その15 歓迎ムードの中での違和感
「みゃー」
「お、自分で歩くのか? 走るなよ」
サバトラが俺の腕から離脱し、目の前を歩きながら草の匂いを嗅いだりしてお外を満喫する。三毛猫は俺の腕の中でごろごろと喉を鳴らしていた。
「みゅー」
「お前は雄なのに保守的だなあ。見ろ、妹はあんなに元気だ」
「みゅ!」
マイペースで行くんだと言わんばかりに抱っこしている俺の手をぺちぺちと叩く三毛猫。まあ、こういう兄妹は人間にも居るけど、ネコにもこういう個性があるのは面白いな。
「はっはっは、お猫は気まぐれだし、精霊のお猫様も代々女系で継いでいるから、もしかしたらお猫は女のほうが強いのかもしれないな」
「そうかねえ。そういや、こいつらはお猫様とは言わないんだな」
「ああ、あくまでもお猫様は先ほどの精霊だからね。崇拝の動物だから敬ってはいるけど様はつけないかな」
そう言って笑うベゼルさん。村の入り口で、さっき磔にされた広場まで戻ってくると、エルフの子供が群がってきた。
「わー! お猫様ー! 初めて見た!」
「かわいいー。ねえ、ベゼルお兄ちゃん、触ってもいいかなあ?」
「スミタカがいいと言ってくれたらね」
「え!? 俺!?」
エルフの子供たちはじーっと俺を見て答えを待っていた。そんなキラキラした目で見ないでくれ……
「いいか?」
「みゅー」
「みゃ!」
一応確認してみると、二匹は小さく鳴いた。肯定と捉えていいだろうか? 俺は三毛猫をそっと地面に置くと、サバトラが三毛猫にちょっかいを出し始めた。ころころと動く二匹はものすごく可愛い……
「撫でてもいいよ」
「ほんと!? ……わー、ふかふかだ!」
「あはは、舌がざらざらしてるー!」
「みゅー♪」
子ネコは子供たちの足元をくぐったり、手をひょこひょこ伸ばしたりして予期せぬ遊び相手に歓喜の声を上げていた。でも、すぐに俺のところに来て抱っこをせがむ。
「みゅー!」
「みゃー!」
「なんだ、折角だし遊んでもらえばいいのに」
「ははは、スミタカが一番いいんじゃないか?」
「また撫でさせてね!」
子ネコに触れなくなった子供たちは手を振りながら広場で自分たちの遊びを再開する。手を振り返しながら周囲を見ていると、ふと、あることに気づく。
「……ベゼルさんは凄い筋肉だけど、周りのエルフってみんな細いな。俺のイメージからすると合っているけど、細すぎるような……」
「……ま、エルフだって生き物だ。太っているのも居れば、痩せているのもいる。背が高かったり低かったり。人間も同じだろ?」
「それはそうだけどな」
とは返事をするものの、俺は違和感を感じていた。何かが違うんだよな……?
しかし、答えは出ないままベゼルさんの後を追うと、広場から近い家の扉をノックする。
「居るかい?」
「居るわよーって……人間じゃない!?」
「お、おう」
確かフローレだったっけ?
玄関先に出てきたのは彼女だった。口は悲壮感ある口調だが、表情は光悦を浮かべていてなかなか難しいことをするなと俺は思う。
「さっき名乗ったような……? 俺はスミタカだ。フローレで合ってるよな?」
「おお……もう狙われているんですね、わたし。……これは夜がたのし……ああ、それはともかくどうしたんですか? お猫様を見せに来てくれたとか?」
「みゅー」
「あら、可愛いですね! ふかふかだし」
三毛猫が自ら撫でられに行き、フローレは目を細めて頭を撫でる。こうしていると可愛い顔をしているんだが……。ん? 長袖のローブから見える手首は妙に細いような……? そんなことを思っていると、ベゼルさんが口を開く。
「いや、さっき眠らせたネーラを起こしにきたんだよ。そろそろ起きるだろう?」
「そうですね、起こしましょうか」
しばらくして、寝ぼけ眼のネーラがやってきて俺を見て言う。
「スミタふぁ……ごめんなふぁい……私が説得するっていいながらこんなことに……」
「全くだよ……生きた心地がしなかったぞ」
「えへー……」
「何笑ってんだ!? ……まあいい、とりあえず話は終わった。たまにここに子ネコを連れてくることになったからよろしくな」
「え!? 私が寝ている間に一体何が……!?」
一気に目が覚めたといった感じのネーラ。それをよそに、ベゼルさんが俺の肩を叩いて笑う。
「さて、それじゃ今日はスミタカの歓迎会といこうか! それとここに滞在するときの家も用意しないとな」
「あ、わたし一緒に行きますー! お猫様と戯れたいですし!」
「お、おい……」
今度はフローレが俺の腕をとって外へと連れ出そうとしてきた。困惑する俺の後ろで、ネーラが口を開いた。
「な、なんでもうそんなに仲良くなってるのよー! 私が最初にスミタカを見つけたのにっ!」
……よくわからない抗議の声を上げて、ネーラは頬を膨らませてフローレを引きはがしにかかる。
そして歓迎会が始まるのだが……
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