その27 会社での一コマ


 ――黛 真弓はスミタカに自宅へ送還された後、シャワーを浴び、自室に戻っていた。ベッドに腰かけると、スマホをいじりながらひとり呟く。


 「ふう……さっぱりした。しかしふたりきりになっても気絶してもボクに手を出さないとは……先輩、遠慮しすぎだよね」


 自分の体型には目を瞑り、固い先輩だと寝転がる。しかし、そんなことを口走るには理由があった。


 「……絶対、女の人の声が聞こえた。うっすらだったけど美人っぽい感じの声が。……も、もしかして彼女だったりするのかな……だから早く帰れって……でも、会社に居る時はそんな気配無かったし、辞めてすぐ作るなんて器用なことが先輩にできるとは思えない。いやでも、今頃?」


 真弓は金髪美女とあらぬことをしている想像をして顔を赤くし枕に顔をうずめる。


 「……また行こう……明日みんなに相談してみようかな……」


 真弓はそのまま眠りにつき、翌日となる――


 「ぎゃああああ!? 遅刻遅刻!」

 「おう、ギリギリだぞ黛。さ、揃ったろころで朝礼を始めるかー」

 「はあ……はあ……おはようございます……」

 「相変わらずだな。では――」

 「変わらねえなあいつは」


 いつもことだと同僚たちが苦笑するなか朝礼が終わり、机でぐだっとなっている真弓に、スミタカより少し歳が上だと思われる男が声をかけてきた。


 「おはよう黛! 昨日はどうだった? 告白した? 永村のやつ元気だったかー?」

 「あ、課長……ボク、もうだめかもしれません……」

 「おう、なんだ。お前が永村のことで元気がないなんて珍しいな、何があった?」

 「意外と意気地がないからどうせ告白なんてしてませんよその子」

 「うるさいなあ! ……えっと、先輩の家には行ったんですよ? お家に子ネコが居て、めちゃ可愛くて、金髪が落ちてて女の人の声があああああああ」


 やはり嫌な妄想ばかりが頭に浮かび、真弓は絶叫を上げ、周りの同僚がビクッと体を動かし、何事かと一斉に真弓を見る。課長と呼ばれた男はコーヒーカップに口をつけ、困惑した様子でまた話しかける。

 

 「……あいつに女? しかも金髪……いやいや、それはないだろ! ここに可愛い子がいて誰にも声をかけない男だぞ? 仕事を止めたらさらに接点が少なくなるのに、金髪美女なんて夢のまた夢だろ?」

 「課長は複数の女の子にモーションをかけるのを止めて欲しいですけどね?」

 「おっと、手厳しいな龍太」


 眼鏡をかけた部下にジロリと目を向けられ、肩を竦める課長。真弓は顔を上げてから口を開く。


 「う、ぐす……でも落ちてたんですもん……勝手口を開けたら化け猫が居て気絶した後、うっすら聞こえてきてて……」

 「化け猫……? それ、テレビの声とかだったんじゃないの? 私もこの短期間で永村君が女性を家に連れ込むとは思えないわねえ。あなたくらいじゃない?」

 「うう、永野さん……もしかしてボク、特別な存在だったりします……!?」

 「いや、妹みたいな感じだと思う」

 「うああああああああ」

 「余計なことを言うな守屋!? ほ、ほら、また今度行って確かめればいいじゃないか、な?」

 「い、今から行ってきます……」

 「「「「そりゃダメに決まってんだろ」」」

 「あい……」

 「ま、でも気にすることはないって。また会いに行けばいいだろう」


 ビシッと課内全員が声を揃えて真弓にツッコむと業務が開始される。真弓もさすがに連続で仕事を休めるほど暇な人間ではないので、休んだ分を取り戻すためパソコンに顔を向ける。


 「(でも、みんなの言う通り先輩が女の子といちゃつくところは考えにくいかな? 油断はできないからもっとアプローチしていかないと!)」


 真弓は同僚から励まされたり、早く告白して爆死しろと冷やかされたりして奮起する。


 そして、一方そのころスミタカは――


 「ぶぇーっくしょ!」

 「みゅ!?」

 「大丈夫かスミタカ?」

 「みゃー」

 「おお、キサラギ心配してくれるのか……」

 「スミタカさん、今から何をするんですか?」

 「とりあえず俺の腕から離れてくれないかフローレ」

 「そうだぞフローレ、スミタカが動けないだろ」

 「ネーラだって掴んでるじゃないですか!」


 ――美女に囲まれていた。真弓に勝ち目はあるのだろうか……?

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