その69 ハイキング……?
「みゃ!」
「みゅーん……」
「あはは、女の子なのにキサラギの方が元気ですね!」
「コテツ、がんばれー」
というわけで俺達はムーンライトが採れるという山へと赴いていた。ドワーフの集落から見た時は近そうな感じだったけど、いざ進んでみると結構距離があり、それなり高い山であることが分かった。
それでもエベレストとかK2といったガチ山のようなことは無く、頂上まで2000メートルと言ったところだろう。
ただ――
「ふう、道が整備されているわけじゃないから登りに時間がかかるな」
「お主の世界では山も整備されておるのか?」
「ああ、アウトドアって言って山登りも趣味の一つとして楽しまれているんだよ。山の途中には山小屋とかあって泊まれたりするんだ」
「へえ、山なんざ嫌ってくらい登るから趣味だとか考えられねえな……」
「私達はそうだな」
リュッカとベゼルさんも不思議だと顔を見合わせて肩を竦める二人の手には武器があり、ここがただの山ではないことを物語っている。
「ま、向こうの世界はこっちより便利なものが多いけど、窮屈な側面もあるんだ。そういうストレスから解放されるために静かな自然で少しだけ過ごすってな」
「難儀な世界なんじゃな……まあ、スミタカとマユミは違うが人間は亜人を追いやるほどの存在だから同族でストレスをため合っているとかありそうだわい」
「はは、そういう側面もありますねー。……ん! コテツ、キサラギおいで!」
「みゃーん!」
「みゅー!!」
「む!」
黛がなにかに気づいて子ネコを回収してその場を飛ぶと、巨大な熊が飛び出てきて子ネコが居た場所へ口を大きく開けて噛みつこうとしていた。
「真弓! ベゼルさん頼む!」
「オッケー!」
「クマ鍋が食えるな」
「弓で援護するわ!」
「わたしは応援しますね!」
ベゼルさんが拳を合わせ、リュッカが斧を担いで前に出るが、熊は黛に狙いを定めたのか突っ込んでいく。間に合うか!? そう思った瞬間――
「ええい、びっくりさせないでください! せい!」
「え!?」
黛がその場でジャンプすると、驚くほどの高さ……軽く2メートルは越えた位置まで舞い上がり、俺達は目を見開く。クマも目標がいきなり消えて困惑していると、黛は体を捻って木を蹴り、熊の脳天へ向かって蹴った。
「おお!?」
驚くリュッカだが無理もない、熊は黛の一撃でくず折れ動かなくなったからだ。華麗に着地した黛に俺は駆け寄りながら声をかけた。
「ふう」
「お、おい、大丈夫か!?」
「みゅー」
「みゃー」
キサラギが俺に抱っこをせがむので引き取ると、黛は目をキラキラさせて俺の周りを飛び跳ねる。
「せんぱぁーい、さっきボクのこと『真弓』って言いましたよね? ね? ふふん、やっと恋人らしくなってきましたね! さあ、もう一回どうぞ! って、ああああ!? なんでアイアンクロー!?」
「調子にのった罰だ。心配したんだからな。前はベゼルさんとリュッカに任せて、お前はネーラ達と後方にいろ」
「ううう……酷い……家に帰ったら甘えますからね!」
「どんな脅しだよ!? というかお前は脚力が強化されているんだな?」
「どうやらそうみたいですね。先輩は腕力でしたっけ?」
「ああ」
と、俺は熊を片手で持ち上げてアピールすると、その場にいた全員が拍手をして称えてくれた。照れながら熊を置くとグランガスさんがすかさずナイフを取り出して解体を始める。
「内臓以外は食えるし毛皮や牙と爪は使える。十分ほど待ってくれ」
「ああ、急ぎでもないしゆっくりやってくれ。水でも飲むか」
「賛成ー! 口移しで!」
「熱でもあるのか!?」
フローレは無視して、休憩がてらみんなで談笑してグランガスさんを待ち再び出発。完全に陽が落ちるか、というところで山頂についた。
俺もキャンプで慣れているし、黛は脚力強化のおかげで俺より楽そうだった。ついてきていたエルフやドワーフ、オーガの若い連中も問題なく登りきることができた。
「で、ムーンライトってのはどこで採れるんだ?」
「まあ待て、月が完全にあがるまで時間がかかる。野営でもして待とうじゃないか」
グランガスさんはそう言って笑い、俺達はまず山頂での夕食に取り掛かるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます