恭帝1  司馬徳文

恭帝きょうてい司馬德文しばとくぶん。あざなも德文で、安帝あんていの同母弟である。はじめ琅邪ろうや王に封じられ、中軍將軍、散騎常侍、衛將軍、開府儀同三司を歴任。侍中が加えられ、司徒や錄尚書六條事を兼任した。


桓玄かんげんが実権を握ったころ、車騎大將軍とされた。その専横が進む中、太宰に任じられ、ほぼ皇帝と変わらない衣服を着させられた。


桓玄が簒奪をなすと石陽せきよう縣公とされ、安帝とともに尋陽じんように蟄居させられた。しかし劉裕りゅうゆうが決起、桓玄を建康けんこうより追い払う。桓玄は逃亡の道すがら安帝と司馬徳文の身柄もさらい、江陵こうりょうに落ち延びた。桓玄が死ぬと、桓振かんしんが二人の住まう邸宅を包囲。そして言う。


「我々の家門がいつお国に背いたのか? だと言うのに、なぜ滅ぼされねばならぬのか?」


その言葉を受け、司馬徳文は桓振のもとに出向き、言う。

「どうして此度の動きを我々兄弟の意向だと思えるのだ!」

桓振はその言葉を聞くと速やかに下馬、司馬徳文に対し拝礼した。


間もなく、その桓振も平定される。司馬徳文は再び琅邪王とされ、あわせて徐州じょしゅう刺史を兼任するも、まもなく大司馬兼司徒とされ、やはり他の臣下とは一線を画す扱いをうけた。


409 年、つまり劉裕が南燕なんえん征伐に向かう年には左右長史、司馬、從事中郎四人が配され、羽葆鼓吹が加えられる。回りくどい言い方をしているが、要は開府儀同三司の復刻である。


416 年。安帝より以下のように申し渡された。

「司馬徳文はよくこの兄を補佐し、劉裕殿はこの東晋再興に多大な功績を残した。ともにこの晋国を守り、盛り立てんと志した元勲である。かつ両者ともに謙譲の念をよく守り、修め、軽挙にて世の称賛を得ようともせずにおられる。いま、昔の徳盛んな時代のごとく、朝廷には異才がこぞっておる。これは詩経文王しきょうぶんおうに言う多士済々の句がごとくなのであろう。まこと喜ばしき限りである。ここに司馬徳文および劉裕殿の幕府に才人らを集めるべく命じる、そうして賢人らの才覚を世にあきらかとして、先人より継承した美事を更に盛り立てられよ」

こうして、司馬徳文のもとにはさらなる属僚がつけられた。


また、この頃劉裕が都督中外諸軍に任じられていた。ときの詔勅にはこうある。

「大司馬司馬徳文、そなたは封地も栄え、その任務も重大であり、かつ朕への忠誠心にいささかの曇りもない。ならば朕に対し、ことさらに臣下のごとく振る舞うまでもなかろう」


劉裕が後秦こうしん討伐に出るとき、司馬徳文は自ら北伐軍の統帥、皇帝の軍を大いに率い、洛陽らくようでは西晋代々の皇帝陵墓を修復したいと願い出た。この願い出は受理され、劉裕とともに北伐に出た。実現できなければどうする気だという者もあったが、司馬徳文はその大願を叶えられなかったとしたら道半ばで果てたにしても恨みはしない、と答えた。


劉裕が後秦を滅ぼしたのち、建康に帰還。その後諸々あって皇帝についたのは、前話にて紹介したとおりだ。




恭帝諱德文,字德文,安帝母弟也。初封琅邪王,歷中軍將軍、散騎常侍、衛將軍、開府儀同三司,加侍中,領司徒、錄尚書六條事。元興初,遷車騎大將軍。桓玄執政,進位太宰,加兗冕之服,綠綟綬。玄篡位,以帝爲石陽縣公,與安帝俱居尋陽。及玄敗,隨至江陵。玄死,桓振奄至,躍馬奮戈,直至階下,瞋目謂安帝曰:「臣門戶何負國家,而屠滅若是?」帝乃下床謂振曰:「此豈我兄弟意邪!」振乃下馬致拜。振平,復爲琅邪王,又領徐州刺史,尋拜大司馬,領司徒,加殊禮。

義熙五年,置左右長史、司馬、從事中郎四人,加羽葆鼓吹。

十二年,詔曰:「大司馬明德懋親,大尉道勳光大,並徽序彝倫,燮和二氣,髦俊引領,思佐鼎飪。而雅尚沖挹,四門弗辟,誠合大雅謙虛之道,實違急賢贊世之務。昔蒲輪載徵,異人並出,東平開府,奇士向臻,濟濟之盛,朕有欽焉。可敕二府,依舊辟召,必將明敭俊乂,嗣軌前賢矣。」於是始辟召掾屬。時太尉裕都督中外諸軍,詔曰:「大司馬地隆任重,親賢莫貳。雖府受節度,可身無致敬。」

劉裕之北征也,帝上疏,請帥所莅,啓行戎路,修敬山陵。朝廷從之,乃與裕俱發。及有司以卽戎不得奉辭陵廟,帝復上疏曰:「臣推轂閫外,將革寒暑,不獲展情埏璲私心罔極。伏願天慈,特垂聽許,使臣微誠粗申,卽路無恨。」許之。及姚泓滅,歸于京都。




(晋書10-23)



こういうところでちらほら見える詩経表現を拾えるようになっているのは大きいですが、それにしたって詔勅わからん。漢文で喋れ。

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