三章

94話 クラン創設!?

 領都レストリア、王国の初期スタート地点の一つで俺が初めてルキファナスの世界に降り立ったのもここだった。

 未だに新たな来訪者が増え続けて賑っている。

 その多くが初心者装備で初々しさを感じさせる。

 当初は苦労したものだ。

 少しプレイして慣れればここを離れ次の街へ旅立つ。

 となれば、レストリアに用事でもない限りは戻ってくることはない。

 普通は次の街、次の街へとステップアップしていくのがゲームの進め方というものだろう。

 俺の場合はレストリア領主のジャンヌに用事があるのでちょくちょく戻ってきているんだが……


 何が言いたいかというと、俺のようなガチガチの装備の人間がいればもの凄く目立ってしまうということだ。

 多数の視線が俺に向けられ、ヒソヒソと会話をしているのがうっすらと聞こえてくる。

 詳しく何を話しているのかは分からない。

 逆に聞こえなくていいと思っている。

 もし、全て聞こえてバカにされるような内容なら俺の心が崩れ去ってしまう。

 そんなことは気にしないフリして堂々と街を歩いて目的地を目指すのが正解だ。


「凄いねクロツキさん」

「何が?」

 ジャックはチャリックで共に殺し合い、共闘した仲だ。

 親の仇である悪魔を倒したということで俺についてくることにしたらしい。


「街のみんながクロツキさんを見て凄いって言ってるし、ラフェグも1人で倒しちゃうクロツキさんは有名な人だったんだね」

「うっ……どうして俺を見て凄いなんて言われてるかは分かるか?」

 この凄いというのは現地人ローカルズ、いやこの世界の現地人はもう人間と変わらないからあれだけど、まだ幼いジャックは勘違いしてる可能性がある。

 凄いの意味には本当に心の底から凄いという場合とヤバすぎて逆に凄いっていう意味もある。

 聞くのは怖いが気にはなる。

「うーん、ラフェグを倒したってことがもう伝わってるみたいで、クロツキさんに近づいたら殺されるってみんな思ってるみたい」


 …………


「またかよ!?」

 気になった俺は少し調べた。

 どうして俺の戦闘が毎回勝手に配信されてるんだ。

 そして俯瞰で見てやばかった。

 最初はあれが自分だなんて思わなかったよ。

 まさに化け物だったよ。

 ゲームを始めた当初は目立ちたいとかも若干は思ってたけど化け物になって恐れられるのはちょっと違うんだよな。

 

「凄いねクロツキさん」

「いやいや、暗殺者としてダメだろ」

 そう、そもそも暗殺者が目立ってどうするんだろうか。

 それに有名になればステ振りやスキル構成もバレるし、余計なトラブルにも巻き込まれる可能性も上がる。

 その後も視線に晒されながら、目的地のシュバルツ城に到着した。


 ジャンヌは俺を見て爆笑しながら化け物弄りをしてくる。

 何を隠そう配信したのはジャンヌだからだ。

 イヴィルターズのときも精霊祭のときも、ちょこちょこと俺を盗撮しては勝手に配信してる。


「勘弁してくれよ。街でどんだけの視線に晒されたと思ってるんだよ」

「いいではないか、チャリックの街を救った英雄なのだぞ」

「いーや、化け物として目立ってるね」

「力を見せつけるのは強者の特権だぞ。それに撮られるのが嫌なら撮ってるやつを注意すればいいではないか」

 そう自信満々に言うジャンヌはタチが悪い。

 撮ってる人間が見つからないと分かっているんだ。

 実際にどれだけ気配を探っても見つけることができない。

 単純に俺よりも格上の人間がついてるのだろう。

 まぁ、こんなやり取りをしているが俺も本気で嫌がってるわけではない。


 今までもジャンヌもとい、シュバルツ家の面々にはお世話になっている。

 黒竜のディーを貰えたのもシュバルツ家のおかげだし、アイテムやサポートも良くしてもらっている。


「そのうち見つけてやるよ。まぁ、すでに伝わってると思うけどチャリックでの仕事は終えた……でいいんだよな」

「あぁ、もちろん、もちろん。予想以上の働きで満足しておる。褒美としてそうじゃな、転職はもちろんなのだが、お主はクランが作りたいと聞いたが間違いはないか?」

「そうだな、いずれは作りたいと思っている。もしくはいいところがあれば入れてもらいたいと思っている」

「ふむふむ、ではクラン創設に力を貸してやろう。セバス」

「はい、お嬢様。すでに王宮への申請、王都で土地の確保も済んでおり、建設作業に入っております」

「というわけじゃ。お主がマスターとして運営するがよい」

「はっ!? 創設費用に土地代、建設費用は? 俺はそんな大金持ってないぞ」

 クランを作るにはレベル60以上の代表者がマスターをすること、その他のメンバーが4人、そしてクラン創設費に拠点が必要になる。

 クラン創設費もそれなりのお金がかかるのだが、何よりも拠点に莫大な費用が必要になる。

 しかも王都のような立地となるとさらに金額は跳ね上がる。

 

「気にするな、今回の働きに比べれば安いものよ」

「それはありがたすぎるけど……でも、メンバーも俺1人なんだぞ」

 レベル60以上はラフェグを倒したおかげで問題なくなっている。

 しかし、他のメンバーが問題だ。


「それも問題ない。4人揃えておる。今この城に向かわせてるところじゃ」

「えーっと……いやいやいやいや、知らない人と急にクランやるなんて、俺はそこまでコミュ力高くないぞ。厳しいって」

「心配するな。全員がお主の知り合いじゃ。それともここまで用意させて断るのかのう?」

 いや、たしかに王都にクランはありがたすぎるが、俺の知ってる人間?

 それにジャンヌが上機嫌でここまでしてくれることに違和感を感じる。


「さぁ、お主はまず我にいう言葉があろう。ほれ、ほれ」

「ありがたく受けさせていただきます」

 俺は全てを飲み込んでジャンヌの提案に乗ることにした。

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