夏の痛快大作戦

読天文之

第1話日誌の名前

「はあ~っ、こんなのないよ・・・。」

夏休み終了まで残り一週間の日、僕は図書館からの帰り道を一冊の日誌を持ちながらトボトボあるいていた。

日誌は学校から渡された宿題で、自分のは既に終わっている。

ところが図書館で本を読んでいたら、杉山五郎すぎやまごろうというクラスのガキ大将に遭遇、「これ、やっといてくれ。」と全く手のつけていない日誌を手渡された。

断ろうとしたが、「言うことが聴けねえのか?」と脅され、やると言ってしまった。

「あれ?ホークじゃないか、どうしたんだ。」

川本健太かわもとけんたが声をかけた、僕の名前は鷹羽寛介たかばかんすけ、だからホークというあだ名で呼ばれている。

「ああ、図書館から帰るところだよ。」

「あれ?その日誌なんだ?」

僕は川本に図書館での出来事を説明した。

「杉山め、押し付けやがったな・・・。そうだ、アニキに相談しよう。」

「アニキって、川本のお兄さん?」

「そうだ、丁度俺ん家にいるから相談しよう。」

こうして僕は川本と一緒にアニキに会いにいった。

アニキは川本家の二階にいた、本名は川本正志かわもとまさし、大学生である。

眼鏡をかけていることから、賢そうにみえる。

「アニキ、相談があるんだけど。」

「なんだ健太・・・?」

正志はむっくりと起き上がった。

健太は正志に僕の身におきた出来事を話した。

「ふーん、日誌をね・・・・。」

正志は日誌の裏面を見ると、僕に質問した。

「なあ、日誌を押し付けた奴の名前ってわかるか?」

「ああ、杉山五郎といいます。」

「ふーん、じゃあ俺が代わりに日誌をやるよ。」

「え!?いいんですか・・・。」

驚く僕に対して、正志の顔はニヤリとしていた。

「ああ、ついでに杉山って奴をギャフンと言わせてやる。」

「さすが、アニキ!」

「じゃあ日誌ができたら健太に渡しておくから、受け取ってくれ。それで九月一日になったら、自分のと一緒に先生に提出しろよ。」

「はい、わかりました。」

そして僕は川本家を出て、自分の家へ帰宅した。








それから五日後、健太から日誌を受け取った。

そして九月一日、僕は職員室で担任の先生に自分と杉山の日誌を提出した。

教室に入って五分過ぎたころ、杉山が話しかけてきた。

「おい、おれの日誌はやってきただろうな。」

「ああ、僕のと一緒に先に提出しておいたよ。」

「そうか、サンキューな。」

杉山はそう言って自分の席に座った。

それから朝の会が始まったのだが、担任の先生が杉山を呼んだ。

そして杉山に日誌を見せつけた。

「杉山、これはどういうことだ?」

担任の先生は日誌の裏の名前を書く空欄を指さした、そこには「杉山正志」という名前が書かれていた。

「え・・・、名前が違う。」

「しかもそれだけじゃない。日誌の答えを全て見たが、お前の書いた文字が無いことがわかった。この杉山正志って誰だ?」

「あのー・・・えっとー・・・。」

杉山はしどろもどろになっている。

「後もう一つ、私はこの日誌を鷹羽から受け取った。どうして鷹羽が日誌を持っているんだ?」

杉山は黙り込んでしまった。

「杉山、一時間目の授業が終わったら職員室に来い。」

担任の先生はそれだけ言うと、杉山を席に座らせた。

僕と川本は、杉山の怒られているところを見て。気分が爽快になった。







それから二日後、川本から電話が来た。

「もしもしホーク?実は伝えなきゃいけないことがあるんだ。」

「どうしたの、健太君?」

「実は今日、アニキが学校に電話で日誌のイタズラのことをタネ明かしをしたんだ。だから俺とホークは明日、呼び出されるかもしれない。」

「どうして?」

「あの後、杉山のオカンが学校に呼ばれることになっただろ?それで先生が杉山正志って誰だと聞いてみたけど、オカンは親戚にもいないって言ったんだ。だから杉山正志って誰だって、職員室が大騒ぎになったんだ。そのことをアニキに話したら、「これ以上騒がせるのはいけない、タネ明かしする」って電話したんだ。」

「そういうところはちゃんとしているんだ・・・。」

「だからごめんな、怒られることになって。」

「いいよ、スカッとしたから。それに杉山もこれに懲りて、宿題を押し付けなくなると思うよ。」

「そうだな、それじゃあな~。」

そして僕は通話を切った。






翌日、川本の言う通り僕は、川本と一緒に職員室に呼び出された。

教頭先生からいくつか質問されたが、怒られることはなかった。

教頭先生から聞いた話によると、川本正志はこの学校のOBで、小学生時代は頭のキレる悪ガキとして名を利かせていたらしい。

僕も正志みたいに、度胸のある人になりたいと痛切に思った。













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