24話 アルムニッツ

 職業的に速くは動けないと思ったが案の定だったな。

 それに先の戦闘で消耗していたこともあってか特に追われることもなく逃げ切ることができた。

 それにしても挑発スキルとは恐ろしいスキルだ。

 まるで自分で思考し、さもそれが当然のようになってしまっていた。


 しかし、今回の戦闘で俺の弱点が改めて浮き彫りになってしまったな。

 ダガーナイフはこんなことになってしまったし。

 ぽっきりと折れたダガーナイフを見つめる。


 紫毒のナイフとダガーナイフを比べると前者は毒を付与できるが単純な攻撃力となると後者に軍配が上がる。

 オウカに攻撃を当てたとき不意打ちでのクリティカルが決まっていたはずが、ダメージを与えることは叶わなかった。

 つまりは紫毒のナイフでもダメージを与えることができず、毒状態にもできない。


 火力不足……

 俺がこれまで隠者が不遇職だと感じなかったのは武器のおかげなのが大きい。

 対策としてはステータスをSTRに振っていくか、武器をよりよいものにするか。

 でも今更、素早さ極振りを止めるのもいまいちな気がする。


 武器に関してもダガーナイフと紫毒のナイフは俺のレベル帯ならかなりの上位のはずだし、これ以上となると装備ペナルティがかかってしまう。


 未だに攻撃スキルがないのもネックだ。

 不意打ちは攻撃スキルと呼ぶには微妙すぎる。

 考えなければいけないことだらけ……

 でも悩みは多いけど、このどうするか考えてる時間が楽しい。


 アルムニッツ到着後、まずは冒険者ギルドを探す。

 レストリアも人が多かったけどあれはほとんどが来訪者ビジターだった。

 来訪者がいなければ静かでいい街だと思う。

 あの裏通りのスラム街を忘れれば。

 それに比べてここアルムニッツは様々な店がそこそこに賑わっている。

 そして、現地人ローカルズが多く、来訪者が少ないのもこの街の特徴だ。

 街並みや時代設定は中世ヨーロッパのような趣でレストリアと通ずるところがある。


 冒険者ギルドを目標に歩いていると徐々にひと気がなくなっていく。

 街の外れに冒険者ギルドはあった。

 なんというか、レストリアのギルドとは比べるまでもなく寂れたバーのような外見で聞いていなければギルドだと気づかないレベルだ。

 もちろん足を運ぶ人間も少ない。


 冒険者ギルドが寂れていて冒険者の少ない街、これこそがアルムニッツに来訪者ビジターが少ない理由だ。

 来訪者の多くは冒険者ギルドで登録し、モンスターを倒して、素材を入手してレベルを上げてこの世界を楽しむ。

 ここアルムニッツの立地はレストリア、そして王都グランシャリアに挟まれている。

 サンドロ渓谷というモンスターの発生地こそあるもののそれはグランシャリアの方が近い距離にあり、それ以外は目立った狩場がないのだ。

 つまりは冒険者をほとんど必要としていないのがこの街で、何かあってもレストリアかグランシャリアから冒険者が派遣されるだけ。

 大抵の冒険者はこの街に滞在をしないし、レストリアから始めた来訪者も一休みつけばグランシャリアを目指してこの街を通過していくというわけだ。


 冒険者ギルドではフーラが話をつけてくれていたおかげでスムーズに話が進み、おすすめの依頼や周辺の狩場を聞くことができた。

 それにアルムニッツでおすすめの飲食店を聞くことができたし、宿も手配してもらった。


 教えてもらった飲食店の料理は絶品で肉と野菜の炒め物は最高だった。

 肉は聞いたことない種類だったが、まぁファンタジーな世界だし、美味しいんだから別に気にしない。

 さすがにスライムの踊り食いは怖くて注文できなかったが……


 そんなことよりも酒が飲めるなんてここは天国か。

 ここを紹介してくれたギルドの受付嬢に感謝しなければいけない。

 この世界ではアルコールを摂取して酔うことができる。

