第35話・これからどうなさいますか?


「あなたさまは皇帝の元へいても相変わらずで自分のことよりわたくしの身を案じて下さった。皇帝がわたくしの事を良く思わず気分のままに鞭打とうとしたときも身を庇って下さったばかりか、処刑されそうになった時も自分の首を捧げるとまで言って止めて下さった」

「それはあなたがこの世になくてはならない人だと思っていたからよ。大賢者さまは神さまのような人だもの」

「神さまではありませんよ。ただ特殊な力を持った只の人です」


「只の人がこのような人の生死に関われる? でもありがとう。あなたのおかげで困難はあってもルーグともう一度会えた。あの時の皇帝はもう死んでいないのね?」

「前の世でもルーグさまと親しかった皇子アダルハートさまに奮起して頂きました。先代皇帝からその座を奪ってもらったのですよ」

「それでなのね? 私が知る皇帝と違っていたのは」

「あの男が生きているとあなたさまの幸せは邪魔される。そう思って早々に彼に成敗して頂きました。罪悪感を覚えることはないですよ。もともと前の世でもあなたさまの死後、皇帝の振る舞いに憤ったアダルハートさまは挙兵して皇帝の座についたので」

「遅かれ早かれそうなる事になっていたのね?」

「はい」


「ルーグはどうなったの?」

「ルーグはアダルハートさまが皇位に就いたのを見届けあなたさまを想い、他の女性を寄せ付けずに後を追うように自死しました」

「馬鹿ね。ルーグったら」

「それだけ盲目なのですよ。現在もそれに輪をかけていますが。これからどうなさいますか?」


 ノギオンの言葉は復讐しますか? と、聞いてきたような気がした。


「何もしないわ。でももう一度、生き直す機会をくれてありがとう。ノギオン。子供の時から不思議には思っていたの。どうしてあなたは他国の者であるルーグと私を関わらせようとするのか。普通、おかしな動きのある帝国の人間、しかも帝国の軍人を私に近づけようとはしないはずなのにあなたは偶然にも出会った私達を引き離すような事はしなかった」

「お二人は運命の恋人。この生き直しはあなただけではなくルーグも願っていたのです。前の世でも私はルーグにならあなたさまを託すに相応しい相手だと認めていたので……」


 私に向けるノギオンの目は祖父が孫に向けるような慈しみが感じられた。


「あなたはどうしてそこまで? もしかしたら私の先祖の傭兵王と呼ばれたヌアザと何か関係があるの?」

「あなたさまは彼に良く似ています。彼は私の良き戦友でした。彼は傭兵が王や諸侯らに物のように扱われることを厭い、立ち上がった。自分達の王国を作ろうと。真っ直ぐな御方でした。そこにわたくしは惹かれて協力しました。そして彼の創った王国を影ながら見守ってきたのです」


 ノギオンは遠くを見るような目をした。そこに今は亡き強者ども達と一緒に荒野を行く若きノギオンの姿が見えたような気がした。


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