけだ、
まっすぐな騎士の目線を無視することは不可能だった。
「——名は何という」
「——ブドル。スル・ブドルだ」
鉛灰色の王と騎士は、二人きりになった。
王がそうするように命じたためだった。
「お目にかかれて光栄です、マラム・コール殿」
騎士が跪くと、王は玉座から降り、王までもが跪いた。
「光栄です、貴方にお会いできて。深緑の王、スル・ブドル殿」
騎士ははっとして顔を上げる。
鉛灰色の王は顔を上げ、机と椅子を出した。
「周辺国の王の名も分からぬとは、あの騎士はクビだな」
鉛灰色の王は溜息をついた。
「其方のことだ、手に持っている刀は使えないように刃を潰し、矢の先は使えないように丸くなっているだろう。刀や矢を持ち武装したのは、王と悟られないため。そうではないか?」
沈黙が流れる。
「その通りだ」
彼が見せた刀の刃や矢は最早、使い物にならなくなっていた。
「二国の王同士だ、対等に話そうではないか」
鉛灰色の王は豪快に笑ってみせた。
騎士は——深緑の王は、にこりと笑った。
「ああ、そうしよう」
「話したいのは、この争いについてだ」
「うむ、私も其方と話さなければと思っていた。まさかお前がくるとは思いもしなかったがな」
笑いが起こる。
争っている国の王達の会話だとは思えない。
鉛灰色の王が問う。
「其方に『土地を分けて欲しい』って言ったら断られたのがきっかけだったかね?」
「ああ、そうだな」
二人はもともと、とても仲の良い王様同士。しかし、土地を巡って喧嘩をしたのをきっかけに、争いが始まってしまったのだ。
最初は苛立っていて話し合いをしようなどという考えは二人とも浮かばなかったが、冷静になると、王の喧嘩ごときで争いをするのは馬鹿げている、二人とも早急に話し合いをしなければならないと思うようになったのだ。
深緑の王は口を開く。
「私からの提案はこうだ。あの土地を、二つの国共用の土地にする」
「なるほど。どちらの所有かを決めず、どちらの国の者も使えるようにするわけか」
鉛灰色の王は興味深そうに言う。
「悪くはないだろう?」
「ああ。ただ、決まりごとはどうする?」
「二つの国の決まりをお互いが納得するように折衷していくしかないだろう」
「よし、決まりだな」
二人の王は、硬く手を握り合った。
二人の温かくしっかりとした手によって争いは終わり、二つの国は再び仲良くなったのであった。
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