85話 裏切りの悪魔
「貴様、どういうつもりだ!!」
警備隊副隊長ソーンは2人の部下と共に牢屋に閉じ込められていた。
檻の向こう側では自分に攻撃を加え気絶させた部下が見下ろしている。
「どういうつもりも何も副隊長があちらへ急行していればこんなことにはならなかったんですよ」
「ジェイ、何故裏切った。悪魔に魂を売ったのか」
裏切ったジェイと同期だった男が問いかける。
行動からしても悪魔と仲間なのは確実だった。
「魂を売った? 何を見当違いなことを。俺は元々こっち側だよ」
ジェイは悪魔へと姿を変える。
「バっバカな、悪魔だった、のか……」
3人は驚きを隠せない。
数年来、仲間だと思っていた男が実は悪魔だったのだ。
「まぁ、元仲間のよしみで手荒な真似はしない。もう少しで終わるんだ。それまでは大人しくしててくれ」
「くっ!!」
「副隊長、無駄ですよ。この牢屋には能力封じの効果がある。外との通話もできないし、魔法もスキルも使えませんよ」
ジェイは階段を登って元仲間たちを後にする。
階段の先の部屋ではもう1人の悪魔が待機をしていた。
「お仲間と親睦でも深めていたのかい?」
「そんな意味があるのか?」
「まぁ、ないね。どうせ皆殺しだし。もう少しで完成するらしいよ」
「そうか……」
「君は不服そうだね」
「俺は興味がない。お前は楽しそうだな」
「君はそっち派なのか。僕は人が殺せればどうだっていいよ」
§
警備隊とクロツキ、ジャックは副隊長が消息を絶ったと思われる場所へ急行していた。
「隊長、殺人鬼Xをなぜ捉えないんですか?」
「お前達も見ただろ悪魔の姿を。あれは放っておいていいものではない。それにジャック君の話を聞く限りでは複数の悪魔がこの街で確認されている。しかも全てが娼婦ならば話を聞く相手も絞れてくる」
警備隊隊長のロックは柔軟な思考でジャックを警備隊に受け入れていたが、警備隊の面々はいまだ懐疑的な反応を示している。
「ここです」
警備隊は現場に残り痕跡の調査に入る。
調査といっても刑事ドラマのような指紋採取のような証拠集めではない。
ファンタジー世界にはファンタジー世界の調査方法がある。
魔力痕を追跡する魔法やその場の過去を見る魔法が使用されるわけだが、さすがは悪魔というべきか見事に消されていたらしい。
「くっ、痕跡が完全に消されています」
「そうか、ご苦労だった。ひとまずは市長に報告が必要だろう。それにもしもこの件に俺の想像してる人らが関係しているのなら簡単には解決できない」
俺と隊長、ジャックは現場を離れ市長に現状を説明しにいく。
翌日、市長は市長権限を使い最も怪しい人物たちを集めた。
「市長、これはどういうことですかな?」
「こんな突然の召集命令など、いくら市長とはいえ少々横暴ではないか」
「正当な理由がなければ失脚もありえるぞ」
3人は夜の街を支配する娼館のオーナー。
シャングリラオーナー、ハリントン。
ユートピアオーナー、ヘンリー。
アヴァロンオーナー、バロン。
「大体、そこの3人はなんなのだ? 1人は知っているが後の2人は見たこともないぞ」
ハリントンは俺たちを値踏みする様にじろっと観察してくる。
それぞれがやり手の商人であり、一筋縄ではいかなさそうな雰囲気をしている。
そんな3人を前に市長はゆっくりと口を開いた。
「そこの2人は王宮が遣わしてくれた助っ人ですよ。お三方も待ち望んでいたでしょう」
市長も中々に腹黒い。当然のように嘘をついている。
「ふん、やはり王宮など頼りになりませんな。こんな……たったの2人だけとは」
ヘンリーが大きくため息をつきながら首を横に振る。
「そこは一旦、置いていただいて……それよりも重要な話があります」
「悪いがこちらも忙しい身分でね。悪ふざけに付き合ってる訳にはいかないんだよ」
バロンが席を立って、ドアノブに手をかける。
「この街で悪魔が現れました」
「悪魔だと……見間違いではないのか」
「えぇ、しかも複数体。全て娼婦に姿を変えていたようです」
ハリントンは怪訝そうに市長に尋ねる。
悪魔と言えば一般的なモンスターよりも強力で、なによりも人間に近い思考を持ち狡猾な存在として知られている。
悪魔が複数体も潜んでいたということは何らかの大きな計画が実行されようとされていりことに他ならない。
「娼婦とは……それでこの召集という訳ですな」
「今回分かっているだけの被害者がこちらで、悪魔だった娼婦がこちらになります」
机の上に写真が広げられる。
「これは……かなり多いようだが、本当なのか?」
「悪魔に関しては確実で、被害者は推測になります」
写真は合わせて200枚以上にもなる。
ジャックからの情報提供で悪魔については確実なものだ。
しかし、被害者に関しては消息不明になった娼婦や客など推測になるため、数が多くなっている。
「しかし、これは不可思議だな? 娼婦に化けていた悪魔というのはバランスよく俺らの店に潜んでいたようだが、俺の店の娼婦はすべてお前の管轄から流れて来た娼婦じゃないか」
「私の店も同じようなものだな」
ハリントンとヘンリーがバロンを睨みつける。
「バロン様、席にお座り下さい。詳しく話を聞かなければいけない状況のようです」
「バカバカしい、こんな悪ふざけに付き合ってる暇はない」
「おじさん、悪魔臭いよ。さっきまで一緒にいたんじゃない?」
ジャックはバロンの首にナイフを振りかざす。
影から尻尾が現れてナイフを止めた。
「バロン、商売人としての目が落ちたか。先程の攻撃はただの脅しだったのに見事にハマったな」
「お前が殺人鬼Xというわけか。演技は中々のものだったようで。見破れなかったのは一生の恥として心に刻みましょう」
ハリントンとヘンリーは冷静にバロンを見つめていた。
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