その35 すみたか、バトる!


 「どわっ!?」

 「グルゥ……」

 「みゅー!」

 「グルルル……」


 襲ってきた狼の初撃は身をかがめて回避し、事なきを得ることができた。しかし、回避した先には二頭の狼が立っており、完全に挟まれた形になる。犬に似ているとは行っても大きさは2メートル前後。シュネよりは小さいが俺を抑え込むには十分な大きさである。


 「みゅー……」

 「みゃー……」

 「お前等……よし……!」


 ジリジリと近づいてくる狼たちに怯える子ネコ達を見て、俺は頬を叩いて鼓舞し前進する。


 「うおおおりゃぁぁぁ!! 戦うなら相手になるぞ!」


 俺はあえて村の方角に立っている二頭に向かって叫びながら突撃し、先制を仕掛けた。


 「グル!?」

 「ガオオオ!」


 俺の叫びに一頭が怯み、同時に隣に居た狼が飛び出した。しかし、その狼もびっくりしたようで、動きがそれほど機敏でないことを見抜くとサッと横に躱し、怯んだ狼にバットを振り下ろす。


 「ギャワン!?」

 「手応えあり……! 悪いな、こっちも死にたくないんでね」


 一撃で昏倒した狼を見て、冷や汗をかきながらも笑みを浮かべる。動物は好きなのでこんなことはしたくないが、命が関わっているなら話は別。ここは異世界だということを改めて認識させられた。

 

 「ガォォォォ!!」

 「っと! させるかよ!」

 「グォォォ!」

 「チッ、同時か……!」


 踵を返して襲ってきた狼の牙をバットで受け止めると、ギリギリと押し込んでくる。こっちの世界じゃ俺の力は上がっているので押し返すのは難しくないがその隙に、もう一頭が俺の足に噛みつこうと狙ってきたので俺は舌打ちをする。


 「みゃー!!」

 「ガル!?」


 するとそこでキサラギがポケットから上半身を出し、爪を立てて近づく鼻を引っ掻いた。予想外の攻撃でびっくりした狼の力が緩み、俺は素早く腰を上げてバットを下から振り上げて顎を打ち抜いた。

 

 「みゃ!?」

 「キサラギ!?」

 「グルル!!」


 勢い余ってポケットから落ちたキサラギに、こっちにきた狼が俺ではなく、すぐに狙えると判断したキサラギに標的を変えると、口に咥えて飛びのいた。


 「みゃーー!」

 「待ちやがれ!!」

 「みゅ! みゅ!」


 二頭がやられて敵わないと判断したのだろう、自分の分だけ獲物を捕らえてそのまま逃げるつもりらしい。俺を睨みながら踵を返す狼。足の速さは変わっていないので逃げ切られたらアウトだ!

 渾身の力で投石をすべきかと走りながら石を拾ったその時だった。


 『ウチの子を攫おうだなんていい度胸しているわね!!』

 「ガル!? きゃひん!?」


 シュネが俺の頭の上を飛んでいき、狼はすぐシュネに地面に押さえつけられた。ポロリと口から逃れたキサラギが俺の方へ走って来た。


 「みゃーー!!」

 「おお、無事かキサラギ……!」

 「みゅ!」


 妹がピンチだったせいかコテツが興奮気味にポケットから飛び出し、キサラギに毛づくろいを始める。幸いけがは無さそうでホッとしていると、ゴキリという嫌な音がシュネの方から聞こえてきた。


 『これでお終い。まったく、ウチの子を食べようだなんて不届きなんだから。スミタカ、ケガはない?』

 「あ、ああ……俺は大丈夫だ。コテツもキサラギも問題ない」

 『良かったわ。スミタカがこっちに来たのが分かったから迎えに来たんだけど、もう少し急げばよかったわね』

 「迂闊に動いた俺も悪かった、すまない子ネコを危険に晒して」

 

 俺が頭を下げるとシュネはきょとんとした顔をした後、俺の頬に顔をすり寄せながら口を開く。


 『フフ、異世界と行き来すればいいと言ったのは私だからね。その時はその時かしらね。もしかしたら精霊になるかも?』

 「怖いこと言うなよ。俺はこいつらが居なくなるのは嫌だからな」

 「みゅ?」

 「みゃー」


 俺が抱きかかえると、子ネコ達は『何?』と言った感じで俺を見上げてくる。うむ、何事も無くて良かった。


 「お猫様ー! 急に飛び出さないでくださいよ! って、スミタカ!」

 「ああ、ネーラじゃないか! それとベゼルさんも」

 「広場で昼寝をしていたお猫様が急に村から飛び出したからびっくりして追いかけてきたんだ。……おや、そこの狼は……」


 背後から声が聞こえたので振り返ると、ネーラとベゼルさんが丘を登ってくるのが見えたので手を振りながら声をかける。するとベゼルさんが倒れた狼たちを見て目を丸くして声を上げた。


 「こ、れはヴァイキングウルフ……!? スミタカはこいつらに襲われたのか!? け、ケガは? お、お猫様が倒してくれたのでしょうか?」

 『私は首を折ったこいつだけね。残りはもう倒れていたわ』

 「ス、スミタカが……!」

 「なあ、こいつらって何なんだ? ウルフってことは狼なんだろうけど」


 俺が尋ねると、ベゼルさんは腕組みをし、うーんと呻きながら呟くように言う。


 「こいつらはヴァイキングウルフと言って森のハンターと称される凶暴な魔物なんだ。僕たちでも手を焼くから討伐までは難しいんだ」

 「そ、そうなのか……?」


 確かに動きは見事だった。俺の力が強くなければ餌になっていたのは俺の方だろう。


 「それもこいつらは『深淵の三兄弟』と呼ばれていて、ヴァイキングウルフの中でも連携が上手い三頭だったんだ。怪我をさせられることも多かったからこれからはもう少し奥まで森に入れるかもしれない。食料や水の確保ができるよ」

 「……」


 俺は狼をチラリと見て背中が冷えるのを感じた。マジでやばい奴らだったようだ……バットを持ってて良かった……マチェットくらいはもった方がいいのかな……


 「あ、そうだ! スミタカにアレを見せるんだったわね兄さん」

 「おお、そうだ! よし、疲れているかもしれないけど早速戻ろう。ヴァイキングウルフは肉と毛皮になるから……」

 『私が運ぶわ』

 

 シュネがそう言ってヴァイキングウルフを背に乗せると、歩き出す。

 それを追って俺達も続き、村へと向かう。見せたいもの……何だろうな?

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