第87話 3人でデートをしようとカノジョが言った
今日は日曜日。
夏休みなので日曜日の恩恵もあまり感じないが、カレンダーの数字が赤くなっている事に関してはなんだか少しポジティブな気持ちになれる。
そのままの調子で2つか3つくらい毎月の赤い数字が増えないだろうか。
何はともあれ、今日は文化部の部室棟が開いていないため、必然的に部活はお休み。
1日中彼女とイチャイチャして過ごせるのだ。
それなのに。
ホノカは朝ごはんを食べるとすぐに小早川さんのところへ出かけて行ってしまった。
こんなに悲しい事もない。
今頃、彼女たちはどんな話で盛り上がっているのだろうか。
僕も誘ってくれたら良いじゃないか。
おのれ、小早川さん。
「大晴! 玉木さんが来てるぞ!」
そっちのお誘いは断る事にしているので、むしろ迷惑。
「帰ってもらって」
「お前! 自分を慕って遊びに来てくれる可愛い後輩の女の子に対して、そりゃあいくらなんでもあんまりだ! ひどいじゃないか!!」
「一応確認するけど、玉木さん手に何か持ってなかった?」
「ああ、茶碗とお箸を持っていたな」
「ちなみに、今の時間は?」
「11時半だな」
「昼ご飯食べに来ているだけだから、帰ってもらって?」
「お前の料理を楽しみにしてくれている良い子じゃないか!!」
親父との押し問答は平行線をたどって、なんだかそれすらもアホらしくなってきたので仕方なしに僕は玄関へ向かった。
「来間せんぱーい! 来ちゃったっす!!」
「帰ってくれるかな?」
僕はこの数分間に何度お帰り下さいと言えば良いのか。
「おっす! お昼ご飯の時間っすね! 今日は何作るんすか!?」
「君は本当にアレだな。僕と相性が悪すぎる三次元だよ」
「えー? そうっすか? 自分は結構な勢いで来間先輩のこと好きっすよ?」
「帰って……くれないなら、もう上がれば良いよ」
「おっす!! おじゃしゃーす!!」
「スピード重視でなにか作ろう。食べたら帰ってね」
僕は台所に立つと、野菜を適当に取る。
本当に適当に取ったところ、玉ねぎ、舞茸、にんにくが出揃った。
炒飯だな。にんにくたっぷり入れてやる。
玉木さんはせいぜい口臭に悩まされる午後を過ごせば良い。
野菜を切って油でにんにく炒めて、乱暴に切ったハムと残りの野菜を叩き込んだらさらに炒めて、冷ご飯ぶちこんで創味シャンタンデラックスと醤油とごま油とかで雑に味をつけたら、完成。
なんか炒飯っぽいもの。
「おー! いい匂いじゃないか! 父さんの空腹を見越して昼ご飯を作ってくれるとは、大晴、恐ろしい子!!」
「親父のためでもないんだよね。はい。もう好きに食べて」
「では、いただきまっす! うっまーい!! 来間先輩、やっぱ料理上手っすねー! 今なら自分、特別に彼女になってあげてもいいっすよ!?」
「冗談を言う口があるのなら、速やかに食事に集中して欲しい」
「自分の昼ご飯にそこまで! やっぱ来間先輩、自分のこと好きっすね? ヤダー!!」
「ただの部活の先輩の家に茶碗と箸抱えて突撃できる心境を知りたいよ」
玉木さんはいつものように豪快に食事を済ませると、最高の笑顔で「それじゃ、帰るっす!!」と言って本当に帰って行った。
最後に「また来るっすね!」と不吉な呪いの言葉を残して。
◆◇◆◇◆◇◆◇
部屋に戻ると、まだホノカは帰って来ていなかった。
もう良い。ふて寝してやる!
それがこの世界への唯一取り得る反抗のような気がして、僕はベッドに寝転がった。
まったく同じタイミングで、スマホが着信を知らせる。
表示を見ると、小早川さんからだった。
「ホノカと一緒なのに僕に電話?」と首を傾げたが、通話ボタンを押せばホノカと出会えるわけであり、ならば面倒くさい理屈は無視だ。
「もしもし!? ホノカ!?」
『大晴くん! めっ! ですよー! 美海さんからの電話なんだから、まずは美海さんの名前を呼んであげてください!』
ホノカに「めっ!」ってされたら、割と色んなことがどうでも良くなった。
「ごめん、ごめん。小早川さん。こんにちは」
『むぅ。なんだか来間くん、私の事をついで扱いしてる気がする』
「すごい。僕の事をよく知っているなぁ!」
『ひどい。もぉヤダ。ホノカちゃんと一緒に海に飛び込むもん』
「それ多分溺れるのは小早川さんだけだと思うけど。まあ、いいや。悪かったよ」
『特別に許してあげる。来間くん、来間くん。今、何してた?』
悲しい昼食の風景が脳裏に浮かんで、僕は頭を抱えた。
本当に僕は何してたんだろう。
「玉木さんが押しかけてきて、ご飯食べて帰って行ったところだよ」
『え。……むぅー。来間くんの一級フラグ建築士。……ばか』
何故だかよく分からないけども、小早川さんに怒られた。
ホノカはにこやかに様子を見ているので、失言ではなさそう。
「何が気に入らないのか知らないけど、炒飯で良かったら好きなだけ作ってあげるから、機嫌を直しなよ」
『ホントに!? ……もぉ。仕方ないから、食べてあげても良いよ?』
「食べてくれなくても良いんだけど。食材が減るし」
『ヤダ。食べるもん。来間くんはいじわるだけど、優しいの知ってるもん』
結局この電話は何なのだろうか。
そんな疑問で頭の中がいっぱいになりつつある僕を見て、ホノカがついに動いた。
その発言の破壊力はなかなかのもので、僕は何も考えずに条件反射で返事をしてしまう。
先に断っておくけど、仕方がなかったんだ。
誰だって、絶対に即答すると思う。
『大晴くん! デートをしましょう!!』
「もちろん! 喜んで! むしろこちらからお願いします!!」
その後に、ホノカはこう続けた。
『大晴くんとホノカと美海さんの、3人でデートをするのです!』
「ええ……」
人の話は最後まで聞きましょうと言っていた、もう名前も思い出せない小学生の頃の担任の先生の顔が頭に浮かんだ。
なるほど、おっしゃる通り。
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