法顕4  唯だ己の影のみ

南下する法顕ほっけん、マガダ国の村、

パータリプトラにある

アショーカ王が建立したとされる法塔の

南にある天王寺で

『摩訶僧祇律』『薩婆多律抄』

『雜阿毗曇心』『綖經』『方等泥洹經』

等を獲得。

3年をかけてサンスクリット語を習得し、

自らの手で経典を筆写。

あわせて仏像もいくつか手に入れた。


これらを全て、中国に向かう隊商に寄付。

そこからさらに南下し、獅子国、

今で言うスリランカに到達した。


法顕と共に長安を出立した仲間は、

全部で十人あまり。

しかしある者は途中で旅路を諦め、

ある者は旅路にて斃れ、

もはや伴侶は自らの影のみとなっていた。

そのため胸中には、常に悲しみが

懐かれていた。


あるとき仏像の前で、商人と思しき人物が

中国産とわかる白い扇子で

仏像への礼拝をなしていたのを見かける。

それだけで法顕、知らず識らずのうちに

さめざめと涙するのだった。


とはいえ、役目を果たさねばならない。

スリランカでも経典を求め、

『彌沙塞律』『長含経』『雜含経』『雜藏』

を獲得する。いずれも当時の中国には

まだ伝わっていなかったものである。




後至中天竺,於摩竭提邑波連弗阿育王塔南天王寺,得『摩訶僧祇律』,又得『薩婆多律抄』、『雜阿毗曇心』、『綖經』、『方等泥洹經』等。顯留三年,學梵語梵書,方躬自書寫,於是持經像,寄附商客,到師子國。顯同旅十餘。或留或亡,顧影唯己,常懷悲慨。忽於玉像前,見商人以晉地一白團絹扇供養,不覺悽然下淚。停二年,復得『彌沙塞律』、『長』『雜』二『含』及『雜藏』本,並漢土所無。


後に中天竺に至り、摩竭提の邑、波連弗の阿育王塔の南の天王寺にて『摩訶僧祇律』を得、又た『薩婆多律抄』、『雜阿毗曇心』、『綖經』、『方等泥洹經』等を得。顯の留むること三年にして、梵語梵書を學び、方に躬自にて書寫し、是に於いて經・像を持ち、商客に寄附し、師子國に到る。顯の同旅は十餘なり。或いは留まり或いは亡ざば、影を顧みるに唯だ己れのみなれば、常に悲慨を懷く。忽に玉像が前にて、商人の晉地の一なる白き團絹扇を以て供養せるを見、覺えずして悽然と淚を下す。停むること二年、復た『彌沙塞律』、『長』『雜』二『含』及び『雜藏』本を得。並べて漢土に無き所なり。


(高僧伝3-4_文学)




連れ立つ影が自分のものだけだったって言葉、中国にいた頃に比べて影が圧倒的に短いところまで考慮に入れると、相当に寂しい感じを受けます。それでも進むしかなかったんですね。


しかし高僧伝、どうしてそこまで高い志を抱くに至ったかが微妙に分かりづらい。この辺、なんかヒント落ちてないかなあ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る