第8話 当然のこと

 僕には…………、はっさく君、君しかいません!


 もう、はっさく君だけなんです!




 こんにちは、桜 吹雪です。


 アレですよ。べつにはっさく君が好きなわけでも愛の告白をしているわけでもないですからね。


 僕の小説『花より団子よりありよりの梨』内で、梨々香になりすましている乗っ取り犯と立ち回るためには、はっさく君をいいように利用するしかないっ!てだけですから。


 しかし、人のアカウントを乗っ取って、僕の小説を崩壊させるとか、クズですか!


 いやいや、お前もなかなかクズい発言をしているという苦情は、窓口すら御座いませんので申し訳ありませんが、受け付けられません。あしからず。


 


 さて、ここまでの出来事を思い返していたのですが、時間がありません!折角現れた『乗っ取り犯』をみすみす逃す訳にはいきません。


 僕の大事な梨々香になりすますとか、けしからん!許さん!


 しかし、一条 冬馬をただのはっさく君にバッサリ改名してくるヤツのセンス、いったいどういう頭脳をしているのでしょう。

 嫌がらせをするような奴等は、ユーモアのセンスも礼儀の内なのだろうか?


 それに、切り返しの早さも尋常じゃありません。

 ヤツの頭の回転速度には感心してしまうところですが、僕のアカウント乗っ取りや梨々香になりすますことを捨て置くわけにはいきませんよ。


 故に僕は、はっさく君になりすまし、ていうか、なりすますも何も僕の作中での出来事なのですから、僕の好きなようにさせて頂く。気にしたら負け!使いたおします。


 とにかく、僕ははっさく君となり梨々香(?)に話し掛け続けなければ。ビビりながらも待ち望んだ好機なのですからね。一気に攻め込まねば!


 はっさく君、生きてるよね?じゃないと会話させられないですからね。


 まあ、死んでいても起こす!



 では、いざ!


 許せ!はっさく君!



○○○執筆再開


「まあ、落ち着いてくれよ。君の言い分も沢山あるだろう。そこは理解しているつもりだよ。ハラスメント多用についてはこちらに非があるし、素直に詫びよう。ごめんなさい。それで、君は梨々香ではな「はあぁぁぁ!落ち着けですってーーーー!?ごめんなさい?それで許して貰えるとでもおもってんのぉ!随分とおめでたい思考してんなぁ!頭、お花畑か! ハラスメントぉぉ? あんたのしてきたことはハラスメントだけじゃないだろ!いいかげんにしろっ!! もどしてよ! 元にもどしてよぉ! ふぇ、ふぇ、ふぇ~~~~ん」いの、なら…………えぇ!」


「ひっぐ、と、とつ、ひっぐ、ずびーっ、突然頭のなか、えっぐ、中に話しかけて、ずびっ、きて、わたしや、えっぐ、ひっぐ、り、両親、ひっぐ「ちょっと待って!落ち着いて。ホントに落ち着こう。ね?このままじゃ何を言ってるのか読みづら、じゃなくて、分からないよ。ちゃんと君の話しを聞くから。信用されてないようだから身構えちゃうのも分かるけど、本当にちゃんと聞く。聞くから落ち着いて。上から目線にきこえているなら謝るし。だから、ね?」ずびーっ」


……………………


……………………



○○○執筆一時中断


 うわぁ、びっくりした!


 吃驚しすぎて思わず一時中断してしまいましたよ。


 こちらがタイピングしている最中に言葉を被せてくるとは思いませんでたし、まさか泣き出すなんて荒業まで持ち出すなんて想定外ですよ。


 字面的にあんな被せ方できるんだ。自分で書いているのなら理解できますが、部外者がそんな真似できます? 一流のハッカーとかなら出来るのでしょうか? そういう事すら僕には分からないのですけど、いま目の前で起こっている事が全てであると認めざるを得ないでしょう。


 なんて器用なまねを!小癪な!


