2
バイト最終日。
駅まで
一瞬で蒸し返すような夏の匂いが立ち込めて、無意識に身体が学校の方を向く。
条件反射だ。
条件反射で悪いかよ。
雨が降ると美緒を迎えに行かなきゃと身体が反応してしまう。
大丈夫。
もうとっくに帰りついてるはず。
ちゃんと男子校を避けたルートで。
風邪だってひかない。
俺なしでも平気。
でもやけにソワソワしてしまい、江森を置いて引き返そうかと一瞬迷った。
いや、今はバイト中、しかも別料金発生中だ。それだって今日で最後。
明日は美緒の誕生日でそのためにバイト頑張ったんだし、たとえそれが無意味になったとしたって任された仕事はちゃんと最後までやり遂げる。
そして、ちゃんと現実を受け入れられるように心を整えて、会いに行くんだ。
「ねぇ、先生の傘に入れてよ」
黙って横を歩いていた江森は自分の傘を差さずに俺の隣に滑り込んだ。
「自分の傘があるだろ? だいたいおまえでかいんだし、窮屈じゃん」
「女の子に向かってでかいとか言っちゃダメだよ先生! あーもう、ちょー傷付いた」
「なんでもいいから自分の使え」
「ちぇ」
言われるまま自分の傘を広げるところは、
素直ないい子。
服やメイクなんかでいくら背伸びをしたって、所詮中学生、つまりはガキだもんな。
「先生とはたぶんベストな身長差だと思うんだよね。まぁ私がちょっと顔あげて、軽く背伸びしたらほっぺに簡単にチューできちゃうもんね」
「あっそ」
出たよ女子の好物、ベスト身長差ネタ。
そんなの知るかよ。
どこの誰が吹聴してんだよ。
「ねーねー試す? 届くよ、楽勝だよ。ヒールなんか履いてたら先生の唇奪えちゃうよ?」
「ふーん」
「あっそ、とかふーんとか……なにそれもう!」
「あ、ごめん聞いてなかった」
美緒とキスしたのっていつだろう。
てか俺ら何回キスした?
それどころか、手もろくに繋いでないような。
「もう、先生こっち向いてよ!」
「なんだよ人が真剣に考え事してんのにごちゃごちゃうるさ……わぁ!」
差したばかりの傘を閉じて、また人の傘に潜り込んできたと思ったら、今度は腕にしがみついてきた。
「そのポーカーフェイス崩壊させなきゃ気がすまない!」
「受験失敗したくないならそんな頭の悪いことすんな。彼氏が泣くぞ」
江森の無邪気さに少し腹が立った。
「あいつと別れたら先生が彼氏になってくれたらいいんじゃん。今日でお別れなんて悲しいし、先生は岡崎さんと別れたんじゃないの?」
「……今なんて言った?」
そのワードは強烈な破壊力となって俺の平常心を乱した。
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