37話・銀腕の王の姫

 その晩。寝室を訪れたルーグを私は拒まなかった。全てを知った今、彼への想いが大きくなっていた。寝台の中に入り込んできた彼に縋り付くと聞かれた。


「アリーダ、何があった?」


 彼には私が前世の記憶を取り戻したことは知らない。でも私の異変は感じ取っているらしい。彼としては今までの銀髪である姿を拒まれたこともあり私が何かを恐れているのは伝わっているらしい。

ルーグに隠し事なんて出来ない。いつかは知れること。それなら今話してしまう方がいい。今の世はノギオンが時間を巻き戻し、死んだはずの私達が生き直しているだなんて荒唐無稽な話を彼は信じてくれるかどうか分からなかったけど話してみた。


「実はね信じてもらえないかも知れないけど私達は一度死んでいるの。今の世は生き直している状態なのよ」


 私はこの世はノギオンの力で巻き戻った状態であることを伝えた。ルーグは訝ることなく聞いてくれた。


「そうか。こうして再び出会えたことに感謝だな。ノギオンには足を向けて寝られないな」

「私の話を信じてくれるの?」

「疑う要素がどこにある? おまえは嘘をつくような女じゃない。それにノギオンはこの帝国で大賢者として名を知られている」


 そう言えばと思う。ノギオンはゲルト国では王女である私の侍従長として側にいて目立つ事はなかったのに、ルーグは勿論のこと、皇帝アダルハートを始め、帝国の者達には知られていた。


「ノギオンは評判の悪かった先代皇帝を追い落とし、アダルハートを皇位に就かせた英雄だからな」


 その一件で帝国ではノギオンは有名になっていたらしい。


「でもしばらくしてから銀腕の王の姫に仕えるのだと意味不明なことを言い残して去って行ったな。その彼がまさかおまえの侍従として仕えているとは思わなかった」

「皇帝も同じ事を言っていた」


 アダルハートはゲルト国を表敬訪問し求婚してきた。二人きりになった際にその話を持ち出したことを覚えている。


「銀腕の王とは何のことだ?」

「我が国の先祖でゲルト国を建国した王、ヌアザのことよ」

「傭兵王と呼ばれていた御方か?」

「ええ。彼はある戦いの最中、利き腕を負傷して使い物にならなくなった。その時に戦友であった偉大な

魔術師が彼の腕を再生した。その時、銀の篭手を纏っていたことから銀腕の王と称されるようにもなった。今ではその名はゲルト国では実力者に与えられる称号にもなっているわ」


 それはゲルト国に伝わる伝承だ。その偉大な魔術師と言うのはノギオンではないかと私は思っている。彼はヌアザの子孫を見守ってきたと言った。永い時を一人で踏みとどまってきた彼が寂しそうに思えて誰が惹かれる人はいないのかなんて言ってしまったけど、彼にとっては余計なお世話だったかも知れない。


「そうだったのか」

「知らなかった?」

「歴史には疎いからな。アダルの方が詳しいかも知れない」

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