 あの後、落ち着かせるような言葉を選んで、何度も梨々香(?)を宥める文章を綴りましたが、返ってくる言葉は、罵声や僕には理解できない悲痛な叫びでした。それも泣きながら?僕から見ればぶっちぶちのぶつ切り文章で、大変分かりづらいものになっていました。それで一時中断を余儀なくされた感じです。


 そして思うのです。これ本当に『乗っ取り犯』なのでしょうか?


 なんか違う気がしてきました。それこそ、そう思わせることが犯人の狙いなのだとすれば、僕はそれにまんまと嵌まり犯人の思う壺という事になるのでしょう。


 けど……けど、泣きながら(?)言っていたことが気になります。



 憤り 悲しみ 憎しみ…………



「元にもどしてよぉ」という言葉……



 僕は…………。


 僕は自分が思っていた以上にお人好しなのかもしれません。


『お人好し』


 これまでも他人からは言われてきました。まず頼まれ事を断り切れなかったり、困っている人を見過ごせなかったり。他にも…………。


 なんて、あげ連ねれば結構沢山ありました。ただ単に自覚がなかった、とまでは言いませんが、自分のそういった行動に対して興味が人より薄かったのでしょう。


 だから僕は、お人好しを発動します。


 例え悪戯かもしれなくとも、新手の詐欺かもしれなくとも、最後に手痛い結果が考えられるとしても、少し話してみても良いんじゃないかと思っちゃいます。

 本当は駄目なんでしょうけど。


 だから……………………、よしっ!


 脳内会議終了!


 全僕、満場一致で執筆続行案が議決しました!


 


○○○執筆再開


「どう?少しは落ち着いた?」


「うん、ずびっ、き、君ははっさく君?なのよね?」


「…………」


「ひっぐ、どうして、えっぐ、どうして黙ってるの?はっさく君じゃないの?わ、わたしは、はっさく君が……、見た目ははっさく君でも、もし?もしもだよ、中身がこれまでのはっさく君じゃなくても、ずびっ、今のわたしなら信じられるというか、信じないけど、そうであっても不思議じゃないというか、ずび」


「…………そうか」


「えぐっ、じゃあやっぱり!?やっぱり違うの?」


「そうだね。僕は、はっさく君の外見なんかはさ、さっぱり分からないし。これまでの彼の性格や語り口、態度や仕草すら何も知らないんだ。だから真似はできないね。そして、たぶん君が考えている最悪のケースだよ。僕は…………、僕ははっさく君を、操っている」


「…………」


「今度は君が黙りか? じゃあ今度は僕から問うけど、君は誰? そんな名前じゃないとさっき言ってたけど、本当の君の名は藤堂 梨々香ではないということ? それに、何が目的で僕のアカウントを乗っ取って、なぜ僕の小説を荒らしたの?」


「はあぁぁっ?何言ってんのか分かんないんだけど!乗っ取り?小説?荒らす?わたしがあんたの妨害でもしてるっつーの?あと、誰だって?人に何者か訊きたいなら、まず自分から先に名乗りなさいよ!わたしからしたら、あんたの方がずっと得体が知れない不審者なんだから!この、変態!侵略者!ずびーーーーっ」


「なっ!えっ、侵略者!?」




○○○執筆一時中断


 また怒らせちゃったなぁ、折角宥められていたのに。

 


 しかし『侵略者』か…………。『変態』呼ばわりは一旦置いといて、いったいどういう事なんだろう…………?。


 今度は、謎キーワードが出てきましたよ。なんか互いの話しも食い違っているようですし……。

 それに、考え様によっては侵略されいるのは僕の方な気がするのですが。


 それそうなんですが、僕が気になったのは、昔から言われている常識です。


 梨々香(?)の指摘通り、相手の名を尋ねたいのであれば、まずは自分から名乗らなくてはね!






 うん、当然のことでした。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る