竺道生2 時をねじ曲げる帝

竺道生じくどうしょうは、劉義隆りゅうぎりゅうから

嘆息を交えての尊敬を寄せられていた。


劉義隆が法会を開催すると、

竺道生らと共にござの上に座り、

講話を聞く。


この当時の僧侶は、太陽が昇ると、

早朝、及び正午以前に食事を済ませ、

午後は何も食べないようにする。

二回目の食事を中食ちゅうじきと言う。

この辺りのルールは現代も

上座部じょうざぶ仏教の信徒に

見られるものだという。


何せ、皇帝陛下直々の法会である。

そのため食事の準備が手間取ってしまい、

このままでは食事が午後に回ってしまう、

と言う状況になった。


あれっ飯食えへんのん?

僧侶たちがそわそわし出すと、

劉義隆、やおら、言う。


「そろそろ中食の刻限かな?」


この言葉に応じ、竺道生も言う。


えきに尋ぬるに、

 日月は天にて麗らかなり。


 いま、その天が

 中食に相応しき刻限と仰せになった。

 ならば、どうして刻限でない、

 と言えようか?」


そして真っ先に鉢の食事に手をつける。


それを見て、他の僧たちも気付く。

「皇帝陛下が直々に時間をねじ曲げた」

んだから、食ってもええんや! と。


そして、気付くのだ。

易経えききょう繋辞けいじ伝上には、こうある。


言行,君子之樞機。

樞機之發,榮辱之主也。

言行,君子之所以動天地也,

可不慎乎。

 君子に取り、言行とは枢機、

 すなわち扉の軸木や

 石弓の引き金のごとく、

 それ抜きで機能せぬもの。

 これらがいかに動くかで、

 栄誉か、屈辱かが決まる。

 加えてその言行により、

 君子が天地をも動かし得ることとなる。

 どうして慎まずにおれようか。


まさにこの言葉を適切に

援用したものではないか、と。

僧たちは竺道生の機微に感嘆した。


時のトップ名士、

王弘おうこう范泰はんたい顏延之がんえんしらもまた、

竺道生を大いに尊崇し、

教えを請うのだった。




宋太祖文皇深加歎重。後太祖設會,帝親同眾御于地筵,下食良久,眾咸疑日晚,帝曰:「始可中耳。」生曰:「白日麗天,天言始中,何得非中。」遂取鉢便食,于是一眾從之,莫不歎其樞機得衷。王弘、范泰、顏延之,並挹敬風猷,從之問道。


宋太祖文皇は深く歎重を加う。後に太祖の會,を設くるに、帝は親しく眾に同じく地筵に御し、下りて食すこと良や久しうす。眾の咸な日が晚きを疑うに、帝は曰く:「始めて中せるべきのみ」と。生は曰く:「白日の天に麗らかなるに、天の始中を言えるは、何ぞ中に非ざるを得んか?」と。遂に鉢を取りて便ち食わば、是にて一なる眾は之に從い、其の樞機の衷せるを得るに歎ぜざる莫し。王弘、范泰、顏延之は並べて敬を挹し風猷し、之に從いて道を問う。


(高僧伝7-9_捷悟)




いや仏法を皇帝がねじ曲げちゃだめだろ。何やってんだこいつら。お前らもう慧遠えおんの書いた文章全部捨てろや、な? 慧遠がなんのために「沙門不敬王者論」書いたかわかってらっしゃる?

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