八塚 怜
<とりあえずこれで目途はたったか。お嬢はどうするのだ? 力は戻っていないのだろう>
「……そうね。ただ、修君達が行くのに聖女の私が行かないというのもおかしな話じゃない?」
<それはそうかもしれないが、真理愛のように待つと言うのも……>
「真理愛は行くわよ、大人しくしているわけないじゃない」
<むう>
下校中の車の中で怜とスメラギが小声でそんなことを話していた。
しかし口調はいつも通りだが真理愛が向こう側へ行くことについて断言する様子に違和感を覚えるスメラギ。
<(どうしたのだ? 昨日シュウから電話を貰ってから様子がおかしい気がするな。いや、興奮しているだけだろうか?>
怜だけは記憶が戻っていない。
そのことを知っているスメラギ以下全員は『向こう』へ行けば記憶が戻ることを期待しているのではと考えていた。
「……聖剣は向こうで抜けばそのままにしても問題ないからスメラギはずっとドラゴンのまま。良かったわね」
<うむ。他の連中も戻ればいいのだが>
「まあ、国王に報復するのはあなたが居れば問題ないでしょ? 目にもの見せてやるんだから!」
<(報復、か。シュウの話だと、まずは直訴ということだったような気がするが……? どちらにしても向こうへ行ってから、か>
スメラギは怜の張り切りっぷりに呆れながら車に揺られるのだった――
◆ ◇ ◆
「……」
「どうしたの修ちゃん?」
「あ、いや、八塚のことを考えていてな」
「え……」
帰り道、不意に聞かれた真理愛の質問に答えると口を押さえて立ち止まる。ちなみにフィオ達は学校で別れ、今は真理愛と二人だけ。
とりあえず宇田川さんが浮かれているだけかと思ったらブランダも本気で満更でもない感じだったので霧夜と一緒に冷やかしてやった。
それはともかく、真理愛の様子がおかしいので振り返って声をかける。
「どうした?」
「修ちゃん……もう決めたの? 怜ちゃんを選ぶんだね……」
「はあ!? いやいや、そういうんじゃないって。とりあえず目のハイライトを入れよう?」
「あ、そうなんだ? でも怜ちゃんがどうしたの?」
すぐに目のハイライトを復活させた真理愛が俺の横に並んでもう一度聞いてくる。俺は話そうか悩んだが、少しだけ気になることを聞いてみた。
「なあ、今日の八塚なんだか変じゃなかったか?」
「んー、そうかな? わたしはいつも通りだと思ったけどなあ。あ、でもお昼に国王様にスメラギさんを見せて謝らせるんだ! って張り切ってたかな」
「……まあ、言いそうな感じだが……記憶が戻ったのかなって思ったんだ」
「聖女の?」
「そうだ。その話をするってことは記憶があってもおかしくないだろ」
俺がそう言うと真理愛は違うようで、
「戻ってないと思うよ? 魔法の話とか聞いても『知らない』って言ってたもん」
「あ、そうなの?」
ならあの態度は一体……?
まあ、カレンはもうちょっとおしとやかだった気がするから違うといえばそうなんだけど、違和感がある。
「……修ちゃん、やっぱりわたしも行ったらダメかなあ? 年下の結愛ちゃんも行くんだし」
「あいつは魔法が使えるからな。待っていてくれよ」
「なんかもう会えなくなりそうで怖いんだ……最近、変な夢を――」
「変な夢……?」
「あ、ううん、なんでもない! それじゃあね!」
「あ、おい! ……ったく、いつもべったりな癖に肝心な時は口にしないんだよな」
真理愛はさっさと家に入っていく真理愛に口を尖らせながら頭を掻く。
あいつは小さいころから隠し事は本当に隠す癖があるから、強引に聞き出さないと言わないんだよな……小学校のころしれっといじめられていたのを聞きだしたのは大変だった……
「……後で聞いてみるか。あれ?」
電話かメッセージでも使ってやろうと俺も家へ入る。
すると庭から声が聞こえてきたのでそちらへ回ってみると――
「<火の息吹>!」
「おお、流石は私の娘ね。杖無しでも出せるとは」
「へへー、コツを覚えたら意外といけるね」
<やるな、結愛>
「ウルフもバリバリ―って雷出せるじゃない。他の子はできないから凄いわよ」
<ぐぬ……>
<私もできるわよ‟水漣の剣”>
庭に行くと我が妹と母、そして猫が群がって魔法の訓練をしていた。
驚いたことに結愛は普通に魔法を使っていたことだろう。
「すげぇな結愛」
「あ、兄ちゃんおかえりー。見てた?」
「俺も記憶が返ってくるまでは全然だったからすごいと思うぞ」
「だよねー? これなら向こうへ行っても足手まといにはならないかも? あいた!?」
「調子に乗るな、危ないことに変わりはないからな?」
「修の言う通りね。とりあえず今日はこれくらいにしておきましょうか」
調子に乗る結愛の額を突いてやり、母ちゃんを先頭に庭から家へと入る。俺と結愛で猫たちの足を拭いてやり、ぞろぞろとリビングへと向かうのだった。
「そういえばお父さんから連絡があって、仁さん? が土曜日に来るそうよ。そこで打ち合わせて……日曜に決行ってことになりそう」
「……そっか」
いよいよ、か。
気を引き締めないといけないなと思いながら、猫まみれになる俺だった。
◆ ◇ ◆
「はあ……修ちゃんに言った方がいいかな……」
お風呂から上がり、髪をとかしながら真理愛がひとり呟く。そこでベッドに放り出していたスマホが震え出した。
「修ちゃんかな? ……あ、怜ちゃんだ! もしもし、どうしたのー?」
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