二人の行く末
俺が若杉さんに尋ねると、小さく頷いた後に手帳を取り出してから告げる。
「結論から言うと、エリク君とフィオちゃんの身柄はなんとかした。行方不明者、例えば記憶喪失の人が本当に身元が分からない駆け込み寺のようなところがあってね。まずはそこに住んでもらう。で、住所を決めたら戸籍を取って、生活保護を受けてもらう。そこからなんとか仕事ができるようにしてもらえると助かる」
「おお、そこまで!?」
「すごいねー! さすが刑事さん!」
俺と真理愛が驚いていると、若杉さんは手を振りながら苦笑し、俺達へ言う。
「元々、そういう制度はあるんだから僕が凄いって訳じゃない。実際、本当に身元不明人を数人みたことがあるから手間はとらなかった。スムーズにいったのは例の殺人事件でバタバタしていたからってのは皮肉だけど。それじゃ、早速下宿先へ行こう」
「私も言っていいでしょうか? できればこの子達を預かりたかったんですけど、家には部屋もないからお任せする形になりますが」
「母さん?」
「ええ、もちろんです。まあ、いきなりご家庭に預かってもらうのは難しいので、施設に入って貰ってからの方がいいでしょう。では、行きましょうか」
若杉さんが手帳を閉じてから歩き出し、俺達はその後に続いてパトカーへと乗り込み出発する。
「パトカーに乗る日が来るとは……」
「あんたが悪さをして乗ったわけじゃないのが唯一の救いね」
「やめろぉ!?」
母さんが後ろでニヤニヤしながら俺の肩に手を置いて嫌なことを言う。
ちなみに助手席は俺で、霧夜や八塚が来ることを見越して、ライトバンみたいに大きな車で来てくれていたので余裕で乗れた。
しばらく車を走らせると、学校と駅の間にある三階建てのビルに駐車して全員が降りた。
旅館のようにも見えるそこへ入るとどうやらシェアハウスらしく、共有スペースがあり、そこから階段や各部屋に繋がる扉がいくつかあった。
「すみませーん、電話した若杉ですけど」
「はいはい、ちょっとお待ちくださいよ……ああ、お電話をくれた刑事さんですねえ、私がこの家の管理人の比賀だよ。ええっと、男の子と女の子だったかねえ。ほら、こっちにお座り」
「い、いえ、わたしたちじゃないんですけど」
「すまん婆ちゃん、こっちの二人だ」
俺と真理愛の手を掴んで引っ張ろうとしたので、俺がやんわりと言って手を離してもらうと目を丸くして肩を竦めた。
◆ ◇ ◆
「いやあ、まさか外国の子じゃったとは、婆さん早とちりしてしもうたわ」
「はは、僕も詳しくはここに来てから話すつもりでしたからね。ということで、二人をお願いします。連絡先は僕とこちらの神緒さんをお伝えしておきます。緊急時はどちらでもいいので呼んでください」
「私は会社もここから近いので、いつでも大丈夫です」
「そうかい、よろしく頼むよ」
「よろしくお願いします」
「よろしくな婆ちゃん」
母ちゃんが連絡先を渡し、フィオとエリクも頭を下げると、早速部屋へと案内するため移動を始める。当事者ではない俺と真理愛は一番後ろについていたんだけど、真理愛が興味津々といった調子で周囲を見ていた。
「いいなー、わたしもフィオちゃん達と暮らしてみたいな。ネコ飼えないかな?」
「動物はダメなんだよお嬢ちゃん。最近はやっているレジスターとか小さいのでもね」
「レジ……?」
「多分ハムスターだよ修ちゃん」
「あ、ああ……」
全然わからなかった……。レジはでかい。
そんなやり取りをしつつ、二階の隣り合う部屋へと到着すると、今度はフィオが感嘆の声を上げた。
「わあ、綺麗なお部屋ですね!」
「そうじゃろう、いつもきれいにしておるからの」
「隣も左右対称みたいで同じだな。いいのかな、ひとりひと部屋って」
「気にしなくていいよ。ここは君達みたいな訳アリが住んでいるけど、普通の家と同じだ。今は……」
「ふたり増えて全部で五人じゃな。今はアルバイトや学校に行っておるから夜紹介しようかね。ご飯はこの婆が作ってみんなで食べるのじゃ」
「フィオちゃん、遊びに来るからね!」
「うん、真理愛さんが来てくれると嬉しいわ」
真理愛が目を輝かせてフィオの手を取ると、心強いとばかりに頷き返す。……騙されるなフィオ、そいつは遊びたいだけだ。あ、ほら、ポケットからトランプを覗かせてる。
「というわけで、ふたりはまず寝床が用意できた。明日から、役所とかに行くからよろしく頼むよ」
「「はい!」」
俺達が学校に行っている間に済ませてくれるらしいので、ここは申し訳ないけど任せるとする。母さんも連絡先を教えているから、なんかあった時も安心かな?
「さあ、お茶でも出そうかね。ええっと、フィオちゃん?」
「えっと、真理愛です!」
……ま、とりあえず、ひとつはクリアか。向こうは今どうなっているやら……
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