 そして酔い過ぎれば酩酊状態という身体と精神の状態異常になる。

 酩酊状態のような摂取すればするほど際限なく効力が高まっていく状態異常は珍しいせいで、アルコールが最強の毒物などとネット上ではネタにされていた。


 体に悪いと分かっていてもやめられないのが酒というものなのだが、ここは控えめに嗜む程度に抑え、この日は宿で休むことにした。


 あくる日、俺はとある店を探して街を散策していた。

 が……目的の店がなかなか見つからない。

 大体の位置は教えてもらったはずなのにどこにも見当たらない。

 右往左往していると背後から声がかかる。


「何を探してるの?」

 緋色で腰まで伸びる長髪の少女は不思議そうにこちらを見つめてくる。

 この少女とはどこかで会ったような気がする。

 しかし、思い出せない。

 まぁ、気のせいか。

 少女の知り合いなんてジャンヌくらいしかいない


「隠者用のスキル屋を探してるんだけど、見つからないんだ」

「それならこっち」

 少女が指差すのは探していた通りから一本外れた通りだった。


 少女に袖を引っ張られて案内される。

 まるで俺が迷子のようじゃないか。


「お兄さんは隠者系統なの?」

「まぁ、そうだね」

 隠者用のスキル屋を探しているし、装備から見ても隠者というのは丸わかりだろう。

 俺は少女の問いに警戒しながら答える。

 俺の袖を引く力が少女のそれとは比べ物にならないし、達観した眼が幼さを感じさせなかった。

 来訪者である可能性が高い。


「ところで君の名前は……」

 少女の名前を聞こうとしたとき数人が道を塞いできた。


「よぉ、兄弟!! ここを通るには通行料がいるんだよなぁ。かわいい妹に怪我はさせたくないだろ」

 つくづくこういう輩に絡まれるのは俺の体質なのかと疑いたくなる。

 隠者の隠し要素に絡まれやすいなんてないよな。

 陰からも数人がこちらの出方を伺っている。


「お店はすぐそこだから行っていいよ」

「えっ、君は?」

「こんなのどおってことない」

 少女はVサインで軽くポーズを決める。

 無表情な顔とおどけたポーズのギャップがシュールな空気を醸し出している。


「ガキが、痛い目見ないと分からないらしいなぁ!!」

完全武装フルアームズ

 少女の小柄な身体を不釣り合いな2メートルを越す白銀の全身鎧が包んでいく。


 そこからチンピラたちは可哀想になるくらいボッコボコに殴り倒される。

 少女はチンピラたちを武器も使わずに素手だけで制圧した。

 2人ほど、逃げ足の速いのが逃げようとしたのでそっちは俺が処理しておいた。

 処理といっても軽く攻撃してビビらせただけだが、あんな光景を見たら二度とこんな真似をすることはないだろう。


「そうそう、私の名前はオウカ」

「へー、オウカって言うんだ。いい名前だね……ってそんなわけないよな。鎧の種類こそ違うけど、こんな偶然ないだろ」

 どうりでどこかで会った気がしたわけだ。

 さっきは鎧で声がこもって気づかなかった。

 なんだ、逃げた俺を追いかけてきたのか。


「さっきはどうも」

 さて、どう逃げるか……


「あっ、待ってほしい。頼みがあってお兄さんを探してた。それに道案内もしてあげた。等価交換は世の摂理……って誰かが言ってた」

 オウカがスキルで鎧をしまい指差す方向にはたしかに俺の探していた店があった。

 恐ろしい……

 あの凄まじい戦闘をこんな少女が行っていたというのが恐ろしい。

 そしてそれ以上に少女のお願いなど恐ろしさしか感じない。

 お金は足りるだろうか……


 オウカに装備された薄ピンクのもふもふ装備。

 顕現した巨大なもふもふ腕が俺を逃がすまいと身体を握りしめる。

 ただ、できるだけ優しく握る努力は伝わってくる。

 それでも死にそうなんだけどね……

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