ひざの上のチジョ

れんこんのきんぴら和風パスタ

ベンチ

第1話。補正と品行方正

「実はブラジャーをしていない」


「お前は何を言っているんだ」


 そう言いながらも開口一番ああいつも通りだなと思わせるところが会長の凄まじいところだ。


「君は信じるかい?」


「いや……信じたところで別に、って感じだしな」


「ふむ。それはそうだね。ならいっそのこと答え合わせというのも悪くないのかもしれないね?」


「それはやめとけ」


「どうしてだい?」


「どうしてもこうしてもどうしてもこうしてもだろ?」


「なるほど。よしボタンを外すのを手伝ってもらえるかな?」


「どうしてそうなった」


「君が素直にならないからだよ」


「素直という意味でいえば俺はとても素直だと思うけどな」


 特にベンチで寝ているといつの間にやら座っている隣人というか変人を結果的にとはいえ黙認しているところとか。


「そうかい? なら何も問題はないね」


「……何が?」


「この後のことさ」


「うん?」


「君と私で買い物に行く約束だろう?」


「そうだったか?」


「そうだよ。忘れたのかい?」


「一応聞くが捏造という言葉に心当たりはあるか?」


「既成事実という言葉には心当たりがあるのだけれど」


「一体俺が何をしたっていうんだ……」


「その逆さ」


「逆?」


「そう。時には逆の視点に立つことで見えてくる真実というものもあるのかもしれないね」


「……なあ」


 そこで一つの疑問が浮かび上がってくる。


「一応聞いておくが、お前今してるんだよな?」


「それはセクハラかい?」


「いや、万が一というかむしろお前ならありえそうな気がしてありえないと思えないぐらいにお前に対する不信感というものがだな……」


「ふふっ。それはもうある意味で信頼してくれていると思ってもいいのかな?」


「期待はしてないけどな。ただまあもしそうなら……って、もしそうでも俺が買い物に行く必要はあるのか?」


「うん? 君が選ぶのに?」


「うん。きっと気のせいだな」


「君が選んだ下着を身に着ける」


「すっごい分かりやすい事実で人を追い込むのなお前」


「何か不都合でもあるのかい?」


「不都合しかないだろ」


「その心は」


「いや……いや、何だろうな」


 ぱっとでてこない辺り兎にも角にも日常から逸脱した問答であることには違いない。うん。きっとそうだ。


「出てこないということは何も問題はないということだね」


「俺が選んだ下着を着用することに抵抗はないのかお前は」


「まったく?」


「まったく?」


「むしろ君がしていないほうがいいと言ったら私はしてこないつもりだったよ」


「衝撃の告白も辛うじていい報告をもたらすこともあるんだな」


「今日はしてきたけれど今はしていない」


「衝撃の事実も重なるとそんなに威力を持たないと今日初めて知った」


「何、ちょっとした遊びだよ。今朝思いついてね。前の時間が体育だっただろう?」


「だろう? ってナチュラルに言われてもな。というかどんな危険な遊びだよ。俺を巻き込んで最終的にどこに突き出そうって気なんだ」


「うーん? 両親とか?」


「えげつないな」


「そうかい?」


「そういうことにしておいてくれ」


 そこで昼休みの終了を告げるチャイムがなる。


「さて」


 お互いにそれからの行動はもうずいぶんと手慣れたものだ。


「それじゃあ放課後にね。校門で待っているよ」


「お前は俺を周知的な意味で彼氏にでも仕立て上げるつもりか」


「違うのかい?」


「違う」


「なら何も問題はないね」


「……出口は二つ、確率は二分の一。とれなきゃ俺の平穏な学生生活は終わりだな」


「残念ながら君を教室まで迎えに行くことに決定したようだよ」


「教室は三階……いけるか?」


「ははっ、バカだなぁ君は」


 会長からほいっと投げ渡される紙パック。見ればフルーツベジタブルのベジタブルくんが狂喜乱舞している。


「何だこれ」


「今の君みたいだよ」


「……ありがとよ!」


 半ばやけくそ気味に感謝の意を表明しては、周囲に鳴り響き始めた授業開始のチャイムを前に、二人して慌ただしくも走り出したのは言うまでもない。

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