大当たり?


 「サンキュー、おっちゃん!」

 「こんなところに用事かあ? 坊主、あぶねえ真似はすんなよ。親が悲しむぜ」

 「分かってるよ」

 「ぶにゃー」


 スメラギが前足で髭を指すと、かなりの高振動を記録していた。当たり、ってことでいいのかね? タクシーのおっちゃんに手を振ると、港近くにある廃工場へ向かう。

 

 <これは相当な大物が居るぞ>

 「だな……それにしても髭すげえな……」

 

 ゴクリと喉を鳴らす俺。

 トンボの羽みたいな動きでぶるぶるしていて、目にも止まらなぬ速さすぎて怖い……。それはともかく、俺は再び気配を消して工場の柵を飛び越え、中へ入る。


 「見事なまでに廃工場だな。何の工場だったんだろうな……」

 <かなり古い建物だ、買い手がつかなかったといったところだな>

 「こういうのは更地にしておいて欲しいもんだ」


 工場とはいったものの、海沿いに作るにしてはあまり大きくない。横には広いけどこの前行った廃ビルの方が規模としてはでかいと外から見て思う。

 敷地内は荒れ放題、で事務所であろう建物も見える。が、恐らく本命は工場内だろうとシャッターのある正面から、建物の横へ回り込む。


 「どこか入れそうなところは……」

 <む、あそこはどうだ?>


 スメラギが髭を揺らしながら顔を向けた先に、割れた窓ガラスが見えた。しかし――


 「……ちょっと高いな」

 <飛べんのか?>

 「<飛翔ライトウイング>は試してないな、やってみるか……」


 俺は高いところへ飛び移る魔法を使うと、足下から風が巻き起こり体がふわりと浮く。すぐに俺の腕に飛び移ったスメラギを抱えて窓を開けて中へと侵入する。

 薄暗い工場内は物置と化しており、埃の被った資材や機械がそこら中にあった。どうやらここは鉄工所だったみたいだ。


 「……さて、髭の調子は、と……」


 小脇に抱えたスメラギを見るときょろきょろしながら髭を見ると、いつの間にか震えは止まっており、ピーンとどこかを指すように束ねられていた。


 「こっちか」

 <ほう、分かるのか? 勇者の力が戻ってきたようだな>

 「そうだな」


 歓喜の声を上げるぶさ猫に棒読みで答えると、身を低くして工場内を歩く。埃っぽい空気の中、俺達はついに――


 「……八塚!?」

 <お嬢か……!>


 あれは間違いなく八塚だ! それと他にも数人倒れているのが見えた。周囲を見渡して誰もいないことを確認。


 「誰も居ない、か?」

 <何をしている、早く――>

 「早く、何をするのかしら?」

 「……!?」


 不意に、綺麗な女性の声が聞こえ咄嗟に床に伏せて転がる。直後、俺の首があった場所に何かが通り過ぎる音がし、俺は背後の人物に向きなおる。


 <大丈夫か! む!!>

 「チッ、外したか」


 スメラギも俺とは違う場所へ飛びのき、声をかけてくるが立っていた場所に火球が飛んできてそれを回避した。スッと現れたふたりは俺達を見て怪訝な顔で口を開いた。


 「避けた……? ただの子供が? それにそっちのにゃんこは喋っていなかった?」

 「だなあ、どうやらあいつらがしくじったのはこいつらの仕業ってわけだ。アンチ・サイン折を使っているってことは俺達の世界の人間か? ただの子供じゃなさそうだ」


 黒髪ポニーテールで切れ長の目をした女性、それとぼさっとした茶髪の男だった。女性はレイピアのような剣を持っていた。あれで気絶させる気だったのだろう。すると男は魔法の媒介にするための青い石のロッドを肩でトントンさせながら確かめるように言う。


 「……廃ビルのやつらの仲間だな? ここはお前らが来ていい世界じゃねえ、大人しく帰るこった」

 「はあ? んなことしたら俺達が痛い目を見るっつーの! おい、フィオ子供一人だ、さっさと片付けるぞ」

 「悪いけど……折角手に入れた聖女を連れ戻されるわけにはいかない。エリク、援護を」


 ……ん? それぞれの名前を聞いて俺は目を細める。少し記憶を遡り、俺は大声で指さす。


 「あー!! お前等もしかして泣き虫のフィオと牧場の息子のエリクか!?」

 「え!?」

 「な、なんでそれを……!?」

 <いまだ! お嬢!>


 俺の叫びに体を強張らせる二人。

 立派になっているが、俺が住んでいた町の子供だったことを思い出す。確かふたりは同じ歳であの時五歳だった……今の姿は二十かそこらだろう。リアルタイムで成長したようだ。


 「てめえ……何者だ? やっぱ向こうの世界の人間か!」

 「……そうでもあるし、そうでもない……ってところか? 俺は神緒 修。お前達の世界では勇者シュウと呼ばれていた男だ」

 「「!?」」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る