37話 暗殺開始

 天気は快晴、暖かい日差しの中馬車でヒコ村に向かう。

 今から殺し合いをするなんて思えない。


「クロツキよ、ジュバルツ家当主、ジャンヌ・マリー・シュバルツが命じる。殺し尽くしてこい」

 行きがけにそう言ったジャンヌの目の色は真剣そのもので、普段のクマのぬいぐるみを抱いた年相応の少女の姿はなく、幾多の殺し合いを経験した少女がいた。


 ジャンヌの圧力や執事の戦闘力、暗殺リストなどシュバルツ家が何者なのかとか色々思うこともある。

 しかし、そんな余計なことは気にしないことにしよう。

 大体、アニメの定番ではそういうことを気にしたやつは消されるのだ。

 それに今は目的に集中するのがいいだろう。


 セバスに教わったことを頭で反芻しながら最終チェックを行う。


名前:クロツキ

種族:人間

称号:暗殺者

職業:暗殺者(Lv1)

Lv:31

HP:510

MP:51

STR:42

VIT:42

INT:42

DEX:73

AGI:124

SP:0


武器:紫毒のナイフ、小刀『刹那無常』

防具: 暗殺者のローブ、暗殺者の手袋、暗殺者のズボン、暗殺者の靴、白骨の仮面


スキル

隠密、器用向上、敏捷向上、虚の心得、暗器術、不意打ち、怠けの眼、恐怖のオーラ、乱刀・斬、怨恨纏い、状態異常耐性、自然体、影の小窓


所持称号

冒険者、同族殺し、大物喰い、不死殺し、暗殺者


経験職

隠者(Lv10max)・暗器使い(Lv20max)


 称号は今回に限り最もステータスの伸びがいい暗殺者を選択しておく。

 メイン武器は、紫毒のナイフと小刀『刹那無常』、相手によって左右入れ替えながら戦う。


 防具は隠者セットから暗殺者セットへとフルチェンジしたことによって全てに置いて性能が高くなっている。


 装飾品として地下迷宮で大量に狩ったスケルトンの素材で作った白骨の仮面を身につける。

 今は頭の上に乗せているが戦闘になれば顔に装着する。

 効果は状態異常耐性と相手に与える恐怖属性のアップ。


 影の小窓に罠に使ったり、奇襲に使ったりするアイテムを限界まで入れている。

 そこまでの容量はないものの暗器を隠すには十分だ。

 それから転職が急すぎて保留にしていたスキルのランクアップと統合に手をつける。


-インフォメーション-

スキル熟練度が一定値で三次職へ転職したことにより虚の心得がランクアップできます。

ランクアップしますか?


 もちろんイエスを選択する。


-インフォメーション-

虚の心得は虚像の振る舞いシャドームーブにランクアップしました。


 暗殺者になって獲得した初期スキルである二つのパッシブスキル。

 状態異常耐性はそのままのスキルで元々、隠者系統が状態異常に強い上にスキルでより強力に、白骨の仮面を被ればそこらの状態異常にはかからない自信がある。


 自然体もそのままでどのような状況でも自然体でいられるというスキル。

 殺しを行うときでさえ自然でいろということだ。

 セバスが人型模型に攻撃するときの優雅な動きを思い出す。


 この二つとジャンヌに貰った影の小窓が入ったことでスキルの数が10個を超えた。

 セットできるスキルの合計数は初期の10個プラス職業レベルが最大値の数×2となる。

 つまり今の俺は14個までスキルをセットできる。

 まだぎりぎり枠内に収まっているため、厳選しなくてもいい。

 今後、スキルが増えていくと頭を悩まされそうだ。


「クロツキ様、到着いたしました」

 御者の声で外に出る。

 村はまだ見えていない。

 村へ続く街道はイヴィルターズに見張られているし、それ以外は森に囲まれている。

 ここからは徒歩で森の中を歩いていくことになる。


 結構大胆に魔法陣を展開して儀式を進めている。

 一見すぐにバレそうだが、セン婆の人払いの魔法もあってそうそうは気付かれないらしい。

 俺も目的地に辿り着いてもルーナととセン婆の姿は見えず、気配は小鳥などの小動物のものしか感じなかった。

 しかし、人払いが解かれると突如2人の姿が現れたのだ。


 セン婆とルーナの準備に滞りはなさそうだ。

 俺はスピードを生かしてのヒットアンドアウェイで撹乱と地道に敵の数を減らす。

 俺に求められているのはそれだけ。


 細心の注意を払って息を潜め、村の中へと潜入。

 道中、数人のプレイヤーとすれ違うがこちらの存在には気づいていない。


「……ふぅ」

 ゆっくりと慎重に、それでいて素早く仕掛けを済ませていく。

 村の中心へ一歩近づく度に緊張のレベルが上がっていく。


「ハハハ、あの女またリーダーに喧嘩売って痛い目にあってんのか」

「痛い目っていってもログアウトされたら意味ないんだけどな」

「つーか、このゲーム自由度高いのにお楽しみはできないなんて生殺しもいいとこだぜ」

「それはリアルで解消してこいっつーの」

 ルキファナス・オンラインは殺人などのグロはある程度、というかほぼ規制がないのに対してポルノ的な表現は結構厳しい。

 互いの同意があればできなくもないが、手続きなどが大変なんだとか。


 下衆な会話をする男達の横を通ってもそこに俺がいるとは誰も気づかない。

 まるで空気のように、何も存在しないかのように歩みを進める。

 セン婆にかけてもらった人払いの魔法と自然体のスキルのおかげだ。


 イヴィルターズは荒らし専門のプロゲーマー集団として有名だ。

 しかし、一括りにイヴィルターズといっても全員がプロゲーマーではない。

 過激な配信が好きなだけの腰巾着やこのゲーム内でスカウトした来訪者などは一般人レベルといえる。

 今のイヴィルターズで本当に注意しなければいけないのはリーダーであるイーブルを筆頭に幹部であるナナシ、いるか、PX441の4人だ。


 ゲームを始めた日が一緒なのにプロと一般人でそこまでの違いが出る訳がないとイヴィルターズに喧嘩を売る人間もいたが盛大に散っていた。

 確かにこのゲームでは歴は同じでも、他のゲームに費やした時間は経験となり、それは他のゲームの理解度を高める。

 簡単に言えばゲームの進め方を知っているしコツを掴むのもはやい。

 特にVRMMOはリアルでの能力も反映されたりするのでそこでも違いは出る。

 例え同じステータスでも差は出てしまうのだ。


 もう少しで村の中心に辿り着き、仕掛けも全てつつがなく完了しようとしていた……


「ちっ、テメェらなにをくっちゃべってんだよ、敵だろうが!!」

 一つの民家から出てきた忍び装束の男が下衆な会話をしていた男たちを怒鳴りつける。

 それと同時に4人の男と目が合う。

 一度敵に認識されてしまえば自然体だろうが人払いの魔法もほとんど効果を発揮しない。


 別に見つかるとは思っていたし、仕掛けもすんでいるんだ。

 4人の男は突如現れた俺に動揺を隠せていない。

 紫毒のナイフで一人の首を切り裂き、職業が忍者のいるかの足元へ毒煙玉を投げつけた。

 さらに追加で自分の足元にも2個叩きつけると、紫色の煙が急速に広がっていく。

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